1 魔王
久しぶりの投稿です。
作者は視覚障碍1級ですので、どうしても誤字脱字が多く出てしまいます。
脳内変換ができる方も、誤字脱字が気になる方も本文下部にある誤字報告機能を活用して頂けると助かります。
それではお暇な時にでも、お読み頂ければ幸いです。
1 魔王
灰色の曇天の空の下、痩せた大地の上に禍々しさと美しさを混在させながらも調和のとれた建築物がそびえ立っていた。
それはこの世界のイレギュラー、この世界のバグ、魔力の高い魔族から見ても異常としか言いようがない膨大すぎる魔力を内包した人物、魔王の居城だ。
そしてまさに今、その城の奥深くにある大広間にて魔王と勇者一行の決戦が繰り広げられていた。
魔王と対峙している赤髪の勇者は鎧のあちこちが傷つき、悪戦苦闘の様相が見える。
それに対して魔王は、ほぼ無傷のままでどちらが優勢なのかは一目瞭然だ。
「勇者よ。多少はやるようだが、それでは我に勝てぬ。このまま朽ち果てるつもりか?」
「戦いはこれからが本番だ。俺の使命はお前を倒すことのみ!」
「その気概は良し。続けるとしよう」
魔王が持つ大剣が横なぎに振るわれ、それを勇者が避けるがわずかにかすり、血しぶきが舞う。
そうして勇者が傷つけば、銀髪の聖女が回復魔法で癒す。
さらに後方にいる緑髪に白髪交じりの魔導師が攻撃魔法を放ち、わずかに魔王の気をそらす。
それから勇者が聖剣を振るうが、魔王は身を横にそらし避けた。
その後も延々と戦いは続くが、勇者が肩で息をするようになり始め、攻撃魔法や回復魔法の頻度も下がり始めた。
魔王が後方へ距離を取り、勇者に語り掛ける。
「そろそろこの戦いの決着をつける頃かもしれぬな」
「そうかもしれないな……。だが倒れるのは魔王、お前だ」
――口だけは立派な勇者殿だ……。
その勇者の発言に合わせるように魔王の背後の風景が揺らぎ、全身を白銀の鎧に身を包んだ異形の美少女、私が姿を現わす。
私の足元には今脱ぎ去ったマントが落ちており、手に持ったレイピアは魔王の背中から心臓へ突き刺さっていた。
「この瞬間をお待ちしておりました、これで終わりです。魔王様!」
「な! その声はアンリエッタ……。裏切ったのか……」
「皆もう戦争を終わらせたいのです。魔剣カーミラを使わせて頂きました」
「そうか……。魔剣カーミラなら我を殺せるか……」
「アンリ、助かった!」
どうやら正面から勇者一行が猛攻を始めたらしい。
私がさっきまで身を隠すために使っていた虚無のマントは、姿どころか気配や魔力の痕跡まで完璧に消す効果のあるマントだ。
だが使用中に移動すると効果が薄れてしまうので、勇者たちに魔王の意識を引きつけてもらっていたのだ。
そして魔剣カーミラは、突き刺した相手から魔力を奪い、使い手にその魔力を吸収させる効果があるレイピアだ。
どちらも魔王城の宝物殿に眠っていた国宝の品となるのだが、今回のためにひっそり奪わせてもらった。
さて私は魔王軍四天王の1人、奇策のアンリエッタと言う。
約300年前、この世界に転生した元地球世界の日本人男性だ。
大学卒業後、就職した会社がなかなかのブラック体質で体を酷使した結果、気がついた時には全身がボロボロとなっており、30歳直前で大病を患ってあっさりと命を落としたはずだった。
だが、どういうわけかは知らないが、地球世界とはちがう異世界、しかも魔族の女性として転生してしまったのだ。
転生してしばらくが立ち、物心がついた頃にはこの世界の有様に驚いたものだ。
街中には、獣と人を掛け合わせたような者や頭に角を生やした大男などが当然のように生活をしていた。
この世界の魔族とは、強い魔力を持ったために身体の一部が変質した人間たちや魔物が高い知性を持った者、あるいはその者たちの子孫のことを言う。
魔族の娘として産まれた私も、頭には螺旋状の二本の角、鱗模様の入った黒い翼と尻尾、細くしなやかな指先の爪は硬質化させて武器として使うことができる。
さらに暗闇を纏ったような美しい黒髪、黒真珠のように輝く瞳、健康的でありながら妖艶にも見える褐色の肌色をしている。
