第十一章:知識の果て
光の渦の向こう側には、想像を超える光景が広がっていた。
無数の図書館が、まるで万華鏡のように折り重なって存在している。それぞれの図書館には、それぞれの真実が保管されているのだろう。
「これが……並行世界?」
「そう」
タリアが説明する。
「それぞれの世界には、それぞれの『全知の書』が存在する。そして、それぞれの真実がある」
「でも、なぜ今になって……」
「君の理解が、それを可能にしたんだ」
サイラスが続けた。
「『全知の書』は、読み手の理解力に応じて、その力を解放する。君が真実の本質を理解したことで、本も完全な力を示すことができた」
イリアは自分の手の中の本を見つめた。確かに、最初に見たときとは明らかに違う。文字はより鮮明に、より深い意味を持って彼女に語りかけてくる。
「私たちは、この状況にどう対処すべきなんでしょうか?」
「その答えは、君の中にある」
サイラスは優しく微笑んだ。
「君は既に、真実の本質を理解している。異なる真実の共存と理解。それは、この状況にも適用できるはずだ」
イリアは深く考えた。そして、「全知の書」を高く掲げた。
「私たちは、この機会を活かすべきです。異なる世界の知識を理解し、共有する。しかし、それは慎重に、秩序を保ちながら行わなければなりません」
本が彼女の言葉に反応し、眩い光を放った。光は周囲の空間に広がり、混沌としていた現実が、徐々に安定していく。
「見事だ」
タリアが感心したように言った。
「あなたは本当に、その本に相応しい人物だったのね」
並行世界との接続は完全には閉じず、しかし制御可能な形で安定した。まるで、図書館と図書館を結ぶ架け橋のように。
「これで、私たちは新たな段階に入ったわ」
タリアが言う。
「異なる世界の知識を理解し、共有する。それは、人類の知の地平を大きく広げることになる」
「ただし、それには大きな責任が伴う」
サイラスが付け加えた。
「イリア、君はその責任を担う準備はできているか?」
イリアは毅然とした表情で応えた。
「はい。これが、司書としての、そして『全知の書』の理解者としての私の使命です」
特別収蔵庫の窓からは、いつもと変わらない宇宙の風景が見える。しかし、イリアにはその向こう側に、無限の可能性が広がっているのが見えるような気がした。
知識の探究に終わりはない。それは時に危険を伴い、時に困難な選択を迫られる。しかし、それこそが人類の進歩の本質なのだ。
イリアは「全知の書」を胸に抱きしめた。これからの道のりは決して平坦ではないだろう。しかし、彼女にはもう確信があった。
真実は一つではない。しかし、その多様性こそが、私たちの理解を深め、世界を豊かにしていく。
新しい章の始まりだった。




