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迷宮救命士 ~お前ら無茶しやがって~  作者: 星野サダメ


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8 初出勤

 8 初出勤


 意識を眠りの世界から強制的に引き上げる不快な機械音、だが懐かしい音が聞こえる……。

 寝起きのぼんやりとする頭のまま、ベッドの端に手を伸ばし、その音の発生源である目覚まし時計のアラームを止めた。

 時刻は午前6時、ベッドから身を起し、身支度をのそのそと始める。


 昨日は今井さんから単身寮を案内してもらった後に、最寄りのドラックストアとホームセンターへ2人で行き、当面の生活に必要な品々を購入してもらった。

 立て替えてもらった代金は、巨大クモの魔石の買取金額から引いてもらうことになっている。

 ちなみに買い物の後、今井さんは仕事へ戻って行った。


 さて、朝食のために食堂へ行き、初対面となる職員の方々と会うことになる。

 昨日の夕食は、職員の方々が寮へ戻って来る前に頂いたので、食堂の方々としか会ってはいない。


 身支度と着替えを終え、緊張しながらも気合を入れて、ドアノブに手を掛けようとしたところで、ふいにドアがノックされた。

 突然のことに驚いたが、気を取り直しドアを開けて対応をする。

 ドアの前には、赤髪の20歳ほどに見える女性が立っていた。

「あっ、初めまして。君がアンリちゃんだね?」

「は、はい……。おはようございます。アンリです」

「うん、おはよう。うちは保安警備課保安係の吉田朱里、アンリちゃんの教育係というかお世話係になる予定。あっ、ちゃん呼びでも良かったかな?」

「お世話係ですか……。よろしくお願いします。それとちゃん呼びで大丈夫です」

「よかった。うちは朱里で良いからね。それじゃ朝食に行こう」

 朱里さんは、長身でショートカットのアスリートのような人だ。

 話しやすそうな穏やかな雰囲気がある。


 食堂に入り、朱里さんと同じテーブルに着いて朝食を頂く。

「少しだけど、今井さんから話は聞いていて……、記憶がないって大変だよね……。うちには想像ができない辛さがあるんだろうな……」

「元々が楽観的なのかあまり苦には感じていないですね。でも、これから知らないことやわからないことが出てくると思うので、そこを心配しています」

「そっか……。定番のようなことしか言えないけど、わからないことは何でも聞いてね。うちもまだまだだけど、なんとかなるよ!」

「それと何か常識と違うことを言ったり、やったりしたら教えてください。常識についても不安なんですよね」

「わかった。気にしておく」

 そうして朝食を終え、朱里さんと支部へ向かう。

 ちなみに服装は、私にとっての戦闘装備、この世界的には探索装備で良いそうだ。


 支部にある保安警備課のオフィスに入り、朱里さんからオフィスの品々などのことを聞いていると、今井さんが出勤し、間もなく始業となった。

「アンリさん、早速ですが勤務内容の話です。今日からしばらくは保安係の吉田さんに教育係をお願いしますので、その指示に従ってください。それでこちらが保安係の係長の藤波さんです」

「保安係の藤波光彦です。よろしくお願いします。アンリさんの勤務時間は、体調のことや勉学のことがあるとのことで、しばらくは午前中のみです」

「よろしくお願いします。勤務時間の配慮、ありがとうございます」

 藤波さんは、30代半ばの紫髪の男性で、少し気難しそうな雰囲気のある人物の印象だが何とかなるだろう。

 続いて、今井さんからいくつか支給品を渡される。

「これがアンリさん用のスマートデバイスとフロートカメラです。しばらくはゲスト用の物になりますが、基本的には職員用と同じですので、使い方は吉田さんから聞いてください。それとこちらが腕章です。迷宮のあるホールや迷宮内にいる時は必ず身に着けてくださいね」

