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第七話

「勇者様、お願いがあるのです」


見上げると、勇者は苦しそうな、泣きそうな顔をしていた。

勇者は確か19歳。

フランシス殿下が亡くなった年齢より二つ上だが、駄々をこねたり怒ったり笑ったりと感情豊かだ。

殿下も本当は色々な顔を持っていたのかもしれない。

私が知っているのは微笑んだ顔か困った顔だ。

もっと色々な顔が見たかった。

勇者には色々な経験をして殿下の分も生きてほしい。愛する人と結ばれて幸せになってほしい。

勝手な言い分だけど。


「私が魔王だった事、私がここにいた事は秘密にしていただけませんか?

皆様にも口止めをしていただきたいの」


勇者はくしゃりと顔を歪めた。


「あなたのお願いを聞けば、あなたの側にいてもいいですか?」

「・・・ダメです」

「なら、聞けません」


勇者は硬い声で告げる。私は胸の前で手を合わせ、勇者に懇願した。


「お願いします。私が魔王だったなんて事は、絶対に知られてはならないのです」

「あなたの願いは聞けという。でも俺の願いは聞けないという。そんなのはひどくないですか?」


確かにひどい。でも私も譲れない。


「あなたは、国にとって大切な人です」

「国にとって? そんな事はどうでもいい」


顔を歪め、投げやりな言い方をした勇者。

私は勇者の目を見つめた。


「いいえ、よくないわ! あなたにはこの国にいてほしいの!

他国に行く私のそばになど・・」

「他国に?」


勇者は眉を顰める。

あ、まずいかも。


「どこに行くのですか? なんのために?」

「え、ええと」


矢継ぎ早に言う勇者に、私はたじろいだ。

また広間がヒンヤリと冷たくなってきた。


「まさか」


勇者の声がぐっと低くなった。


「結婚で、ですか?」

「・・・・」


私はつつつっと目を逸らした。

勇者の顔が恐い。

表情のない人形のような顔に目だけが冷たく光る。

魔王降臨したようだ。


「誰のものにもならないと言ったのに、それは嘘ですか?」

「そ、それは精神的なもので、結婚しないとは言ってないけれど」


びゅおおおおおおおっと冷たい風が舞う。

せっかく私が雪とか氷とか消したのに元通りだ。


「結婚するのですか・・、誰と?」

「ええと、これはまだ決定してはいないのだけど」

「誰ですか?」


勇者の声は重く冷たい。

しかも今は宥めてくれるヴィクトルもいない。

どうしよう。なんで私はさっき魔力を使い切ってしまったのか。

魔力があれば逃げれたかもしれないのに。

いや、それよりヴィクトル達と一緒に帰ればよかった。

忘れ物したーとか言って、誰か戻ってこないかしら?


「リディアーヌ様」


勇者の手が私の頬を撫で、上向かせる。

目が合った勇者は微笑んでいた。恐ろしく美しく。


「誰と結婚するのですか?」

「え、と、隣のナボル国の王子、かしら?」


勇者は笑みを深めた。


「ナボル国を滅ぼしましょう」

「なっ! ちょ、ちょっと待ちなさい!」


この勇者、なんて事を言うのだ!

そんな事をすれば国際関係が滅茶苦茶になるし、なによりーー


「勇者の力は国の利益の為に使ってはダメなのでしょう⁉︎

神様に力を与えられる時にそういう制約があるのでしょう?」

「大丈夫です。国の為ではなく一人の女性の為ですから。

大義名分はバッチリです」

「バッチリ、じゃない!

あなたの力は人々を助ける為にあるのでしょう?

滅ぼすなんてダメよ! 絶対にダメ!」


私が怒鳴りつけると、勇者は目を伏せた。


「あなたは俺の言葉を全部否定するのですね」

「・・・ごめんなさい。

でも私が嫁げば、しばらくは和平が守られるのよ。

戦争になれば、大勢の民が苦しむわ。

大勢の人が亡くなって、大勢の人が悲しむの。

私はそれは嫌なの」

「その為にあなたが犠牲になると?」

「犠牲ではないわ。これは義務なの。

私ができる唯一の事なの」


殿下が望んだ平和の為に私ができる唯一の事だ。

私は勇者を見て微笑んだ。

目が合った勇者はくしゃりと泣きそうに顔を歪め、私をかき抱いた。


「あなたは城にいるときもそんな顔をしている時があった。

今を見ていない。遠くを見て、諦めたように笑う。

俺にはそれが耐えられない!」

「ゆ、勇者、さま」

「嫌です。離さない! 俺はあなたを諦められない!」

「ゆ、ゆう」

「リディアーヌ様、お願いです。側にいさせて下さい!

あなたを俺に下さい! その為ならなんでもします! リディアーヌ様!」

「・・・・」


なんでもするなら、まずは離して・・。

勇者にぎゅうぎゅうと抱き締められ、遠のく意識の中、私はそんな事を呟いた。





お読みいただきありがとうございます。

8話がまだ書けてないので間あきます。

申し訳ないです。

次で終わるかな? 長くなるようなら分けるかもしれないです。

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