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迷宮救命士 ~お前ら無茶しやがって~  作者: 星野サダメ


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3 精霊化と見知らぬ洞窟

 3 精霊化と見知らぬ洞窟


 意識が暗闇から浮上する。

 瞳を開くと、人工物ではなさそうな岩の天井が目に入った。

 どうやら気を失っていたらしく、体を起こして周辺を見回すと洞窟の中にいるようだとわかる。

 あちらこちらに光を放つキノコやコケが生えているようで暗闇と言うわけではないが、そもそも私は夜目が利くのだ。

 それにしても、なぜ洞窟の中にいる?

 私が転移先に設定した座標は、東京の多摩地域にある森林部だった。

 密かに誰にも知られず転移する場所として森林部が最適だと考えたのだが、座標を間違えたのだろうか……。

 だが街中に出現するよりはましだろうし、森林部にだって洞窟くらいはあるかもしれないのでこれはこれで良しとした。


 続いて全身に異常がないかを確認する。

「えっ、ない!」

 とんでもないことに角や翼に尻尾がないのだ!

 驚きのあまり声が出てしまったが、この現象に心当たりはある。

 早急な結論を出す前に、さらなる確認を続けた。

 体内の内包魔力量は大幅に増加しており、異界転移の魔法でも魔王の魔力を使い切ることはできなかったようだ。

 だが魔力は安定しており、私に定着していることがわかる。

 それならば、魔族の姿に戻りたいと念じてみると、角や翼に羽が元通りの姿で現れた。

 やはり結論はこれか。

 基本的に魔族だろうと人族だろうと身体の許容量以上に魔力を持つことは一時的にできても、しばらくしたら体外へ出てしまう。

 だが何かの切っ掛けで大幅に魔力が増加し、さらにそれが体に定着してしまうことがある。

 そうなると通常の生命体の枠から外れ、魔力生命体とも言える存在の精霊種となる。

 それを私たちは精霊化と呼んでいた。

 精霊種になると多少だが姿が変わることがあり、私の場合は人族の姿に変化したようだ。

 これは何度も魔法で人族に化けていた影響なのかもしれない。

 また強く念じることで元の姿に戻ることも可能であり、姿を多少だが変えることもできる。

 少し困ることと言えば、精霊種になると不老になってしまうのだが、仕方がないので気が住むまで生き続けることにしよう……。

 ちなみに魔王も精霊化をしており、不老のために殺すしかなかった。

 そんな魔王の魔力を吸収した私も精霊化をする可能性は十分にあると考えていたので、驚きはしたが慌てるような気持ちはない。

 何はともあれ精霊種と言っても魔族であることは変わらず、それなりに愛着のある角や翼に尻尾は念じたら元に戻るのだ。

 とりあえず、洞窟の中とは言え誰かに遭遇する可能性もないわけではないので、無難に人族の姿で行動をすることに決めた。


 続いて魔法を使うことができるかを試してみるために、亜空間倉庫を開いてみる。

 何の抵抗もなく無事に開いたので中から金属製のゴブレットを取り出し、水を魔法で呼び出して喉を潤す。

 うん……、美味い。

 魔法で呼び出した水は、魔力水と呼ばれ、魔力が豊富なので精霊種となった私には、とても美味しく感じるらしい。

 これで魔法の使用に問題はないことがわかったので、一安心だ。


 それにしても、この洞窟内は不思議と魔力が濃い。

 地球世界にも魔力はあると世界中の逸話から確信してはいたが、これほど濃いとは思わなかった。

 あるいは、異界転移の魔法は失敗しており、あの世界のどこかへ転移した可能性も考えておいた方が良いのかもしれない。

 何にしても、こんな見知らぬ洞窟の中にいても仕方がないので、出口を探すための探索の準備を始める。


 今は魔王と戦うために身に着けていた白銀の鎧のままだ。

 ミスリル製の逸品で軽量の魔法術式も刻んであるのだが、本来の私は金属鎧を着て戦う重戦士ではない。

 革製の胸当てや部分鎧、頭には防御系の魔法術式を刻んだサークレットを身に着ける。

 その上からローブを着込み、右腰にマンゴーシュ、左腰にレイピアを帯び私の基本スタイルが完成した。

 あえて私のタイプを言うのなら軽量級の魔剣士だ。

 中遠距離は魔法で戦い、近距離はレイピアとマンゴーシュで戦う。至近距離になると、爪を硬質化させて格闘戦をすることもある。

 そうして着替えた装備を亜空間倉庫へ収納し、洞窟内を歩き始めた。


 探索を始めてみると、この洞窟は、自然にできた洞窟にしては歩きやすく整いすぎているように感じる。

 さらに天井が高く、横幅もかなり広いのだ。

