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迷宮救命士 ~お前ら無茶しやがって~  作者: 星野サダメ


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7 嘱託職員

 7 嘱託職員


 病院からの退院の手続きを、迎えに来てくれていた今井さんと終える。

 多摩迷宮支部に戻り、最初に通された応接室に案内された。

「今朝、警察から連絡がありました。行方不明者のリストにアンリさんと特徴が一致する人物の情報はなかったそうです」

「そうですか……」

 むしろ特徴が一致する人物がいたなら大問題なので、一安心だ。

 だが、ここはうつむいて哀しい演技をしなければならない場面である。

「警察や病院で、アンリさんの身元に繋がる何かが見つかっていたなら良かったのですが残念です……。それで今後のことなのですが……」

 それから、今後についての話を聞かされる。

 警察による身元の照合の結果、何もわからなかったが逆に何かの犯罪や事件に巻き込まれた可能性も低くなったので、このまま社会復帰と言うべきか、社会に馴染むことになるようだ。


 そこでまず、私の個人情報の設定となる。

 病院の診断結果から、私の年齢が16歳から18歳と推定されたので、中を取って17歳とされた。

 誕生日は私がダンジョンの入り口前に転移をして現れた日、4月14日となるそうだ。

 どうやら春の季節に転移したらしい。

 名前は、便宜上、苗字の設定が必用とのことで、これは後でじっくり考えることになった。

 戸籍などの問題は、記憶が戻る可能性があるので3か月ほど様子を見てから就籍の手続きを開始することになるらしい。

 就籍とは無戸籍の者が、新たに戸籍を取ることを言い、戸籍がないと様々な場面、具体例では銀行口座が作れないなどの不便があるそうだ。

 また就籍の手続きには、早くても半年、長ければ1年以上の時間が必要となるらしい。

 戸籍については苦戦をする予想をしていたが、公の組織である迷宮省が後ろ盾になってくれるのなら、何とかなりそうだ。


 続いて、私をこの多摩迷宮支部が保護をしてくれると言っても体には異常がなく健康と診断されているので、嘱託職員、あるいはアルバイトスタッフとして働くことになった。

 今の段階では何ができるのかがわからないので、まずは今井さんの下でダンジョンの警備を担当することになる。

 これには魔力外来の田村医師の意見が参考にされ、過去の自分に繋がる行動や場所などに行くことで記憶が戻る可能性があるとのことだ。

 住処は、支部職員が入居する単身寮があるので、そこに入居することになった。

 そして給金なのだが、体は健康でも記憶の問題があるので短時間の勤務を想定しているそうだ。

 そうなると単身寮に住むとしても1人で暮らせるほどの給金が出せるか難しいところだそうで、生活保護の申請を出すとのことだった。


 生活保護か……。

 本当に必要な人が受けるなら問題はないが、記憶を失った演技をしている私が受けることには抵抗がある……。


「あの…、これを換金できるのでしたら、生活費の足しにできると思うのですが……」

 おもむろに亜空間倉庫を開き、中から巨大クモがドロップした拳大の魔石をいくつか取り出す。

「えっ、今のは亜空間倉庫のスキルですよね……。しかも地上で展開できるなんて……、わかる範囲でかまわないので説明をして頂けますか?」

「あ、はい」

 入んしている間の3日間、私はただ言われるがままに検査を受けてベッドに転がっていたわけではない。

 この地球世界の様子を知るための情報収集に勤しんでいたのだ。

 とは言っても、やみくもに何でも良いからと情報収集をしたなら混乱するとも考えた。

 そこで今の時点では私と最も縁のあったダンジョンに関する情報を優先して集めることを決める。

 そうして、病棟の談話室に置かれてあった雑誌の中から、ダンジョン関係の物を見つけ、熟読していたのだ。

 そんな雑誌たちの中にスキルについての記事を見つける。

 スキルは基本的に地上で効果が10分の1以下になるらしく、ダンジョン内でファイアーボールを使えても、地上では指先からライター並の炎をだせる程度になるらしい。

 これは、ダンジョン内と地上の魔力濃度の違いが原因とされているようだ。

 確かにダンジョン内の魔力濃度は異世界と比べて遜色はないが、地上の魔力濃度は薄く感じる。

 そしてダンジョン内では、基本的に銃火器のような魔力を帯びていない武器はほとんど役に立たない。

 だが、スタンピードの時に地上へ出た魔物たちは魔力濃度の低い地上にでると弱体化するので、銃火器が有利に使えることになるそうだ。

 神的な存在が作り出したダンジョンなのかもしれないが、なかなか良く出来た設計だと感心してしまった。


 だが、本来なら地上で弱体化するはずの魔法を私は自由に使うことができる。

 と言っても、やはりダンジョンの魔物同様に弱体化はしているようで、ダンジョン内よりは地上で魔法を使うと魔力の消費が激しくなるが精霊種となっているからか、私には微々たる差にしか感じない。


