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迷宮救命士 ~お前ら無茶しやがって~  作者: 星野サダメ


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6 生きる魔石

 6 生きる魔石


 迷宮省の職員と言う今井美和さんと青紙の中年男性に連れられ、多摩迷宮支部の建物内を移動する。

 建物内の雰囲気は、大型の多目的ホールに近いかもしれない。

 道中で青髪の中年男性の名前が長谷川さんだと教えられ、ダンジョン入り口の警備を担当しているとも知らされる。

 また今井さんは、保安警備課の課長だそうで、20代後半から30代前半に見えるのに、なかなかのキャリアの人物だった。

 そうして応接室のような部屋に案内され、間もなく警察が来るだろうから少しこの部屋で待つように言われる。


 さて、この待ち時間の間に私の設定を考えなければならない。

 記憶に問題があることは、すでに話してあるので記憶喪失の設定は確定だ。

 脳細胞を総動員して、記憶に関する知識を呼び起こす。


 記憶には様々な分類があるのだが、大きく分けて主に5つがある。

 1つ目は短期記憶、文字通りに短期間の記憶である新しい情報や最近の出来事のことを言う。

 今日の日付や曜日、食事の内容がこれになる。

 2つ目は長期記憶、自身の人生を作った様々な出来事などの記憶のことを言う。

 子供時代のことや仕事のこと、家族のことなどが当てはまる。

 3つ目はエピソード記憶、体験した様々な出来事であるエピソードの記憶のことを言う。

 仕事で体験した大きなプロジェクトや食事を食べたかどうかなど、大きなエピソードから小さなエピソードまで、体験した全てのことが記憶となる。

 4つ目は手続き記憶、自然と体が覚えている日常作業や仕事の作業などの記憶を言う。

 頭で深く考えなくてもできる基本的な料理の作り方や楽器の演奏方法などのことになる。

 5つ目は意味記憶、文字通りに言語の意味についての記憶を言う。

 様々な言葉や名称がこの記憶になるので、言語全体に関係がある。


 記憶は繊細な領域であり、重複するようなところもあるが、こんな感じだったはずだ。

 私の設定は、日常生活に困らない程度に道具の使い方や名称などを知っており、母国語は日本語とする。

 さらにダンジョンから現れたのだから、多少は武器を扱え、魔法も少しは使えることにした方が良い。

 なるほど、整理をしてみると手続き記憶と意味記憶は正常とするべきなのだとわかる。

 短期記憶は、転移した時に異常を起こしただけで、その後は正常とするべきだろう。

 問題は、長期記憶とエピソード記憶か……。

 長期記憶の領域では、両親の事、友人の事、住んでいた場所、通学していた学校など、これらの記憶を失っていることにする。

 また、私の外見年齢は10代後半なので、職歴はないと考えた方が無難だろう。

 エピソード記憶の領域では、長期記憶に紐づくあらゆるエピソードと、ダンジョンになぜいたか、どうやって入ったか、何があったかなどの記憶を失っていることにする。


 基本的にはこれで良いとは思うのだが、現代社会で生きていたのなら、学力に繋がる知識をどうするかも問題だ。

 異世界で300年ほども暮らしていたなら、地球世界での記憶や知識なんて忘れていそうにも思われるが、案外そうでもない。

 実は日本語と英語は、異世界で暗号や私的な記録に使っていたので、国語系と英語系は問題はない。

 また魔王軍四天王なんて立場にいると、計算も必要になるので数学もそれなりに覚えている。

 さらに魔法やダンジョンのある不思議な異世界と言っても、基本的に物理法則や生物の在り方は同じだったので理科系も大丈夫だ。

 そして残るは社会系の知識なのだが、いつ頃からダンジョンがあるのかはわからないが、歴史や地理の知識は壊滅している可能性が高い。

 また公民系となる倫理、政治、経済、法律なども壊滅だろう。

 さらに経済が壊滅と慣れば、情報系の知識も壊滅だろうし、他にもいくつかの学問が壊滅していることが予想できる。


 こうなると主要教科の内、4教科はわかるがなぜか社会系が謎にわからない設定にするしかない。

 あとの知識は、知っていそうなら思い出したと、ごまかすしかないのだろう。


 勝負の時だと気を引きしめながら、脳内会議を終えた頃に今井さんが男女2人の警察官を連れて現れた。

「アンリさん、お待たせしました。こちらが多摩迷宮特区警察の方々です」

「わからないことだらけですが、よろしくお願いします」

 それにしても、この多摩迷宮周辺は、特区として扱われているようだ。


 そうして警察官による事情聴取が始まった。

 これでも姿を魔法で変え、人族の大陸へ何度も潜入をしていた経験があるので、演技はそれなりにできるつもりだ。

 とは言っても、答えは基本的に『わからない』となる。

