最終話 帝の犬の契約嫁による健康管理帖
あの新月の夜から、早一週間。
私は無事に矢守秋人との契約婚期間を満了し、実家に戻った。
変わらず、朝から晩まで働いている。
「芹、ついてこい」
「今、お仕事を終えたばかりですが? 秋人さん」
「.....ついてきてほしい」
「素直でよろしい......じょ、冗談ですよ!それで、どちらにです?」
定食屋さんを出ると矢守秋人は偉そうに腕を組んで待っていた。
その姿がふてぶてしく思えて意地悪をした。
「帝が君に話があるそうだ」
「はい?」
何度来ても慣れない帝都御所で、あの夜と同じ畳の間に通された。
滝のように垂らされた大きな御簾の前に矢守秋人と並んで腰を下ろした。
紫詠くんは不機嫌そうに胡坐組み、頬杖をついて御簾の奥を睨んでいた。
「あ! 神子様っ!」
私の姿を見た紫詠くんは先ほどの不機嫌そうな様子が嘘のようにきゅるんと紫色の瞳を輝かせた。
健気な子犬のように私の横に駆け寄り座った。
私は矢守秋人と紫詠くんに挟まれるかたちで帝様がいらっしゃるのを待っていた。
リンッ―。
帝様の到着を知らせる鈴の音が響き、頭を下げた。
「芹、此度はご苦労だった。労をねぎらうのが遅くなりすまない」
「い、いえ!」
緊張する私をよそに紫詠くんは声をあげる。
「ねぇ、いつになったらボクは神子様と一緒に暮らせるわけ?」
「こら、紫詠」
隣の矢守秋人の大きすぎる溜息が聞こえる。
帝様は淡々と言葉を続けた。
「紫詠、蓮華の花の神子と鬼の関係について芹に伝えよ」
「はぁ、また……あのね、蓮華の花の神子様っていうのは、色鬼にとっては救いであり、呪いなんだよ。ボクみたいに神子様が好きな鬼もいるし、嫌いで今にも喰いたいって思ってる鬼もいるよ」
「今後も芹を襲ってくる可能性があると?」
「今度は絶対にボクが守るけどさ、赤と黄……はそうだね。狙ってくるんじゃないかな。白はよくわからないけど。ちなみに緑も黙ってないよ。前回の蓮華の花の神子様をボクから取りあげたのは他でもない緑鬼だからね」
と、言うことは......私はまだ狙われる可能性があるってこと?
それって......。
「一大事じゃないですか!?」
「「一大事なんだ(ってば)!」」
私の迂闊な言葉に矢守秋人と紫詠は声を合わせていた。
「そこで、秋人」
「はい。契約婚の内容を改定し、期間の延長を提言いたします」
「帝としては承認しよう。引き続き、色鬼の討伐に専念するように。あとは芹に今後の判断は任せる」
リンッ――。
帝様が立ち去る鈴の音が聞こえた。
横には私の様子を恐る恐る窺っている矢守秋人。
「芹……」
「神子様……」
そして、捨て犬のような濡れた紫の瞳で見上げてくる紫詠。
この2人、私がそういうのに弱いことを知っててやってるな。
本当に質が悪い!
「わかりました……契約延長引き受けます! その代わり、2人とも健康管理は徹底的に行いますから! 鬼だろうろなんだろうともう関係ありません!」
こうなったら、とことんやってやりますとも。
覚悟しなさい、色鬼たち!




