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迷宮救命士 ~お前ら無茶しやがって~  作者: 星野サダメ


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15/20

15 ナンパ?

 15 ナンパ?


 私服は充実させたが、まだまだ買い物は続く。

 今度はスーツ専門店だ。

 オーダーメイドなどではなく、いわゆる吊るしと呼ばれる既製品で十分なので店員に選んでもらう。

 その結果、就職活動をする若者が着ていそうなネイビーのスーツと礼服としても使えるブラックのスーツの購入を決める。

 さらに店内を見回っていると、学生が着ていそうなブレザーがあったので、そちらも定員と相談し、ダークグリーンのブレザーにライトグレーのベストとプリーツスカート、それにリボンとネクタイを合わせて購入することにした。

 この学生服風の服装も一応はフォーマル扱いになるはずなので、持っていればどこかで使う機会もあるだろう。


 次は高認試験の参考書やいくつかの専門書などを仕入れるために、書店へ向かう。

 高等学校卒業程度認定試験、いわゆる高認試験は年に2回受けられるそうだが、具体的に大学などへの進学を決めていない私としては、一度で合格するために猛勉強をするつもりはない。

 とは言え、やれることはやるつもりなので、しっかり準備をしようと思う。

 そうして書店に入り、高認試験の参考書などを探す。

 あまり受験者の多い試験ではないので参考書などの数は限られているが、今が願書配布の時期らしく、私が受験する全ての科目の参考書などを購入することができた。

 他にいくつかのダンジョン関係の専門書や辞書なども購入を決める。

 さらに電子辞書も売っていたので、こちらも購入を決めた。

 スマートデバイスにも辞書として使えるアプリケーションはあるが、以前の男性だった私は、たまたま手に入れた電子辞書が意外に多機能で使い心地が良く気に入っていたのだ。

 書店を一通り覗いてみた印象として、この地球世界では電子書籍もそれなりに普及しているようだが、紙の書籍も根強い人気があるように感じる。

 私としては、電子書籍も悪くはないが、手元に置きたい書籍は紙の本の方が好ましいのでありがたい。


 書店を出て、家電専門店へ向かう。

 この世界にもパソコンはあるようなので、そちらの売り場へ辿り着いた。

 特にやりたいことはないので、必要最低限のアプリケーションが使えることとインターネットでの情報収集が円滑にできたら十分だ。

 そう考えながら、いくつかのパソコンを見ていると、デスクトップタイプのゲーミングパソコンの前で足が止まった。

 ダンジョン探索をテーマにしたゲームのデモムービーがモニターに流れていたのだ。

 宣伝用のフライヤーを手に取り、詳細を眺めてみる。

 ハック&スラッシュ系のゲームらしく、世界中の有名なダンジョンの50階までを探索できるようでシュミレーター要素もあり、日本では東京、名古屋、大阪のダンジョンが遊べるらしい。

 さらに美麗な描写が売りのようで、VRグラスを使うと、没入感が増すとのことだ。

 うーん……、世界中のダンジョンを実際に潜ることは面倒だが、ゲームとして疑似体験をするのなら悪くはない……。

 それに見知らぬ相手と通話をしながら遊べるマッチングシステムも充実しているらしく、この世界にほとんど知り合いのいない今の私には魅力的かもしれない。

 ゲームをしながら知り合いを作り、会話の中で迷宮省とは関係のない人たちの常識や価値観を知ることもできる。

 そしてシュミレーターとしても役に立つのだ……。

 よし、このゲーミングパソコンとゲームを買おう!

 そうして店員を呼び、パソコン本体、周辺機器、ゲームはダウンロード版とディスク版があったのでディスク版を購入し、配達をお願いした。


 さて、次はとラビリンスモール内をうろうろしていると、唐突に声を掛けられる。

「あの……、白いコスプレさん……、じゃなくて迷宮省の方ですよね?」

 白いコスプレさんって何だ?

 もしかして拳銃の出番かと、身構えながら対応する。

 相手は20代中頃の青髪をした女性で、オシャレに着こなしてはいるが剣を携えた探索装備を身に着けている。

 何の用事かわからないが、誘拐犯や変質者でないことを祈るばかりだ。

 それに男女関係なく、ナンパをされることもあるので、そちらの可能性も警戒する。


「はい。確かに私は迷宮省の職員ですが?」

「切り抜き動画で話題になっていたのでつい声をかけちゃいました。あっ……、突然のお声掛け大変失礼しました。自己紹介をさせてください。探索者クラン『金魚鉢』のマスターをしています佐伯詩織と申します。迷宮省の方々にはお世話になっております」

 クラン……、探索者が集まって作られた相互補助会のような組織のことなのだろう。

 そんな組織のマスターとなると、それなりの人物なのかもしれない。

 まだ誘拐犯や変質者の可能性はなくならないが、切り抜き動画と言う単語が気になる……。

 切り抜き動画とは、長尺の動画などの一部を切り抜いてダイジェストのようにする動画のことだ。

 以前の男性だった私も動画共有サイトなどでよく見ていた覚えがある。


「切り抜き動画って何のことでしょうか?」

「昨日、救助活動をされていましたよね。あの時の配信映像の一部始終を切り抜いた動画が話題になっているんです」

 なんだと!

