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迷宮救命士 ~お前ら無茶しやがって~  作者: 星野サダメ


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10 竜化、そして救命

 10 竜化、そして救命


 私と朱里さんは、フロートカメラが放つ照明を背に、ダンジョン三階の中程から2階に降りる階段へ急ぐ。

 だが朱里さんは、身体強化系の補助魔法などを使わずに、ただ走るだけだ。

 おそらく使わないのではなく使えないのだろうとは思うが、これでは時間が掛かりすぎる……。

 私が使っても良いが、躊躇してしまう。

 ここで様々な魔法を使えることを朱里さんに知られたなら、当然この先に合流する救助チームの方々にも知られてしまう。

 特に信頼を構築するべき相手である今井さんだけに知られるのなら、ともかく今はまだこの世界の様子を知るための段階だ。

 それに朱里さんは、人命は難しいと言った。

 遺品だけでも持ち帰ることができたなら、上々の結果なのは間違いないことなのだろう。

 それでもだ、可能性があるのなら救いたい……。


 私は魔王軍四天王として、それ以前も魔将として、さらに一兵卒のころからいくつもの戦場を渡り歩いた。

 敵の命を奪い、仲間の命を失い、肉片と血痕に覆われた戦場の風景が日常になるほどに。

 だが、そんな生活が本当に嫌になったからこそ、勇者たちへ協力をすることを決めたのだ。

 私は魔王が嫌いではなかった。

 あの方は、魔族を心から愛し、魔族の将来を憂い、守るために戦う覚悟を決めた王だったのだ。

 私が頂いた『奇策』の二つ名だって、単純ながら気に入っていた。

 だからこそ誰かが簡単に命を失う、あの世界に嫌気がさしたのだ。

 故に、私は戦いを終わらすために魔王を討った。

 そして、魔王の仇あるいは次の魔王に最も近い者として、新たな火種となりかねない私は異界転移をしたのだ。

 ここは、前世の私が知る地球世界とは違うが、それでもあの世界のように平然と死を受け入れなければならない世界とは違う。

 救える命があるのなら、救いたい……。

 もう、平然と死を受け入れなければならない生活は嫌だ!

 せめて救うために生きる生活をしたい……。

 そう、私は救うために魔法を使うのだ!


 だからと言って、無策のままに魔法を使えば、保護をしてくれた今井さんに合わせる顔がない。

 ことが終わった後に姿を消すことは簡単だが、まだこの地球世界での生活は始まったばかりなのだから、もう少し今をあがいても良いはずだ。

 なぜ今井さんは身も知らぬ出会ったばかりの私にこんなにも良くしてくれるのだろうか……。

 単純な善意なのかもしれないが、それならなおさら姿を消さなくても良い方法を探すべきだ。

 考えろ、考えろ、奇策のアンリエッタ!

 そう、私は奇策のアンリエッタ、単純に魔法を使う以外の方法がきっとあるはずだ……。


 ここはダンジョン……、私の知る情報は少ないが、何か突破口はないだろうか……。

 そうだ。病院で熟読したダンジョン関係の雑誌……。

 スキル……、その中のレアスキルには亜空間倉庫、転移、鑑定があった。

 だが、それ以外にも様々なレアスキルのことが書かれてあったのだ……。

 その中に『獣化』と言うスキルがあったことを思い出す。

 これだ……。

 任意で獣の姿になることができるスキルだったはず。

 魔族の中には、普段は人族の姿をしていても戦闘状態になると獣の姿になる種族がいた。

 地球世界で言うところの、狼男や人狼と言われる者たちだ。

 なら、私は『竜化』スキルの保持者としたら、魔族としての私の姿に戻れる。

 魔族の姿に戻れば、少し器用に魔法が使えたとしても、そのインパクトと比べて些細なことになるはずだ。

 派手になってしまうが、わるくはない策だ。

 こうなると、前提条件の確認をする必要がある。


「朱里さん、ちょっと良いですか?」

「ん、どうしたの?」

「唐突なんですが、スキルって何か外部から確認する方法ってあるんでしょうか?」

「基本的には自己申告だけかな。それ以外になると一緒にいる人からの報告とか、それくらいしか確認方法はないよ。あ、でも強さみたいなのなら、内包魔力量である程度は図ることができるから、アンリちゃんは特例でダンジョン入場の許可が出てるんだよね」

