表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

第九章:蔵書の迷宮

 特別収蔵庫の奥へと進むにつれ、空間そのものが歪んでいくような錯覚を覚える。無数の本が宙を舞い、時には、ページの間から不思議な光が漏れ出している。


「この場所は、通常の物理法則が完全には適用されない」


 サイラスが説明する。


「蓄積された知識があまりに膨大で、現実の構造そのものに影響を与えているんだ」


 イリアは手の中の「全知の書」を強く握りしめた。本の中の文字が、かすかに脈動しているのを感じる。


「でも、誰が図書館を攻撃しているんですか?」


「『抹消者』と呼ばれる集団だ」


 サイラスは足を止め、周囲を警戒しながら続けた。


「彼らは、人類の知識は制限されるべきだと考えている。特に、『全知の書』のような、現実を揺るがしかねない存在は、抹消されるべきだと」


「でも、それは……図書館の理念に反する」


「そうだ。私たちは知識を守り、継承する使命がある。たとえ、その知識が危険を伴うものであってもな」


 二人が会話している間も、遠くでは戦闘の音が響いていた。タリアは何とか持ちこたえているようだ。


 突然、イリアの手の中の本が強く光り始めた。


「この本が……何かを伝えようとしている?」


 ページを開くと、文字が渦を巻くように踊っている。そして、次第に一つのメッセージが浮かび上がってきた。


『真実は、見る者の心の中にある』


「これは……」


「イリア、その本が君に何を示している?」


 サイラスの問いに、イリアは思わず目を見開いた。


「もしかして、この本は……私たち一人一人の中にある真実を映し出しているんでしょうか? だから、読む人によって内容が変わる。それは本が変化しているのではなく、読者の中にある真実が異なるから……」


「その通りだ」


 サイラスは満足げな表情を浮かべた。


「その本は、普遍的な真理を記したものではない。それは、人類一人一人が持つ真実への『理解』を映し出す鏡なんだ」


 その時、大きな衝撃が収蔵庫を揺らした。


「彼らが入ってきたわ!」


 タリアの声が響く。彼女は何者かと激しい戦いを繰り広げているようだ。


「イリア、もう時間がない」


 サイラスは急いでイリアを特別収蔵庫の最深部へと導いた。そこには、巨大な装置が設置されている。


「これは『理解具現機』。この本の力を増幅し、図書館全体に拡散させることができる」


「でも、何のために?」


「抹消者たちに、真実とは何かを理解してもらうんだ」


 サイラスは装置を起動させ始めた。その瞬間、イリアの手の中の本が眩い光を放ち始める。


「私たちが目指すべきは、一つの絶対的な真実ではない。それぞれが持つ真実を理解し、受け入れること。その本は、そのための道具なんだ」


 装置が唸りを上げる。本の光は次第に強くなり、イリアは目を細めなければならないほどだった。


「そして、君はその理解者として選ばれた」


 サイラスの言葉が、まるで遠くから聞こえてくるように感じられた。意識が遠のいていく。


 最後に見たのは、本から放たれた光が、虹のように特別収蔵庫全体を包み込んでいく様子だった。


 そして、すべてが白く染まっていった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