表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【SF短編小説】無限書庫のイリア ―全知の書架で私達は出逢う―  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

第十一章:守るべきもの

 理解具現機の光が完全に収まるまでに、かなりの時間がかかった。


 特別収蔵庫の円形の部屋で、かつての敵味方が、静かに向き合っている。誰もが、何かを大きく変えられたような感覚に包まれていた。


「本当に、これでよかったのでしょうか」


 ラウラ・グレイブンが、脱ぎ捨てた白いローブを見つめながら呟く。


「知識の制限という選択肢を、完全に捨ててしまって」


「制限ではなく、理解を」


 サイラスが優しく答えた。


「君の懸念は正しい。知識は時として危険をもたらす。だからこそ、より深い理解が必要なんだ」


 他の抹消者たちも、武器を収め、静かに頷いている。彼らの表情からは、先ほどまでの敵意が消え、代わりに深い思索の色が浮かんでいた。


「さて」


 タリアが身を起こす。戦いの疲れが見えるが、表情は晴れやかだ。


「これからが本当の始まりね」


 その言葉通り、理解具現機が再び微かな震動を始めた。しかし今度は、敵意や恐れを感じさせない、穏やかな共鳴だった。


 イリアは「全知の書」を開く。ページがゆっくりと捲れ、新たなメッセージが浮かび上がる。


『次なる真実が、扉を叩いている』


「どういう意味ですか?」


 その問いへの答えは、予想もしない形でやってきた。


 特別収蔵庫の壁に、突如として光の渦が出現したのだ。渦の中心からは、まるで別の空間が覗いているかのような景色が見える。


「並行世界との接続……!」


 タリアが息を呑む。


「『全知の書』の力が、現実の壁を越えてしまったのね」


 抹消者たちが反射的に身構えるが、すぐに力を抜いた。彼らにも分かっていた。これは敵意ではなく、新たな理解への招待なのだと。


「イリア」


 サイラスが真剣な表情で語りかけてきた。


「君は選択をしなければならない。この状況を収束させるか、それとも……新たな真実を受け入れるか」


 イリアは迷った。司書として、現実の秩序を守る義務がある。しかし同時に、知識の探究者として、未知の真実に触れたいという強い衝動も感じていた。


「私は……」


 彼女は深く息を吸い、決意を固めた。


「両方を選びます」


「両方?」


「はい。私たちは知識を守り、同時に探究する。それが図書館の、そして司書の使命であるはずです」


 イリアは光の渦に向かって歩き出した。


「真実は一つではない。だからこそ、私たちは理解し合わなければならない。たとえ、それが異なる世界の真実であっても」


 「全知の書」が、彼女の決意に呼応するように輝きを増した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