メイドに世話されるのは荷が重い!
とりあえずなってしまったものはしょうがない。幸い私には知識がある。しかも読者ですら知らない詳細な設定の知識まで持っている。
そもそも、ここは乙女ゲームの世界ではなく、私が書いた悪役令嬢物の世界。リーシャのように努力しなければ断罪されるなんて展開は私には用意されていないはず。それに乙女ゲームの方の設定は対して練っていない。あくまで要素の一つでしかないんだから、どうにでもなるはず。
そんなことより、現実世界に戻る事を考えないと。死んでもないのにどうして転生しているのか。いや、死んでないから転移になるのか。……もしかして、寝ている間に心臓発作とかで知らぬ間に亡くなったとか⁉︎ 健康優良児の私が⁉︎
「て、ないない。……ところで、どこまでの設定が反映されているのやら……」
作中に出てきたものなのか、プロットに文字起こしした物までなのか、はたまた文字起こしはしていないものの、頭の中で確定させた設定まで有効なのか。……分からない、不明だ。調べようにも幼少期時代だと調べられる設定にも限度がある。
腕を組んで唸りながら頭を悩ませていると、ドアノックの音が部屋に響いた。
「何? ……あ、いや、どうぞ」
反射的に発した言葉をすぐに修正する。私は今リーシャなのだから、リーシャになりきらなければ違和感が出るはず。
部屋に入ってきた灰色髪に黄色目の、メイドにしては明らかに若いし、どう見たって主要キャラもしくはサブキャラの見た目をした女性が入ってきた。そういえばリーシャの良き理解者枠で若いメイドキャラ作ったなって記憶はあるし、それなりの背景設定を覚えてはいるが、名前が一切思い出せない。何せ学園編以降、扱いが難しくて殆ど出していないキャラなのだから。
てかそうだ! 時系列が斬首シーンじゃないから今ストーリーどこなのか分からないじゃん⁉︎ ちょっと待って、リーシャがメイドに名前聞いた後に転生したならやばい。また名前を聞く変な奴になってしまう! リーシャなら耐えられても私の陰キャメンタルは耐えられない!
「おはようございますお嬢様。お目覚めになられていたのですね。遅れてしまい大変申し訳ございません。不躾なお願いで申し訳ありませんが、お召し替えを行ってもよろしいでしょうか?」
うん、しかし声が聞こえた事で確信した。私が知っている声優の声をしている事から、彼女はモブメイドではなく、明らかに私が創った名持ちメイドキャラだ。この先付き合いが長くなるんだろうな。書いてた時は割と短い付き合いだったのに。
「お嬢様?」
「え、は、あえ⁉︎」
メイドが怪訝そうな目で私を見ていて心が痛い。悪意はないし、嫌っていないって分かっていても陰キャにその顔は攻撃力が高すぎる。
「あの、お召し替えの方よろしいでしょうか?」
お召し替え……お着替え……え⁉︎ メイドにやってもらうの⁉︎ いや、たしかに書いたよ⁉︎ リーシャの世話は基本全部メイドがサポートしてたよ! え、つまり私もそうなるって事⁉︎ 今後、着替えもお風呂もずっとお世話してもらうの⁉︎ いくら私の体じゃないからって羞恥心で死ぬ。リーシャなら、リーシャならなんて断る? 私は作者だ。リーシャのセリフの一つや二つ、思い出す事も作る事もできる。
「も、もう一眠りするので、その、あの、き、着ぎゃえはそこに置いておいてください」
か、噛んだー! こんなのリーシャじゃない! リーシャじゃないよ! リーシャはもっと余裕あるキャラなのに! ほら、メイドもあまりのヘタレっぷりに驚いた顔してるじゃん。
「ご自身でなされるのですか? その、何か気に入らないことでもございましたか?」
「い、いえ、わ、私も成長の為、一人でできることを増やそうと思って……のことです」
セリフって、違和感ないスピードで出そうとしたらこんなに大変なんだね。私がリーシャをキャラ崩壊させない為に一セリフ考えるのに何分もかけていた言葉を一瞬で出さなきゃいけないもんね。そうだよね。……乙女ゲームの悪役令嬢に転生したリーシャは凄いなほんと。一瞬で貴族言葉喋れていたんだから。尊敬するよリーシャ。私が創ったキャラだけど。
「そ、それではお召し物はこちらに置かせていただきます。何かお申し付けがございましたらすぐにお声がけください」
メイドは不安そうな表情を浮かべ、手を震わせながら着替えをチェストの上に置き、涙ぐんだ目を隠すように、一礼した後早足で去っていった。
リーシャとの初対面を済ませていたらあんなに不安がることないはず。それに、名前じゃなくてお嬢様呼び。てことは、今ストーリー的には一話中盤。斬首後の転生になるのか。ラッキー! 斬首だけ逃れられてのスタートだからストーリー把握簡単にできる! リーシャの言動なぞっておけばストーリー通りに展開するだろうし、喋る時の自信の無ささえ改善できればとりあえずはどうとでもなるでしょう。エタっているとはいえ、学園編の途中までは書いているし、ある程度の今後の展開は練っているから問題ない!
「あとは元の世界に帰る方法を見つけるだけだ! やるぞー!」




