17 シクダン4
17 シクダン4
今井さんに相談した日から数日が経ち、初の休日となった。
迷宮省は、基本的に完全週休二日制だが、迷宮は当然として休むことなく24時間存在している。
迷宮への入場時間は午前9時から午後8時までだが、退場は24時間可能となっており、そうなると職員の勤務時間はシフト制となるわけだ。
私の勤務時間は、午前中のみとなっていても土日祝日が確実に休日となるわけではなく、全体の勤務に合わせて休日も設定されている。
そんな勤務状況なので、単身寮には食堂があっても、それぞれの部屋にキッチンも設置されているのだ。
ここ数日の私と言えば、迷宮での勤務が日常に感じるようになり、それ以外の時間は買い物やパソコンを使っての情報収集などをしていた。
また動画共有サイトに投稿されていた件の動画は、すぐに削除され、投稿者へも警告が行ったらしい。
結局、今井さんからは私を題材にした動画制作をすると言う話はなかったので、このまま動画のことは沈静化を待つことになるのだろう。
それに私の勤務のほとんどが迷宮パトロールに変更され、竜化した姿でパトロールをしている。
探索者たちからのリアクションはわからないが、翼を持った私の姿が日常の風景となれば、話題に上がることもなくなるだろう。
そしてクラン金魚鉢の佐伯詩織さんには、竜化のスキルの公表について、わけあってすぐにはできないが半年から1年後に公表すると連絡をした。
この時、クラン金魚鉢のクランハウスへ遊びにおいでと誘われたので、探索者の日常を知る良い機会だと考え、近いうちに遊びに行こうと思う。
そうしてやってきた初の休日。
「さてさて、シクダン4の時間だよ。さっさとキャラメイクを終わらせよう!」
「令奈さん、紅茶を入れましたから、のんびりお願いしますよ」
「はぁい。紅茶ありがとう。でもさ、アンリちゃんがシクダン4に興味を持ってくれるなんて本当にうれしいんだよ。テンション上がっちゃう!」
「たまたまお店で見かけて気になったんです。それに令奈さんがこの『シーク オブ ダンジョン4』のプレイヤーで本当に助かりました。それじゃ始めましょう」
今現在の私の部屋には、元木令奈さんと言う方がいる。
童顔なのか私と同世代に見える金髪の小柄な可愛らしい女性だが、迷宮内では柄の長い鉄槌を扱う人でもある。
令奈さんとは、朱里さんと同じく迷宮パトロールを一緒に行い、親しくなった。
さらに彼女は、先日パソコンを購入した時に一緒に買ったゲーム『シーク オブ ダンジョン4』のプレイヤーとのことで、キャラメイクから手伝ってもらうことになったのだ。
「マイキャラは、自分に似せたい? それともガチムチなおじさまが良い?」
「なぜその2択なのかが疑問ですけど、今は特にこだわりもないので自分に似せたキャラで良いですよ」
「そっかそっか、了解っと」
令奈さんはそう言うと、突然自分のスマートデバイスを取り出し、私の顔を数枚撮影した。
「えっ、何ですか?」
「このシクダン4はね、撮影した顔の画像を取り込んで、マイキャラに反映させることができるの。ちょっと待っててね」
そうしてパソコンを令奈さんが操作すると、モニターに映っていたデフォルトのキャラクターの顔が私に似た顔へと変わった。
「アンリちゃんは顔が整っているから、ゲームキャラにしても映えるね。まだここから調整もできるけど、どうかな?」
「これで良いと思います。体型も取り込みができるんですか?」
「うーん、それは手動の調整かランダムにするしかないみたい。開発チームが顔を取り込む機能を作ったところで力尽きたのかもしれないね」
「それでもすごい機能ですよね」
「うん。実際5割以上のプレイヤーが自分の顔をそのまま使うか、自分の顔を少し変えた顔を使っているらしいよ」
「あっ、なら肌色を褐色に髪色と瞳の色を黒色にしてもらえますか?」
「良いと思う。私も自分の顔をベースに少し変えたキャラを使っているんだよね」
そうしてモニターに映るキャラクターは今の白髪をした私から、魔族の頃の私の色合いへと変化した。
少し前までこの色合いの姿だったのに、もう懐かしく感じているが、この方が慣れ親しんでいて落ち着くかもしれない。
それから体型の調整を終え、いよいよゲームを始める。
「まずはチュートリアルからね」
そうして令奈さんがパソコンの前から動き、私が座る。
チュートリアルはなぜか夢の中と言う設定のダンジョン内で行うらしい。
「キーボードで操作するんですよね……。上手くできるかな……」
「慣れないと難しい時もあるけど、ファンクションキーとかショートカットキーが必要になる時があるから、ゲーム用コントローラーよりもキーボード推奨なんだよね」
それから基本的な移動方法や攻撃方法、他にもアイテムの拾い方やショップでの買い物の仕方などをチュートリアルで学んだ。
「かなり基本的な質問だとは思うんですけど、このゲームってダンジョンに潜るわけですよね。結局その先にある目的とか目標って何になるんでしょう?」