「特例ですか?」

 朱里さんは普段からパトロールをしているだけあって、走りながらの会話に問題はないようだが、思わぬ話が飛び出した。

「そう。本当ならダンジョンに入るにはライセンスがいるんだよ。でもアンリちゃんは病院の先生からの治療による特例が出ているって今井さんから聞いてる」

「そうだったんですか……」

 田村医師と今井さん……、本当にありがとうございます……。

 それはそれとして情報の整理だ。

「えっと、外からは誰がどんなスキルを持っているのかはわからないけど、内包魔力量である程度の強さはわかるってことですね。それと私は記憶を取り戻すための治療の一環として特例でこのダンジョンに入っていると」

「そういうこと。だから持っているスキルがわからなくても『生きる魔石』って言われるほどに内包魔力量が多いアンリちゃんは計測上、かなりの強さがあるって判断されたんだ。その上で治療目的にダンジョンに入れたってことだね」

「わかりました。それと今から行く救難者の方々の場所の詳細ってわかるんでしょうか?」

「それは大丈夫。救難信号は特殊な仕組みで発信されていて、どこの階層のどこの位置から発信されているかまで、しっかりわかるんだ。それに探索者用アプリケーションには50階までのマップが入っているから、それと救難信号の発信者の位置を照合したら、迷わず現場に迎えるんだ」

「ありがとうございます……、全て条件はクリア……。朱里さん、今から驚くと思うんですが、少し我慢してください!」

「えっ?」

「ドラゴニックフォーム!」

 頭から螺旋状をした白い2本の角が生え、ローブの背面に隠れるように開けられたスリットから白い翼が広がり、ローブの足元には白い尻尾の先が現れた。

「えっ、えっ、ええええええ!」

「私のとっておきスキル『竜化』です!」

 あっ、どうせ変化できることにするのなら、本来の褐色の姿にするべきだった……。

 だが、もう遅いのでこのまま白い姿のままでいるしかない。

 気を取り直し、続いて補助魔法を使う。

「オールストレングス、ゲイルアーマー、ウイングロード!」

 インパクト重視で、思い付きのスキル名であるドラゴニックフォームと叫んで魔族の姿となり、普段は無詠唱で使っている魔法もわかりやすくするために魔法名を唱えた。

 ちなみにオールストレングスは全身の筋力を最高水準まで引き上げ、ゲイルアーマーは、風の鎧を全身に纏い、空気抵抗力を限りなく低くさせる魔法だ。

 そしてウイングロードは、周囲に空気の防壁を作り、翼の一振りで高速移動ができるようにする魔法となる。

「準備完了です。今から朱里さんを抱えて飛びますから、道案内をお願いします」

「う、うん。わけがわかんないけど、落とさないでね」

「それは大丈夫です。ですが、かなりの速度が出るはずなので、気をしっかり持ってください」

「わ、わかった」


 それから私よりも少し背の高い朱里さんを抱えて、一気に飛び立つ。

「あああ、えっと、そこを右!」

「はい!」

「そっちは左……」

「はい!」

「右に行って、左に行って右で階段!」


 そのまま2階も高速で抜け、あっという間に1階の広場へ到着した。

 広場にいる探索者たちは、私の姿に驚きながらも興味津々な様子だが、気にする場面ではない。

「アンリちゃん、すごい目立っているけど、大丈夫なのかな……」

「大丈夫です。珍しいスキルだから目立っているだけですから」

「そ、そうだよね。そういうスキルなんだよね……」

「このまま40階へ転移をしたいのですが、どうしたらよいのでしょう?」

「あ、私が操作をするから、転移魔法陣の上に立って」

 2人で転移魔法陣の上に立ち、朱里さんがスマートデバイスを操作すると大きな扉のある無機質な広場へ転移をした。

「ここが40階ですか……」

「そう、ボス部屋の前は安全地帯だから、ここに転移魔法陣を置いてあるんだ」

 この無機質な継ぎ目のないコンクリート素材で作られたような風景は、アラクネ武者がいた階層と同じなので、ボスのいる階層は全て同じ造りなのだろう。

「……ってまだ誰もいない!」

「早く到着しちゃったんですね……。じゃあ、私たちはこのまま現地へ向かうので、救助チームの方々は、通常通りに向かってくださいと通信をお願いします。それじゃ行きます!」