 迷わないようにマッピングをしながら進んでいると、魔力の揺らぎを感じ同時に何かの気配も感じた。


 岩壁の影から様子を伺ってみると、前足が剣のようになっている巨大なクモが現れた。

 あれはどうみても魔物だ……。

 私の知る地球世界にこんな異形で巨大なクモが存在したなんて聞いたことがない。

 だとしたなら、ここは地球世界ではなくあの異世界のどこかなのだろうか……。

 今は考え込むのを後にして、巨大クモの対処をしなければならない。


 丁度良いので精霊種となったこの体の試運転に付き合ってもらおう。

 腰に帯びた鞘からレイピアとマンゴーシュを抜き出す。

 魔剣カーミラほどではないが、私のレイピアもそれなりの魔剣なのだ。

 銘はシュテンゲール、魔力を注いで突き刺すとその箇所が剣先よりも広がる効果がある。

 左手のマンゴーシュも魔剣ではないがそれなりの業物であり、幅広のハンドガードのある頑丈な短剣なのだ。

 まずは魔法を使わず、生身で戦ってみる。

「いざ!」

 素早く動き、腹部を軽く一突きするが妙な繊維質の感覚と弾力性があり、傷をつけることはできなかった。

 簡単に傷をつけられるほど弱い魔物ではないらしい。

「キチキチ!」

 一旦後退し、様子を見ようとすると巨大クモは腹部を上げてロープのような太いクモ糸を飛ばしてきた。

 軽く避けて、マンゴーシュで切れるか試してみたが、かなり丈夫なクモ糸のようで全く切れそうにない。

 それならばとマンゴーシュに魔力を注ぎ、切れ味を上げてから試してみると今度は簡単に切ることができた。

 素で戦えるほど甘くはないが、武器に魔力を注げば敵ではないか。

 続いて魔力をシュテンゲールに注ぎ、巨大クモの足部の付け根に突き込んでみると、しっかり傷を付けることができた。

 そしてシュテンゲールの効果で傷口は広がり、あっさりと足部が胴部から切り離される。

 それを繰り返し、全ての足を失った巨大クモは、クモ糸を飛ばし続けるが、素早く動き避け続けた。

 なるほど、確実に私の力は増しているようで、巨大クモは油断のできるほどの相手ではないが苦戦をするほどの相手でもない。

 おおよその強さは把握できたので、頭部に青い炎球、ブルーファイアボールの魔法を打ち込んで頭部は爆散し、巨大クモは倒れたのだった。


 私はほとんどの属性の魔法を使えるのだが、特に火属性魔法と闇属性魔法を得意としている。

 両親から聞いた話によると、竜人の血を持つ者は、原初の四属性とされる火、風、水、土のどれかの魔法が得意となる傾向があり、また闇属性の魔法を得意とする者は夢魔の血を持つ者に多いそうだ。

 だが私の火属性の魔法、特に高温の青い火を創り出せることは、前世の知識由来であり、闇属性の魔法が得意なのも闇ならこれくらいはできるだろうと前世の想像力が助けた結果なのだ。


 さて、魔物が出たと言うことは、やはりここは地球世界ではなく、あの異世界と言うことになり、さらに異界転移の魔法は失敗したと言うことになる。

 魔王の魔力を奪ってまで起動させた異界転移の魔法なのに、失敗してしまうとはやるせない……。

 ここがどこなのかはわからないが今は外に出ることだけを考えることにして、その他のことを考えることは後回しにするべきだろう。


 そうして気が付くと、目の前にあった巨大クモの骸は消えており、代わりに拳大の黒い石と白いカードのような板が転がっていた。

 まずは黒い石を手に取ってみる。

 これは魔石だ。

 骸が消えたことと魔石が出たことを合わせて考えると、ここはダンジョンの内部である可能性が高い。

 続いて白いカードのような板を手に取ると、何か文字のような物が書かれていることがわかる。

 それを眺めていると、不思議と何が書かれているのかがわかるようになった。

 どうやら『スキルカード、物理体制』と書かれているらしい。

 スキルと言えば、技能のことか。

 物理体制もスキルと言えばそうなのだろう。

 使い方も書かれているようで、このカードを割ればスキルを覚えることができるらしい。

 それと、この不思議な文字の正体も何となくだがわかった。

 カードから思念波のような魔力が流れているらしく、文字を読めなくてもこのカードのことがわかるようになっているようだ。

 こんなカードは見たことがないので、魔族の大陸とも人族の大陸とも違う未知の大陸にあるダンジョンにいると言うことになる。

 それにしても興味深いカードをドロップするダンジョンだ。

 だがスキルカードが私にどれくらいの効果があるのか未知数なので今は使用を控えて亜空間倉庫へ収納する。


 それから再び見知らぬ洞窟の中を歩き始めた。


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