 私が動画の素材になっていると言うことは、あまり良いことではない気がする……。

 ここはしっかり話を聞くべきかもしれない。


「確かに救助活動はしていましたが、その話を詳しく聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「はい。もちろんです。代わりと言ったらあれなんですが、あの時の服装などのことを教えてもらっても良いでしょうか?」

「わかりました。話せることならお話しします」

 話の流れによっては未知のスキルであるはずの『竜化』のことを話して反応を見るのも悪くはないだろう。

 それからモール内にある喫茶店に入り、テーブルに着いてから飲み物を注文し、話が始まった。


「改めまして、よろしくお願いします。迷宮省の職員の方だと今井美和さんのことはご存知でしょうか?」

「はい。今井さんにはお世話になっておりますが?」

「よかった。昔のことですが、美和さんとは同じ探索者チームのメンバーだった頃がありますので、警戒を少し解いてもらえると助かります」

 今井さんの知り合いか……。

 それなら、拳銃の出番はなさそうだ。


「なるほど……。迷宮省に勤めていますが、今はわけあってアンリとだけ名乗らせてください」

「探索者には、いろいろな方がおりますので名前のことは気にしませんよ。それではアンリさんとお呼びしますね」

「はい。それで動画のことなんですが……」

 佐伯さんが言うには、昨日救助した人たちは、多摩迷宮で活動するローカルアイドルグループだそうで、八王子アンチャンズと言うらしい。

 そして昨日の出来事は、ローカルアイドル活動としての企画の中で起きた悲惨な事故であり、当然そうなるとあの壊滅的な状況も配信されていたことになる。

 そんな事故現場に私が颯爽と現れ、圧倒的な攻撃力を持って状況を終わらせたことになるわけだ。

 その一部始終が切り抜き動画として動画共有サイトに投稿され、いわゆるお祭り状態になっているらしい。

 かなりモザイク処理はされているが、私が珍しいエクスヒールを使って部位欠損を癒すところまで動画に納められているそうだ。

 そして、そんな凄腕のスキル所持者が突然現れたことも、祭りを盛り上げている要因にあるとも聞かされた。

 さらに私の『竜化』スキルは、なぜかコスプレと思われているそうで、白い髪や翼などと合わせて『白いコスプレさん』と呼ばれているらしい。

 白いコスプレさんって……、恥ずかしすぎるだろ!


「あの……、その動画を今ここで見ることってできますか?」

「できますよ。すぐにお見せしますね」

 そうして佐伯さんはスマートデバイスを取り出し、少し操作をしてから私に件の動画を見せてくれた。

 音声はあまり良く聞こえないが、確かに私の救助活動の一部始終が動画になっている……。


「何というべきか……、上手にモザイクが掛かっていますね……。どうせなら私の顔もモザイクを掛けてほしかったです……」

「アンリさんって、とても可愛らしいお顔をしていますから、この動画の製作者はどうしてもお顔を出したかったんでしょうね」

「あまりうれしくはないです……」

「ですが、迷宮省の職員の方々の中にはアイドル扱いされる方も多いんです。今は現場にはあまり姿を見せなくなりましたが、美和さんもアイドル扱いされていた時期があるようですよ」

「今井さんは確かに綺麗な方ですし、私がアイドル扱いされることも気にしません。ですが、この動画の削除依頼ってできるんでしょうか?」

 アイドルやマスコットのように扱われることは、魔王軍にいた時からあったので、今更気にすることはない。

 だが、この動画のタイトルが『人生終了間際のアンチャンズVS救いたい白いコスプレさん』となっていることにはふざけすぎていると思ってしまう。


「できるとは思いますが、すでにネットの海に放流されてしまっているので削除依頼を出すより、悪い話題ではないですし逆に良い利用方法を考えた方が良いと思いますよ」

「確かにそうかもしれませんね……。とりあえず今井さんに相談してみます……」

「それが良いでしょう。それであの白い翼や角についてなんですが……」

 さて『竜化』のことだが、ここまでの話で佐伯さんに悪意のある印象は持たなかったので、反応を見るために話しても良いだろう。


「あれは『竜化』と言うスキルで、いくつかの能力が付与されるスキルになりますね。『獣化』の亜種だと思っていただければ良いと思います」

「と言うことは、あの翼や角も本物なんですか!」

「そうなりますね。珍しいスキルなのは自覚しています」

「そうなんですか……。それなら迷宮省の方々に相談して、新スキルだと公表した方が良いかもしれません」

「ん、それはどういうことでしょう?」

 まず単純に今のままだと私は白いコスプレさんだと思われ続けてしまう。

 それにスキルの情報は、世界的な組織である国際迷宮管理機構によってまとめられているそうで、新スキルの最初の所持者はそれに登録され、国際的な栄誉が与えられるそうだ。

 そして、新スキルの性質にもよるが、その栄誉は、現実的な特権にもつながり、十分なメリットになることもあるらしい。

 とは言え、あれこれと長期にわたる検証作業にも付き合うことにもなるので、それはデメリットと言える。

 なるほど、だが戸籍のない今の私が公表したなら、面倒なことになることが予想できてしまった……。


「確かに公表した方が良いかもしれませんが、少し考えさせてもらいます」

「では、この話は私の中だけに留めておきますので、公表することが決まった時は、連絡をいただけますか?」

「わかりました。ですが、今スマートデバイスが自由に使えない状況ですので、佐伯さんの連絡先だけを教えてもらうと言うことでどうでしょう?」

「連絡を頂ける可能性があるだけでもありがたいので、それでお願いします!」

 私が迷宮職員であることを佐伯さんは知っているので、連絡をしなければ突撃されることも考えておいた方が良いだろう。

 そうして佐伯さんの連絡先を聞き、喫茶店を出てラビリンスモールからの帰路に就いたのだった。


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