「それはね……、自分で決めるんだよ……」
このゲームは、基本的に現実世界へ準拠しているものの、魔物は現実よりも強力に設定されているらしい。
例えば20階以降は、基本的にソロプレーは推奨されておらず、プレイヤー同士が交流しパーティを組んで、攻略することが前提になっている。
そう言う設計なので、交流を目的にするプレイヤーも多いらしい。
だが、あえてソロプレーで遊び続けることもできるので、そんな遊び方を楽しんでいるプレイヤーもいるそうだ。
またダンジョンを制覇するとトロフィーが獲得できるのでそれを集めたり、様々な素材を集めて強力な武器や防具を作ることを目的にするプレイヤーもいる。
さらに対人戦が可能なエリアがあり、ランキングもあって上位を狙うことを目的にするプレイヤーもいるらしい。
また有料コンテンツには、現実世界で過去に完全攻略されたダンジョンを再現し、ゲーム内でも完全攻略ができるようになっているダンジョンもあるそうだ。
なるほど。通常のダンジョンは50階までしか行けないらしいので、有料コンテンツには魅力がありそうだ。
「……そんな感じで目的や目標は人それぞれなんだ。私たちみたいな仕事をしていると、普通に遊んでいてもトップ勢にはなれないから、ライトプレイヤーなりの遊び方を探すことも楽しみの1つになるんだろうね」
「令奈さんにも目的とか目標はあるんですか?」
「まずは楽しく攻略するには、プレイヤー同士の交流が大切だから、そこは重視しているね。それに装備が整ったらソロで、50階までを攻略してみたいかな」
「なるほど。私の場合は、まずゲームに慣れることですよね。それから攻略のことを考えてみようと思います」
「それじゃ、日本の東京、私たちの多摩迷宮からスタートだ!」
そうして多摩迷宮のゲートがモニターに映し出され、美麗なムービーが流れた。
なかなかの再現度に感じる……。
世界中のダンジョンにこのレベルのムービーが作られているのなら、それを見るだけでも楽しそうだ。
「あっ、迷宮ホールのカウンターでクエストが受けられるから、それを受けてね。ダンジョンリーチの魔石5個っての」
「了解です」
ムービーを見終えてから迷宮ホールまで進み、カウンターにいる職員と話してダンジョンリーチのクエストを受ける。
それから気合を入れて、ダンジョンへ突入した。
「えっ……。デカヒルが跳ねてますよ!」
「そうなんだよ。デカヒルがめっちゃ元気なの。現実だとほぼ無害なデカヒルだけど、あれじゃゲーム的に戦った気になれないから跳ねているんだろうね」
それからデカヒルを初期装備の剣で切り付けてみると、あっさり魔石とダンジョンリーチの皮がドロップした。
それからもデカヒルを倒し続け、魔石が5個となる。
「んじゃ、その魔石を持ってカウンターへ戻ろう」
「はい……。あっさりしている気もしますが、単純作業的なところが好きになれそうです」
「そうなんだよね。このゲームって無心で素材を集め続けることができるプレイヤーが強くなれる。向き不向きはあるとは思うけど、ハマる人にはクリティカルヒットするんだよ」
「わかる気がします……」
それからカウンターで魔石を収めると、スキルカードがもらえることになった。
「ここが一番初めのターニングポイントなんだよ。魔法と武術のスキルカードの中から1つを選ぶことができる。このゲームってキャラクターレベルはないんだけど、スキルレベルとか熟練度はあるから、何を最初に選ぶかが重要になるんだ」
「魔法を使うと魔力が消費されるんですよね?」
「そう。だから最初期は、魔法よりも武術の方が有利かもしれない。でも武器にも耐久度があるから、圧倒的に有利ってわけじゃないんだよね」
「なるほど。上手にバランスが取れているんですね……。それじゃ無難に剣術……、あっ、細剣術ってのがあるんですね。これにします!」
「良いと思う。魔法だと杖を渡されて、武術だとそのスキルカードにあった武器を渡されるから、ちゃんと装備しようね」
そうして細剣術のスキルカードを使い練習用レイピアを受け取り、再びダンジョンへ戻った。
「ここからしばらくの間は、クエストを受けて達成すると装備をもらえるってのを繰り返すことになる。それなりの装備になるころには、操作にも慣れているはずだよ」
「わかりました。続けてみます」
単純でありながら、しっかりとバランスのとれた設計をしており、初心者の私でも十分に楽しめることができる。
美麗なムービーに全体的に手の込んだオブジェクト、これを見ているだけでも価値があると感じてしまった。
「それじゃ、私も自室に戻ってログインするよ。フレンド申請を送るからボイスチャットを入れておいてね」
「わかりました。続きもお願いします!」
「あいあい!」
そうしてこの日は、時間が許す限り、私と令奈さんはシクダン4をやり続けたのだった。