両親が言うには先祖にいる竜人と夢魔の特徴が強く出ているそうで、細身ながら出るところはそれなりに出た肉感的なスタイルの美少女だと我ながら思う。
だが、かれこれ150年以上は人族で言うと10代後半ほどの姿のままなので特に感慨もなくなってしまった。
ちなみに魔族の寿命は、種族や内包魔力量で大きく違うので、私がいつ死ぬのかはわかっていない。
何はともあれ、異世界とは言え再び生きることができるのだからと、この世界、魔族たちの文化に慣れるために私は人一倍の努力をした。
そうして強さを重んじる魔族の文化に合わせて魔力を高める訓練を行い、剣術や魔法を学んだ私は、いつしか魔王軍の1人として人族国家との戦争の最前線に立つこととなる。
それから何度もの戦いで戦果を上げ続けた結果、私は魔将の1人となった。
魔将となって兵を率いて戦うようになった私は、地球世界の戦史を参考にこの世界にとっての奇策を得意な戦法として扱うようになる。
私の奇策は高く評価されるようになり、やがて魔王から四天王の1人として指名され、私の戦術から『奇策』と二つ名を頂くこととなった。
安易な発想の二つ名だが、魔族の発想何てこんな物だ。
だが魔族に産まれたからと言って、人殺しに喜びを感じていたわけではない。
それから魔王の目を盗み、戦争を終わらせる方法を繰り返し探すようになる。
そんな中、人族の姿に魔法で化け、探索をしていたところに勇者一行と遭遇し、親交を持つようになった。
やがて勇者たちと友と呼べる関係となった私は、彼らと戦争を終わらせる方法について何度も話し合う。
まず、この戦いの根本には2つの問題がある。
1つ目は人族による魔族への迫害だ。
2つ目は、戦うことに特化し過ぎた魔王の存在だった。
1つ目の魔族への迫害は、案外簡単に解決する目処が立った。
そもそも人族の住む大陸と魔族の住む大陸は別々の大陸なのだ。
海を渡らないように勇者たちが権力者となり、人族国家を率いれば問題はなくなる。
これには魔族の住む大陸へ出兵している者たちも海を挟んだ別の大陸を攻める意義について疑問を強く持っているそうなので、どうにかなりそうだとのことだった。
そしてもう1つの魔王についてが大問題となった。
まず、勇者一行としても正攻法で魔王を倒すことは難しいと考えていたらしい。
そもそも人族最高峰の強者である勇者であっても私より弱い。
そんな勇者が魔王を倒せるはずがないのだ。
正攻法で魔王を倒せないのなら、奇策を用いるしかない。
これでも魔王軍四天王の1人、宝物殿に納められている品々のことは一通り把握している。
そうして虚無のマントと魔剣カーミラを使うこの作戦が決行されたのだった。
ちなみに私以外の四天王やその下の魔将のほとんどが私に同調した講和派だ。
少数の好戦派の中で力のある者たちは、思い切って私が罠に掛け、勇者たちに始末させたので講和について異議を申し出る者は表立ってはいない。
また人族最高峰の強者である勇者よりも強い者は私以外にも魔族に何人もいるので、魔王が倒れたからと言って魔族が不利になることもない。
「魔王よ。そろそろ終わりだな」
「ああ、存分に戦った。最後が裏切りなのは血を流し過ぎた我への報いなのだろう。なあ、アンリエッタ。これからの魔族はどうなる?」
「おそらく次代の魔王は立ちません。代わりに協和議会が立ち上がり、合議制の国家となることでしょう」
「そうか、それも悪くは……ないのだろう……。人族の……勇者よ……。お主に我は倒されたわけではない……。我ら魔族へ人族が再び襲い掛かる時があれば……、我は生まれ変わり……、この世界から人族を駆逐しようぞ……」
「わかった。その言葉、代々の人族の戒めとして広めておくことを勇者の名に誓う」
「うむ……。わが生涯は満ち足りたものだった……。これにてさらばだ……」
そうして強大な強さを誇った魔王は、その姿を塵に変えて崩れ落ちたのだった。
投稿頻度は明言できませんが、週に2回から3回の投稿を目指したいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。