「え、39階と38階は階層に見合った強力な魔物が出るし、救難者のところには特殊個体もいるんだよ」

「戦闘についても問題はないはずです。行きますよ!」

 そうして有無も言わさずに再び朱里さんを抱え上げて、40階から39階への階段へ向かう。

 その間に、朱里さんは私の言う通りに通信をしたが、何か怒られているようだ。

 だが、人命が掛かっている以上、そんなことは気にしていられない。


 そうして39階に到着すると、人の身の丈ほどの巨大カマキリと人の腕程の太さがあるミミズと言うかワームが現れた。

「39階はカマキリとワームがセットで現れるんだ。最大でカマキリ2体、ワーム2体のセットなんだけど、下手に逃げると合流をしてさらに増えるから気をつけて」

「了解です……。ブルーファイアアロー!」

 巨大クモよりは弱いはずなので、ボール系魔法よりも威力は低いが命中度の高いブルーファイアアローを何本か放って攻撃してみると、あっさりカマキリとワームは倒れた。

「これなら大丈夫そうですね」

「そ、そうだね……。そんな青いファイアアロー見たことないんだけど……」

 それから何度か交戦を繰り返し、朱里さんの案内で39階を抜け38階へ到着した。

「かなり早く到着したけど、どうだろう……」

 生命反応を探査するライフディティクトをこっそり使ってみると、そう遠くはない場所から1人の正常な反応と3人の弱い反応が確認できた。

「救難者は、4人で合っていますか?」

「何でわかるのかはもう聞かないけど……、今救難信号が出ているのは3人だね。まだ正常な状態で戦い続けている人がいるのかも」

「そうなのかもしれませんね。急ぎましょう!」

 そうして間もなく生命反応のあった場所へ辿り着く。

 その場所には3体の巨大カマキリ、2体のワーム、そして特殊個体と思われる4つの鎌を持つ巨大カマキリがいた。

 そして魔物たちに囲まれるように、3人の負傷し倒れている男性たちと我武者羅に剣を振り続けている男性が確認できる。

「救助チームの先遣隊です!」

「ブルーファイアアロー!」

 朱里さんが救難者たちへ声をかけてから、ブルーファイアアローを魔物たちへ打ち放つ。

 通常の魔物たちはそれで倒れたが、4つ鎌の巨大カマキリは2本の鎌を犠牲にして耐えた。

 だが、結果的に救難者から私へ敵対心を引き付けることができたので、これはこれで問題はない。


「朱里さんを降ろして、私は近接戦に入ります!」

「えっ、わかった……」

 交戦中だったおかげで飛行速度があまり出ておらず、無事に朱里さんを降ろしてから私も地に立つ。

 続けて、鞘から荒苦寝を抜き、そのまま巨大カマキリへ駆け寄る。

 残った鎌を避け、首を一閃……、特殊個体の巨大カマキリは倒れたのだった。


 そうして全ての魔物たちが倒れたことを確認できたので、負傷者たちに駆け寄る。

「白い翼……、天使なのか……」

「話さないでください。今から魔法で治療します。エクスヒール!」


 それから戦い続けていた男性を含め、全員の治療を終える。

 今回は、派手に食いちぎられている者ばかりだったので、部位欠損も復元するエクスヒールを使った。


「ワームに食われた俺の腕が戻ってる……」

「足が、足がある……」

「どこも痛くないなんて……」

「本当にありがとうございます……」

「今回は、奇跡的に間に合いましたが、無茶な戦いは控えてください」

「その……、すいませんでした……。ところで四肢欠損を治せる光魔法なんて、動画でしか見たことなかったので驚きました」

「そうなんですか。珍しい魔法なんですね」

「もう仲間たちはダメだと思っていたんです……、本当に助かりました……」

 負傷していた3人は夢うつつなことを言いながら、最後まで戦っていた男性は感謝の言葉を繰り返していた。

 そんな中で、しらっと、魔族モードと言うか竜化の姿から人族の姿に戻る。


「アンリちゃん、元の姿に戻ったんだ……。って、そうじゃなくて。チームの皆さんが間もなく到着するからここで待機。救難者の皆さんは、後発のチームが到着したら帰還しますので、準備をお願いします」

 そうしてしばらくすると、長谷川さんが率いる5人の職員たちの救助チームが現れた。


「はぁ……、吉田ちゃんから聞いたが、アンリの嬢ちゃん、暴走したんだって?」

「あの……、どうしても人命が気になってしまって……、すいません」

「まあ、今回は藤波さんがアンリの嬢ちゃんも連れて行けって無茶を言ったらしいから、全部あいつの責任にしてしまえ。それで大体は問題はない」

「それで良いんでしょうか……」

「あいつの係長って肩書はな、責任を取るためにあるんだから大丈夫だ。それはそれとして今井さんからの説教は覚悟しておけよ」

「はい……。本当にすいませんでした」


 それから私と朱里さん、救助チームの方々、救難者の4人は、ダンジョンの外へ無事に帰還したのだった。


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