2 異界転移
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これからの物語ですので、気長にお付き合いいただければ幸いです。
2 異界転移
激しく破壊された魔王城の大広間、塵となった魔王の骸をぼんやりと眺めていると立ち眩みがやって来た。
「うぐっ……」
さらに取り込んだ魔王の魔力が体内で暴れているようで、口から血を流してしまう。
やはり自分の何十倍もの魔力を体に取り込むことは、自殺行為だったようだ……。
「アンリ、辛そうだな。大丈夫か?」
腕はそこそこだが本当に心根の良い勇者だ。
「勇者殿……、まだ抑えることはできますが、あまり時間はないようです。魔導師殿、術式の展開をお願いします」
「異界転移の魔法じゃな……。だが本当に良いのかの?」
「はい。以前にお話した通り、私には前世の記憶があります。知っている世界へ転移するだけのことです。それに魔王の魔力はこの世界に残してはいけません。無害な魔法で消費することが最適な処理法なのですから」
この魔導師、私の見立てでは勇者よりも強い。
若い勇者と聖女たちを見守ることに楽しさを覚えている様子があったが、かなりの曲者なのだろう。
「そこまで言うのなら……、わかった。取り掛かろう」
転生して新たな命を受けた私だったが、この世界は地球世界に比べて不便なことが多かった。
魔法があるおかげで全てとまでは言わないが、おそらく近世から近代程度の文明の発展度なのだろう。
愛して育ててくれたこの世界の両親や友人たちには申し訳ないが小さな不満はやがて大きくなり、私は地球世界へ帰還する方法を探すようになる。
それから長い時間をかけて戦いの訓練の合間に転移魔法を研究し、私の記憶の中にある地球世界の座標を割り出して、度重なる試行錯誤の結果、異界転移の魔法は完成した。
だが、この魔法には大きな欠陥があり、発動させるには膨大な魔力が必要となったのだ。
それは私1人の魔力どころか、一度の会戦で使われる総魔力量よりも多い。
まさに問題と言うよりも欠陥としか言いようがなく、それからも魔法術式を改良して必要魔力の減少を計ったが、全く現実的な魔法術式とはならなかった。
そうして地球世界への帰還をあきらめかけていた頃に勇者一行と交流する機会が増え、魔王の強大な魔力を使うことを前提にした異界転移の術式を組み上げることとなったのだ。
また魔王の死後に流れ出す強大な魔力は、周囲の環境へ悪影響を及ぼす懸念があった。
例えば魔王城の周辺は、痩せた大地が広がっている。
これは魔王の強すぎる魔力を大地が浴びすぎた結果のようだ。
魔王の討伐後にこの魔力があふれ出したなら、魔族たちの体へも何かしらの影響が出る可能性が高い。
そういうことから魔王の魔力を何かしらの無害な魔法で消費することは必須のこととなる。
それならば私が地球世界へ帰還するために使っても何も問題はないと理屈をつけたのだった。
すでに地球世界で必要になりそうな物や換金できそうな物は、亜空間倉庫へ詰め込んでいる。
魔族たちの中には優秀な者たちが多くいるので心配はしていない。
後のことはこの世界の者たちに任せて、私は地球世界へ帰還するのだ。
それから魔導師が術式を展開している様子を眺めていると、聖女が話しかけてきた。
この聖女、勇者一行で人族を率いる国家を建国したらどうかと言う話になった時、瞳が怪しく輝いていたことをよく覚えている。
どうやら勇者に惚れている様子はあるのだが、それ以上に権力への興味が強そうなのだ。
普段は純真無垢な振る舞いをしていても内心は、かなりの俗物と言う彼女のことは気に入っていた。
「アンリエッタ殿、癒しの魔法は効果がありそうでしょうか?」
「わかりません。弱めの癒しの魔法を試しにお願いしても良いでしょうか?」
「もちろんです」
そうして聖女が回復魔法を使うと、若干だが苦しさが和らいだように感じた。
正直なところ、私はこの聖女と同じレベルの回復魔法を使えるのだが魔王の魔力がどんな反応を起こすかわからないので、痛みに耐えていた。
どうやら私の考えは杞憂だったらしい。
「効果があるようです。もう少し強めの癒しの魔法もお願いしてよろしいでしょうか?」
!!「はい。エクスヒール!」
おいおい、それは強めどころか最上級クラスの回復魔法だぞ。
だが、全身のダメージが回復したようで気だるさが亡くなった。
またすぐに苦しくなるかもしれないが、一時でも楽になったことはありがたい。
「ありがとうございます。十分な効果がありました」
「それは良かったです。また必要なら言ってください」
そうこうしていると、魔導師による術式展開が終わり、転移の準備が整った。
「アンリ殿が作ったこの異界転移の魔法は、緻密じゃのう。わしでは術式の展開だけで精一杯じゃ」
「人族の何倍もの寿命がある魔族ですからね。じっくり研究ができました」
「羨ましいととも思うが、魔族には魔族の人族には人族の苦労があるからのう。最後に術式の確認を頼む」
魔導師が展開した術式の魔法陣を細部まで確認した結果、完璧に完成していた。
さすがは人族最高峰の魔導師である。
「完璧です。ありがとうございました」
「うむ。それでは別れの時じゃ」
「はい……」
私が魔法陣の中心に立って、術式を起動させる。
この魔法は、転移者本人の魔力を使って起動させる魔法であり、膨大な魔力も必要なので今後に使われることはないだろう。
さらに展開させるには最低でも人族最高峰の魔導師の技量が要求される術式なので、やはり今回限りの魔法となりそうだ。
「アンリ、今までありがとう。魔王との約束、絶対に果たす。必ず争いのない世界を作るからな!」
「アンリ殿、あちらの世界ではのんびりとできることを祈っておる。達者でな」
「アンリエッタ殿のご多幸を祈らせて頂きます。お元気で……」
「勇者一行の皆様、これからの魔族と人族のこと、よろしくお願いします。それではお元気で!」
そうして魔法陣は青白く光り始め、私は光の柱の中に消えたのだった。