 スマートデバイス……、確かこちらへ転移した直後に長谷川さんからこれの有無を問われた覚えがある。

 薄い板状の精密機器らしく、私の知っているスマートフォンに似ているがどうなのだろう……。

 ちなみにネックストラップが付いており、首から下げて使うようだ。

 フロートカメラは、テニスボールにカメラが付いたような品だった。

 こちらは見覚えのない品なので、何に使う物なのか興味深い。

 腕章は、職員であることを示す物のようだ。


「後は吉田さんにお任せします」

「はい。お任せください」


 それからオフィス内の応接スペースへ移動し、支給された品々の話を朱里さんから聞くことになった。

「まずはスマートデバイス。プライベート用は皆さん持っているんだけど、公務中は支給品を使うんだよね。んで使い方なんだけど……」

 スマートデバイスは、前世のスマートフォンとマイナンバーカードを足して、さらに高性能にしたような品だった。

 スマートフォンの基本的な機能は当然として、個人情報の管理や照合、さらに身に着けているだけで電子決算などができる。

 また、公務中は、イヤホンマイクを身に着けて、いつでも通信ができるようにするとのことだ。


「この中にダンジョン探索者専用のアプリケーションも入っていて、うちらもそれを使うんだ。これをこうして……」

 一般用の支部の出入り口には、鉄道の改札口のようなゲートがあり、スマートデバイスを身に着けていないと通れない。

 またダンジョン内で集めたドロップアイテムの換金も支部内のカウンターでできるそうで、その時の決算もスマートデバイスで行うことになる。

 さらに首から下げて、装備の中に入れておくとバイタルチェックもしてくれるそうで、負傷し救助が必要な時は地上へ救難信号を自動的に送ってくれるとのことだ。


「他にもいろいろできるんだけど、このスマートデバイスを身に着けておくと、ダンジョン内で転移と亜空間倉庫の疑似スキルが使えるんだよ。でも本物のスキルじゃないから限定的なんだけどね」

 ダンジョン内1階には、10階、20階、30階、40階、50階のそれぞれに通じる転移魔法陣があり、それを使って各階層へ転移できる。

 だが、転移魔法陣を使うには、スマートデバイスの中にある探索者用アプリケーションの操作をしなければならず、その操作を支部内のカウンターにいる職員がする必要がある。

 その転移魔法陣の使用条件の解放は、特定の課題を達成することでできるそうだ。

 ちなみに10階までを浅層、20階までを上層、30階までを中層、40階までを下層、50階までを深層と呼び、それ以降は最深層と呼ぶ。

 この転移魔法陣の配置や呼び方は世界標準だそうで、世界中にあるどこのダンジョンも50階までは、魔物の種類が変わってもほぼ同じ脅威度の魔物が出現するそうだ。

 だが50階以降は、難易度があがり、ダンジョンそれぞれの個性が強く出てくるので、安全の為に転移魔法陣は50階までにしか設置をしていない。

 また、多摩迷宮の最高到達階層は、66階だそうだが、世界中にあるダンジョンの中で完全攻略されたダンジョンの方が珍しいらしく、特に気にすることでもないらしい。


「後は亜空間倉庫の使い方なんだけど、地上に出ると中から出せなくなっちゃうから、ダンジョン内1階でドロップアイテムを持ち込んだバッグとかに入れ替えるのが常識になってる」

 なるほど、転移魔法陣がダンジョン内1階にある理由もスキルが地上で弱体化するからなのだろう。

 それにスキルの亜空間倉庫よりも疑似スキルらしく収納量が少ないが、使えないよりははるかに良い。


「さて、次は、このフロートカメラ。これはダンジョン内でスマートデバイスと連動させて使うのだけど、一言で言うと監視カメラね」

 支部の地上部分には、建物内に設置された監視カメラがあるのでトラブルがあってもほぼ対応できるが、ダンジョン内となるとそうはいかない。

 ダンジョン内でのトラブルは、負傷者どころか死者まででる可能性があるので、ある程度の監視が必要となるそうだ。

 とは言っても、職員だからと言ってダンジョン内の全てを監視できるはずもなく、浅層のみをパトロールして初心者や練度の低い者たちの助けをする程度になるそうだ。

「なるほど。それは必要な業務ですね」

「うちらって、入省すると半年から1年近く訓練をするんだよ。だからそこそこは皆、戦えるからトラブル解決もうちらのお仕事ってこと」

「わかりました。私も戦闘をするつもりでいます」

「まあ無理はしないでね」

「はい。ダンジョンの中は危険ですから無理はしません」

「うんうん。あ、今までも言ってたと思うんだけど、うちらって迷宮のことをダンジョンって呼んじゃうんだよね。迷宮呼びの時もあるけど、世界的にはダンジョンって呼び方が主流なんだ。でも省内の文書では迷宮って書いているから、一応覚えておいてね」

「はい、わかりました」

「それじゃ、そろそろ行こう!」


 こうして勤務のための準備を雑談を交えながら終え、いよいよ業務へ向かうことになった。


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