頼み事は荷が重い!
二人が一礼して部屋から出ていったので、渋々用意されたドレスに袖を通した。しかし、普通に難易度が高すぎた。
まず、どれから着ればいいのか分からないし、とりあえず適当に着たドレスは背中を締められなかった。
そりゃこんな服一人で着るとか言い出したら頭やったのかと思われるわ。
もう寝巻きで過ごそうかと思ったけれど、それはそれで何か問題がありそうなのと、リーシャの設定が崩れて後々の展開に響いても怖いし、私は意を決して服を着させてもらうことにした。
しかし、一度一人で着ると言った以上頼みにくいな。ただでさえこんな複雑な服一人で着るとか言い出した頭のおかしい人間だというのに。……ああ、だから医者を呼ばれたのか。
私はリーシャスイッチを入れる為に深呼吸をしてからドアノブに手をかけたが、腕が思うように下がってくれない。心は出たいのに体が拒否してしまっている。
そりゃそうだ。ぶっちゃけリアルではよく知らない人に、私はリーシャのようにコミュ強人間として振る舞わなければいけないんだから。メイドが快く引き受けてくれることも、別に腹の底で馬鹿にしたりしないとか、そんなこと知ってる。だって私がリーシャに寄り添う優しいサポートキャラにしたんだから。
でも、理解していても考えすぎてしまうのが人間というもの。そもそも、現状私は一人で着れないと分かりきっている服を一人で着るとか言い出した頭のおかしい奴。私はリーシャでいないといけない。なら、リーシャならなんてお願いするか考えないといけない。てかそもそもメイドの名前忘れたから、他の人に会った場合、名前を教えて呼んでもらうことができない。専属メイドを。なんて、他人みたいな呼び方も変だし。
「うう……なんでよりによってリーシャなんだ……。助けてよリーシャ。私にリーシャは荷が重すぎるよ……帰りたい……」
泣きそうになっていると、ドアがノックされた。
「メイナです。お嬢様、問題ないでしょうか?」
メイナ……メイナだー! やったー! 名前思い出せた! そうだそうだ! メイナー!
喜びのあまり体を大きく動かしたら、軽くドアに身体がぶつかってしまった。
「お嬢様⁉︎ 失礼します!」
メイナがドアを開け、バッチリ目が合った。心臓がバクバクした。言わなきゃ。服着させてくださいって。でも、それじゃあリーシャじゃない。リーシャなら……リーシャなら、もっと人を誑し込むような、心に深く入り込むような言葉を紡ぐ。今メイナはゲーム版悪役令嬢全開の我儘リーシャに仕えていて怯えている状態のはず。リーシャのようにメイナに安心感を与えられるように朗らかな笑みを浮かべろ。
「あ、え、あの、その……」
落ち着け。顔を引き攣らせるな。リーシャを真似るんだ。大丈夫、メイナの事は知り尽くしている。怖くない、優しい人間。知らない人間じゃない。さっき必死に考えた言葉を紡げ。柔らかな笑顔を浮かべろ。
「一人で着てみて分かったの。私はメイナにいつも助けられていたって。メイナの助けがないとダメなんだって。メイナ、いつもありがとう。今回もいつものように私を助けてくれない?」
メイナは目を丸くして私を見つめた後、頭を下げ、承知いたしましたと言い、屈んで服を着せていく。
「ありがとうメイナ。あなたのおかげでこんなに可愛くなった」
「……いえ、お嬢様が可愛いからですよ。失礼します」
メイナは一礼して部屋から去っていく。ここはリーシャも引き止めない。リーシャからしても、メイナは初めて会ったよく知らない人間なのだから。




