現実なのは荷が重い!
とりあえず二度寝することにした。学生にとって、休日の朝に起きるというのは、即ち早すぎる起床なのである。もっと太陽が上に昇ってから起きるのが堕落学生の矜持なのである。
それに、もしかしたらこれはかなりリアルな夢なのであって、起きたら元の世界に戻っているということもあるかもしれない。
私は自分のベッドよりも大きいベッドに飛び込み、ふっかふかの布団を被って再び眠りにつく。
「────」
「────」
なんだろう、なんか聞こえる。うっ──眩しい……。
「やはり、こんな時間まで眠っていらっしゃるなんて、何か深刻な病に侵されているのでしょうか? ご自身で着替えをなさるという突飛な事もおっしゃられていましたし」
「検査上は特に問題ありませんでした。至って健康体です」
メイドとスーツみたいな良い服着たおじさんが視界に入った。
ただちょっと昼まで寝たくらいで大袈裟だよ。
薄目を開けて窓の方に目を向けると、太陽は昇るどころか沈み始めているのが見え、慌てて飛び起き、窓を開けて顔を出す。ほんの少し冷たい風が寝起きの顔を撫でる。
ゴルフ場かよと思うほど広い庭が広がり、遠くに湖も見える。その湖に小さな一番星が僅かに反射しているのが目に入る。
──やっべ、寝過ぎた。
そして何より、これは、現実だ。リアルな夢じゃなく、リアルなんだ。
その事実を受け入れると同時に、心に重い鎖をつけられたような感じがした。ここがリアルなら、現実世界にしばらく戻れない、いや、もしかしたら一生ここで暮らす羽目になるかもしれない。その事実がどうにも苦しかった。
そりゃ、テストとか受験とか嫌な事沢山あったけど、それ以上に友達に推しにゲームにアニメに漫画、明日を生きる為の楽しい娯楽が沢山あった。
それが全部無くなるの? お母さんにも、お父さんにも、犬にももう会えないの?
──嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ──
「嫌だ……絶対、帰らなきゃ」
死んだなら多少は納得できたどころか、知ってる世界に転生してまだラッキーだけど、私は死んでない。ゲームのデイリーやらないと。推しのガチャ引かないと。好きな作品がアニメ化したんだから見ないと。友達と旅行に行かないと。イベントに参戦しないと。私には、やりたいことが沢山ある。寝て起きたらこの世界だった。つまり私は死んでない。死んでないなら、絶対に帰る方法がどこかにあるはず。来れたんだから帰れるはず。絶対に見つける。
「お、お嬢様……お、お加減の方はいかがでしょうでしょうか?」
後ろを振り向くと、体をこわばらせ、緊張した面持ちのメイドと観察するように私を見ている医者と思わしき男性が私を見ていた。
帰る方法が見つかるまでは、とりあえず私はリーシャでいないと。変に物語を崩してしまったら、上手くできる自信がないし。
私は深く深呼吸をし、スイッチを入れる。
「あの、えっと、少し寝過ぎたみたいです。あーその、その、問題ないで──いや、ありません」
日頃から丁寧な言葉なんて使ってないからスラスラと言葉が出てこないよ〜。しかも丁寧じゃなくて貴族っぽい言葉にしないといけないし。貴族っぽい言葉ってなんだよほんと!
「ですが、その、申し訳ありませんが、顔色が優れていないようで」
「……自分でも寝過ぎてしまった事に焦ってしまっただけです。だからその、だいじょ──問題ありません。すみません、着替えるので一人にしてもらってもよろしいでしょうか」
そしてこのスイッチを切らせてくれ〜。




