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第四話

「わ、わたくしは攫われた訳ではありません! だから囚われていたわけでもないし! だから、あなたに助けられたわけでも・・・」


慌てて言い募ると、また広間がひんやりと冷たくなってきた。

勇者の顔が辛そうに歪んでいる。


「あなたは事実を曲げてまで、俺を拒絶するのですか?」


またも、びゅおおおおおおおっと風が吹く。

私は勇者の腕の中なので、風は避けられているが、多分、他の人は凍えている。

私も違う意味で震えている。

勇者の顔は辛そうなんだけど、私を糾弾する様な圧力がある。

先ほどの魔王の様な顔を思い出していた。いつ、魔王が顔を出すか、戦々恐々だ。


「あなたが俺に興味がないのは分かっています。

あなたは俺の事を慕っていると言いながら俺の事を見ていない。

俺に相応しいのは自分だと他の女を牽制するのに、俺が一人でいると俺の事など眼中にないとばかりに見ない振りをする」


うわあ、ひどい女ねえ。

聞いていて呆れるが、勇者が一人でいる時に見ない振りをしていたのは、嫌な女に煩わせたくなかったからよ? 決して、面倒だったからではないわよ。ええ、決して。


「正直に言います。俺ははじめ、あなたの事を疎ましく思っていました」


突然の告白。私はさもありなんと頷いた。

それはそうでしょう。濃い化粧にキツイ香水、派手なドレスの女が突進してくれば私だって嫌だ。


「だけど、あなたが俺を見ていないと気付いてから、なぜあなたはこんな事をするのだろうと興味が湧きました」

「え?」

「はじめは皆の視線を自分に集めたい嫌な女だと思いました。だが、ずっと見ていると、あなたはいつも騒いでいるわけではない」


勇者、魔物退治はどうした? 変な女に構ってないでそっちに集中してよ。


「あなたは俺に関わらない時は物静かで控えめに笑う女性だ。

特にヴィクトルと一緒にいる時によく笑う。

貴族女性にありがちなヒステリーもなく、侍女が茶を溢しても喚いたりしない」

「いえ、そんな事は・・」

「ないと?

自分はヒステリーを起こすと言いたいのですか?

それとも笑わないと言いたいのですか?

それは嘘だ。ヴィクトルといる時のあなたは俺の前とは別人だ。よく笑うし、気を許している」


なんだか、責められてる?

目を伏せているのだが、物凄い視線を向けられているのを感じる。

それと、私たちの周りに魔法の障壁が出来ている様で、ヴィクトルも近づけない様だ。

障壁の外で震えている。


「あなたは俺が王女殿下と一緒にいるとやってくる。

王女殿下が嫌いなのかと思ったが、誕生日に凝った刺繍の手袋やハンカチを贈るぐらいだ。

嫌ってはいないのでしょう」


わあ、誰だ。勇者にバラしたやつ。アンジェリーヌか、ヴィクトルか。


「しかし、あなたは少し前から俺に近寄らなくなった。

ヴィクトルと話していても俺を見ると、スッといなくなる。

俺と王女殿下が話していても気づかない振りをする」


そんなにあからさまだったかしら? ヴィクトル以外誰も気付いていないと思っていたのだけど。


「あなたと話がしたくて、あなたがヴィクトルを探していると聞いて、先にヴィクトルの元に向かった事がある。

でもあなたは現れなかった。俺を避けているのでしょう?」


甘い優しい声で勇者は私を糾弾する。顔を上げてはいけない。

多分そこには魔王がいる。


「俺はあなたに、許しを得ずに話しかけられない。あなたは俺に許しをくれない。

だから俺はあなたの寝室に忍び込んだ」

「はあ⁉︎」


いきなり話がすっ飛んだ。

思わず顔を上げると、笑みを浮かべる勇者と目が合った。

とろける様な笑み。だけど、恐ろしい。


「寝ているあなたはあどけない顔で、とても可愛らしい。

その顔を見れただけで満足だった」


そ、そうですか。満足いただけましたか。それはよかった。


「だけど・・」


だけど⁉︎ 嫌な続きかた。


「起きているあなたは俺を見てくれない。だから王城にいる時は、毎夜毎夜、忍び込んだ」


うぎいいいいいいいいいい。

変態がいます! ストーカーがいますうううううう。

私は顔を引きつらせ、全身に鳥肌がたったのを感じた。


「寝ているあなたは本当に可愛らしい。化粧をしていないし、香水もつけていないからいい匂いがする」


ぎゃあああああああ。

どういう状況⁉︎ 嗅いだの⁉︎ 近づいたの⁉︎ まさか触ったりしてないよね⁉︎

警備いいいいいいい。なにしてたあああああ。


「でも、寝ているあなたは俺を見てくれない。それが段々辛くなった」


当たり前だわ!! 見たら叫ぶわ!!


私の心の叫びに気付かないのか、勇者は辛そうな顔で続ける。


「だから、俺はあなたから離れることにした」

「あ、そうなの」


私はほっと息を吐いた。

よかった。今も部屋に忍び込んでるのかと思った。

私がほっとするのと対照的に、勇者は顔を歪めた。


「あなたを忘れるために、魔物を斬りまくった。

魔族も何匹も倒した。戦っている時だけはあなたを忘れられた」

「・・・・」


情熱的な告白なんだけど、さっきの寝室のくだりが余計だわ。

勇者、恐い。色々な意味で。


それにしても、最近の勇者の目覚ましい活躍は八つ当たりなのね。

休むことなく魔物を倒し、救われた多くの人々から、心酔されている見目麗しい勇者なんだけど、なんかこの本性は隠し通さねば暴動が起こる気がする。








お読みいただきありがとうございます。

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