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第七章:タリアの手記

 タリア・ノクターンは、宇宙船の個室で静かに手記を綴っていた。窓の外では、エターナル・アーカイブの巨大な姿が、まるで人工の星のように輝いている。


 私の名は、タリア・ノクターン。

 これは、私が真実を追い求めてそれに辿り着いた記録である。


 彼女は深いため息をつき、ペンを走らせ始めた。


---


記録:宇宙標準暦4932年7月3日


 十年前、私は「真理探究者」となった。しかし、その決断の本当の理由を、私はまだ誰にも語っていない。


 それは、姉との約束から始まった。


「タリア、本当の知識というのは、私たちの理解をはるかに超えたものなの」


 姉のルナは、優秀な図書館研究員だった。彼女は「全知の書」の研究に人生を捧げ、そして、その研究の途上で姿を消した。残されたのは、一冊のノートと、謎めいたメッセージだけ。


『知識は、時として人の形を取る』


 最初は、その言葉の意味が理解できなかった。しかし、様々な図書館を巡る中で、少しずつ分かってきた。知識は、確かに生きているのだ。


 私はこれまで、銀河系の主要な図書館を全て訪れた。そして、それぞれの図書館で、不思議な現象を目の当たりにしてきた。


 アンドロメダ中央図書館では、歴史書が突如として書き換わる現象が。

 オリオン文庫では、未来からのメッセージと思われる記録が。

 そして今、エターナル・アーカイブで、私は「彼女」を見つけた。


 イリア・メリディアン。

 彼女には、特別な何かがある。それは姉が言っていた「知識が人の形を取る」という言葉を、強く思い起こさせる存在感だ。


 特に、彼女の目に宿る光。それは、かつて姉の目に見た輝きと、不思議なほど似ている。


「真理探究者」の中には、「全知の書」を力ずくで手に入れようとする者たちもいる。しかし、それは間違っている。姉が教えてくれたように、真の知識は、理解し合おうとする者の前にしか姿を現さない。


 今夜、私は特別収蔵庫の前で、ある存在を感じた。青い光。それは、姉が最後に追い求めていたものと同じ輝きを持っていた。


(数時間後の追記)


 先ほど、イリアとエレナ・シルバーストーンが、私の「影」を目撃したようだ。予想していた通りの展開だ。


 エターナル・アーカイブには、様々な次元が重なっている。時として、その狭間で、人の存在が「影」として現れることがある。私は意図的にその現象を利用した。彼女たちに、それを気付かせるために。


 サイラス・ウィンターフロストは、既に気付いているはずだ。彼は「選ばれし司書」の一人。そして今、新たな世代への継承の時を迎えている。


 私の役目は、その過程を見守り、必要な時に導くこと。それは、姉から受け継いだ使命でもある。


 ただ、予想外の事態も起きている。「抹消者」たちの動きが、急激に活発化しているのだ。彼らは、エターナル・アーカイブに眠る究極の知識を、永遠に封印しようとしている。


 私たち「真理探究者」は、それを阻止しなければならない。しかし、力ずくではない。真の理解者たちの手によって、知識は守られるべきなのだ。


(さらに数時間後)


 今、私は不思議な感覚に包まれている。まるで、様々な時間軸が交差するのを感じているかのようだ。


 姉が残した最後のメッセージに、こんな言葉があった。


『時が来たら、あなたは分かるわ。知識の本質が、実は愛そのものだということを』


 当時は理解できなかったその言葉の意味が、今、少しずつ分かってきている。


 イリアとエレナの中に、私は希望を見た。彼女たちの中には、知識への純粋な愛がある。そして、その愛こそが、「全知の書」を理解する鍵となるはずだ。


 窓の外で、エターナル・アーカイブの姿が、いつもより強く輝いているように見える。まるで、図書館全体が、これから起こる出来事を予感しているかのように。


 私の直感は告げている。大きな変化の時が、近づいていることを。


記録:宇宙標準暦4932年7月4日 未明


 先ほど、特別な夢を見た。


 夢の中で、私は姉のルナと再会していた。場所は、十年前に彼女が最後の研究をしていた、オリオン文庫の深層書架だった。


「タリア、近づいているわ」


 姉は、昔と変わらない優しい笑顔で私に語りかけた。


「何に、姉さん?」


「全てが交差する瞬間に」


 その言葉に、私は夢の中でも激しい動悸を覚えた。交差する瞬間──それは、姉の残した研究ノートにも記されていた言葉だ。


 夢は続く。ルナは青い光に包まれた本を手に取り、私に示す。


「知識には、意思があるの。そして、その意思は時として、人の運命さえも導く」


 その瞬間、夢の風景が変わった。エターナル・アーカイブの特別収蔵庫。そこでイリアとエレナが、同じ青い光に包まれている。そして私は理解した。これは単なる夢ではない。過去と未来が交差する、特別な啓示なのだと。


(数時間後)


 夢の意味を、より深く理解し始めている。


 姉が追い求めていた「全知の書」は、単一の実体ではない。それは様々な形を取り、様々な場所に存在する。そして時として、人の中にさえ宿る。


 イリアとエレナの中に見た光。それは間違いなく、「全知の書」の意思が彼女たちを選んだ証だ。特に、イリアの持つ純粋さは、姉がかつて「真の理解者の条件」と呼んでいたものそのものだ。


 しかし、事態は予想以上に急速に動いている。「抹消者」たちの動きが、ここ数日で休息に活発化した。彼らも何かを感じ取っているのだろう。


 私は、彼らの意図を完全には否定できない。確かに、一部の知識は人類に危険をもたらすかもしれない。しかし、それを恐れて知識を封印することは、より大きな危険を招くことになる。


 姉はよく言っていた。


「知識は、光のようなもの。それは時として眩しすぎて危険に見えるかもしれない。でも、闇の中で光を消してしまえば、私たちは永遠に道を見失ってしまう」


 その言葉の真意を、私は今、深く理解している。


(深夜の追記)


 エターナル・アーカイブの中で、何かが動き始めた。私の感覚が告げている。


 おそらく、イリアとエレナも既に気付いているはずだ。図書館全体が、まるで生命体のように脈動を始めている。


 サイラス・ウィンターフロストの動きも、より明確になってきた。彼は確実に、次の段階への準備を進めている。私がすべきことも、また明確になってきた。


 姉が最後に残した言葉を、ここに記しておこう。


『知識は、理解し合おうとする者たちの間にこそ宿る。そして時として、それは予期せぬ形で、私たちの前に現れる。決して、一人で追い求めてはいけない』


 私は、この言葉の意味を、今まさに実践しようとしているのかもしれない。


 窓の外では、エターナル・アーカイブの巨大な外壁が、朝日を受けて輝き始めている。今日という日が、何かの始まりになることを、確かな予感として感じていた。


 この手記も、いずれ誰かの目に触れる時が来るだろう。その時、この記録が何かの導きとなることを願いながら、私は最後の言葉を記す。


『知識は、決して一つの形に留まらない。それは、理解者たちの心の中で、永遠に進化を続けていく』


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