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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

じゃんけん

    じゃんけん


 人間は暇だとロクなことを考えないらしい。

 多分、俺もそんなくだらない人間の一人で、だから、アイツにあんなことを言ってしまったんだと思う。

 それは、二人きりの部室内でのいつもの時間の出来事だった。

 アイツが真面目に宿題を終わらせていて、俺がスマホでゲームをしているだけのどうしようもない時間。

 どうしようもないけれど、俺には大切な時間。

 絶対に失くしたくないいつもの日常。

 時々、くだらない話をしたり、しなかったり。

 何も話さない時間が続いても、気詰まりにならない。

 そんな相手は、今までアイツだけだった。

「なあ、じゃんけんしようぜ。」

 俺の気まぐれでくだらない提案に、アイツがめんどくさそうな反応をする。

「はあ?」

「ひまだし、いいだろ?」

 俺はアイツの反応も織り込み済みなので、引き下がることはしない。

 そんな俺の態度を見越して、アイツは呆れてため息を吐いた。

「……他にやることないのかよ……。」

「何だよ、いいだろ?」

 こんなことでめげない俺。アイツがつれないなら、いっそ更に攻めていくだけだ。

 そう興が乗ってきて、俺は一歩踏み出すことにした。

「でさ、」

 口を開きながら、ぐっとアイツににじり寄る。

「負けたら、キスさせてくれよ。」

 冗談めかしてはいたが、紛れもない本音を混ぜてみる。

 だが、退路を断つことは出来なかった。

 もしも、これで二人の関係が拗れたら……。

 そんなこと、俺には耐えられなかった。

 内心ビビりながら、表面上は余裕綽々でにやにやと笑ってみる。

 アイツの反応如何によっては、すぐにでも撤退して悪い冗談にできるように……。

「はっ?」

 アイツは、想った通り驚いて困惑していた。

 だが、俺の提案に引いていないようだった。

 まだ、冗談で通じそうだと踏んだ俺は、もう少しだけ近づいてみる。

「いいだろ?罰ゲームだよ。」

 言い訳を用意し、余裕があるように見せるために持っていたお菓子を口に入れる。

 本当はアイツの反応が気になって心臓が飛び出てしまいそうだが、そんなことはおくびにも出さない。

 少しだけ時間をかけた後、アイツは小さな声で呟いた。

「……嫌だよ。」

 俺は分かっていたこととはいえ、その反応に少しだけがっかりした。

 だが、アイツの言葉はそこでは終わらなかった。

「……罰ゲームで、キスなんて……。」

 聞いた直後は、アイツの言葉の意味が全く分からなかった。

 だが、時間が経つにつれ、徐々に言葉が脳に浸透していき意味が理解できるようになる。

 嫌なのは、罰ゲーム?

 だったら、キスは?

 ……俺が相手なのは?

 言葉の意味が理解できると、今度は脳内に数々の疑問が湧きあがる。

 答えを求めて、アイツの顔を覗き込むと、アイツの顔が赤く染まっていた。

 その反応を見て、俺の顔も赤く染まっていく。

 夕暮れの部室で、男二人が顔を赤く染めて沈黙する。

 アホらしさ、この上ない。

 何か口に出さなければ……。

 漂う甘酸っぱいようなしょっぱいような空気に耐えられず、俺は言葉を探す。

「……そうだな。」

「……そうだよ。」

 同意する二人の声は少し震えていた。

 何だ、びびって損した。

 俺は心の中に巣くう小心者の俺に思わず笑いたくなった。

 そして、もう一歩。

 今度は茶化すのではなく、冗談でもなく、アイツの心に歩み寄る。

「罰ゲームじゃなくて、ごほうびだ。よし!勝ったら、キスな?」

 どっちが勝ったらとか、そんなどうでもいいルールは決めていない。

「え?はぁっ!?」

 アイツは戸惑いと驚きの声を上げながらも、赤い顔でこちらを振り返った。

 ぐっと、アイツに近づき、逃がさないように手を取る。

 今度はしっかりと笑う。

 少しだけ獲物を狙う表情になっていたかもしれない。

 アイツは明らかに怯んでいた。

 だが、俺の手を振り払うことも、逃げることもしなかった。

 俺は大きな声で宣言する。

「じゃーんけん……。」

 結果はもう決まっている。


他にも長編連載しています。『転生したらついてましたアアアアア!!!』モブ女がイケメンに転生して異世界で推しに出会うラブコメです。よろしかったら、是非読んでみてください。

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