 また雑誌の中には、レアスキルランキングのような企画コーナーがあり、そのランキングの上位に、亜空間倉庫、転移、鑑定のスキルを見つけたのだ。

 どのスキルも100万人に1人、持っているかどうかの本当に珍しいスキルらしいが、私はこの3つのスキルと言うべきか魔法を習得している。

 というわけで、そんな珍しいスキルの1つ、亜空間倉庫が使えることを今井さんの前で見せたのだった。


 では本来なら地上でほとんど使い物にならないスキル、中でもレアスキルとされる亜空間倉庫を今井さんへ見せたことには明確な理由がある。

 それは今井さんに私が『生きる魔石』と言われるほどに内包魔力量が多い特殊体質であり、その影響で魔法を地上でも自由に使えるのだと思い込んでほしかったのだ。

 また亜空間倉庫を選んだ理由は、そのレアリティー性から強いインパクトも与えられると考えた結果のことだ。

 こうしておけば、いざと言う時に地上でも魔法を使えるし、頼れる人が今井さんしかいない現状、秘密の共有をして関係性を強めておきたかった。


「なっ、なるほど……。言われてみれば髪の毛1本でも並の魔石よりも魔力濃度が高いのでしたよね……。確かにそれなら地上でも存分にスキルを使うことができる理由になります」

「そういうことです。それでこの魔石たちなのですが、どれくらいの価値になるのでしょう?」

「えっと、ここまでの大きさの魔石は資料でしか見たことがありませんが、10万円…、いえ最低でも50万円からでしょうか。これを2つ納めてもらえるのなら1年間の寮費と光熱費は頂けませんね。さらに納めてもらえるのなら、適正価格で買い取らせて頂きます」

「では、6つ納めるので就籍の手続きも今から始めて頂けますか?」

「それはかまいませんが、記憶を取り戻しても元の戸籍には戻れなくなってしまいますよ?」

「こういうことを言うべきではないのかもしれませんが、失った記憶を全く取り戻せるとは思えないのです。それなら今の時点から就籍の手続きを始めた方が良いと思いました」

「そうですか……、わかりました。ではこの魔石は、こちらで引き取って諸々の経費に使わせて頂きます。まだ魔石があるようですがどうします?」

「ではさらに2つ、こちらは買取でお願いします。生活に必要な品が何もないので……」

「それもそうですよね。明日にでも現金を用意いたしましょう」

「これ以降は、嘱託職員として働かせて頂けることが本当にありがたいので、そちらの給金をお小遣いにします」

「わかりました。それならこれはどう思いますか?」

 そうして今井さんは、1つのパンフレットを取り出す。

 それは高等学校卒業程度認定試験、いわゆる高認の案内だった。

「アンリさんは、病院での検査で中学卒業以上の学力があると判断されています。今後のことを考えてこれを受けてみてはどうでしょう?」

 今の私は中卒どころか義務教育を受けた形跡すらない。

 それにこの試験の勉強をする中で、今の地球世界の状況を知ることもできるので、悪くはない提案だ。

「過去がなくても未来は作れるんですよね。ぜひ受けてみたいと思います」

「それは良かったです」


 話し合いはここまでで、それから単身寮へ案内される。

 支部から歩いていける距離にある単身寮は男女に分かれて2棟あった。

 1階にランドリースペースと食堂があり、ここで朝夕の食事を出してくれるそうだ。

 そうして2階に昇り、私が入居する部屋へ案内される。

 1DKの部屋には、すでに家電があり、ベッドも置かれていた。

「すぐに入居できるように手配をしておきました」

「ありがたいです。これからよろしくお願いします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 こうして私は多摩迷宮支部の嘱託職員として働くことになったのだった。


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