 名前はアンリのみ、住所不明、年齢不明、家族のことや生活環境のこともわからず、気が付いたらダンジョン入り口前に転移していたと言うだけ。

 お手上げ状態となったところで、女性の警察官から、軽く身体検査を受けることになった。

「この服装は、間違いなく迷宮探索の装備のようですね……。ん、この刀は何でしょう?」

「迷宮内で手に入れた刀なのかもしれません。何となく銘が荒苦寝だとわかります。持っていてはいけない物でしたか?」

 そう、銃刀法についても考えていたのだが、今井さんも長谷川さんも私の腰に帯びた刀について、何の反応も示さなかったので気になっていたのだ。

「特区の中でなら武器を所持していても問題はありません。特区から出る時は検問所で預けられますよ。特区の外では銃刀法が適応されますから外へ持ち出す時は手続をしてくださいね」

「なるほど……。わかりました」

 銃刀法が適応されないと言うのはどうかと思うが、それほどに危険と隣り合わせの特区と言うことなのだろう。


 それから私を身元不明者として登録し、全国の行方不明者のリストと照合することを伝えられた。

 3日程度でAIが照合し、今後のことはその結果次第となるそうだ。


 警察官が引き上げると、今度は特区内にある総合病院へ連れていかれた。

 支部の公用車で移動したのだが、私の知る自動車と基本的な構造は同じようだった。

 だが、ところどころに使われている素材に違和感があったので、やはり私の知らない歴史を歩んだのかもしれない。


 特区内の総合病院に到着すると、魔力外来と言うところで医師が診てくれることになった。

 待合室にいる間、私は地球の人間、私は地球の人間、外見はこのままで中身は地球の人間……、と心の中で念じ続けた。

 結果がどうなったかは、わからないが少し体の動きが鈍くなった気がするので、地球の人間へ変化したかもしれない。


 それから診察室に入ると、問診が始まり、基本的には警察官へ話した内容と同じことを話した。

「なるほど……。全生活史健忘の可能性がありそうですね。問診によると重度の魔力汚染が原因と考えられますので3日ほど入院をしてもらい、精密検査をしっかりしてみましょうか」

「それで何かがわかるのでしたら、よろしくお願いします」

 ちなみに全生活史健忘と言う症状は『私は誰? ここはどこ?』状態の記憶喪失のことを言うらしい。


 それから入院の手続きを終え、検査が始まった。

 そして、血液から心電図、レントゲンやCTなどの検査を受ける。

 問診前に念じていたおかげか、基本的に地球の人間の範囲の結果が出ているようだ。

 これには精霊種になっておいて本当に助かった。

 ちなみに私の血液型はA型らしい。

 少し気になったことと言えば、体内の内包魔力量の検査では、ざわついていたようだったが、そういうこともあると割り切ることにした。

 それからも、ついでのような流れで学力と運動能力も検査される。

 学力は予定通りと言うべきか、主要5教科の内、社会系以外はそれなりに解答し、社会系は壊滅状態となった。

 運動能力の検査では、事前に平均スコアを聞いて、それよりも少し高くなるスコアになるように調整して終わらせた。

 この結果がどう判断されるのかはわからないが、やれることはやったと思うことにする。


 そうして3日間の入院生活の末に出た結果は予定通りと言うべきか『重度の魔力汚染による全生活史健忘』と診断された。

 原因は重度の魔力汚染と言うことなのだが、肝心な体内の内包魔力量の測定結果は、測定不能との結果が出ている。

「医師の立場で、こういうことは言うべきではないのですが、アンリさんは生命活動をしていることが不自然なほどの魔力汚染の状態と言えます。それなのに身体は健康そのもので影響は記憶のみと言うことが不思議です……」

「そ、そうなんですか……」

「そうなんです。並の魔石よりも体内の内包魔力量が多いんです。言わば『生きる魔石』ですね」


 ちなみにこの担当してくれた田村と言う名の医師は、魔力汚染の専門医だそうだ。

 異世界では魔力汚染と言う症状について聞いたことは無かったが、地球世界では専門医がいるほどに知られている症状らしい。

 また私の白髪については特に気にするようなことではなく、ダンジョンに何度も入っていたり、スキルカードを何枚か使うと誰でも髪色が変化するそうで珍しいことではないと言われた。

 この現象は無害な魔力汚染の代表例だそうで、ダンジョンに関わる者のほとんどが髪色がカラフルになっているらしい。

 私の場合も、ダンジョンコアから魔力を奪った影響なので、魔力汚染と言えばそうなのだろう。

 少し面白かったことは、私の体は魔力汚染の研究対象として、かなり有意義な存在らしく、定期健診に来てくれるのなら今回を含めて今後しばらくの医療費を免除してくれることにもなった。


 こうして私は、医療関係者から『生きる魔石』と呼ばれるようになるのだった。


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