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俺たちはチームなんだ

「けぽふっ、生ビールおいしーっす!」


そろそろあたけに聞いてみるか。

そう、吸血鬼としてのあたけの核心に迫る質問だ。


「あたけ、好きな肉はあるか?」


「ええっ?なんだよ急に、いきなり言われてもなあ~……」


「うっす!先輩、ジョッキが空っぽになっちゃたっす!もっともっとお酒飲みたいっす!」

「ありちゃん、勝手に注文しておいていいよ」

「まあ全体的に肉なら何でもいいけどハンバーグとかかな」


「それは料理だろ」


「難しいから先輩に注文して欲しいっす!」

「いや料理だけどさ、だっていきなり好きな肉とか言われても、うーん牛肉……?」


「先輩!注文やって欲しいっす!お酒お酒!」


「レバーが好きだったりはしないのか?ステーキの焼き加減とかはどうなんだ?やっぱりレアとか」

「飲みたい!あたしお酒飲みたいっす!うっす!」

「な、なあたかし……ありちゃんが困ってるよ」

「やってやって!ぎゃん!先輩!注文やって!やーって!!」


「ありちゃん」


たかしはにっこりと完璧な笑顔で微笑んだままだ。


それでも彼の真っ直ぐした眼差しに心臓をわし掴みにされたような感覚に襲われたありちゃんは、即座に笑顔を作って応じる。

まるで悪戯をして親オオカミに睨まれてしまった子オオカミだ。


「う、う~……っ、うっす!」


「お酒、美味しかったんだね」

「……うす」

「じゃあ一緒に注文して覚えようか?」


「うう~っ……難しいっす」

「ありちゃん、これは狩りだよ」

「狩り?」

「そうだ、俺の財布やこの焼き肉屋から肉を狩るという……狩りなんだ」

「うー……?」


(ありちゃん、酔っぱらうと二倍くらいわがままになるんだな)


人狼はアルコールに弱いのか。

それともありちゃんがたまたまアルコールに弱いのか。

どちらにせよありちゃんにお酒はあまり飲ませない方がいいかもしれない。


いや、酒で酔うようなら潰れるまで飲ましてやれば、あたけとゆっくり話すことができるかも知れない。たかしはぴっぴっするヤツ(オーダー用タブレット)を手に取ると、ありちゃんの傍らで丁寧に操作方法を解説する。


「こうして、こうして、こう」


「こうっすか?」

「いや、こうして、こうして、こう」


「このアイスクリーム美味しそうっす!」

「じゃあ一緒に注文しようか」

「うっす!」


「では……こうして、こうして、こう」


たかしはにこにこと根気よくありちゃんに操作を説明する。

ありちゃんの頬がすっかり桜色に染まっているのはアルコールのせいばかりではないだろう。


(うっす!先輩の格好いい声を録音して勉強したいっす~!)


やがてありちゃんが操作方法をマスターするとたかしは花をまとうようなスタイリッシュかつ謎の動きを繰り出しながら席に戻り、あたけへの質問を再開する。


「生レバーは好きか?血の滴る肉とかは?」

「い、いや、だからなんなんだよその質問!まあ嫌いじゃないけど大好きだってほどじゃないな……」


そこまで言うとあたけは落ち着きなく左右を見回し、たかしの耳元でささやくように答える。


「つーかお前、なんか聞きにくいことを聞きたいんだろ?」

「まあな……」

「いいけど、こういう人の多い店で聞くなよ。ありちゃんだっているんだし……」


あたけのためにもお互いさっさと共有しておいた方がいいかもしれないが、とはいえ確かに、あたけの言う通りかもしれない。


「すまない。お前の言う通りだ。それに伯父さんにも聞くなと言われていたことだからな……」

「ん?もしかして吸血鬼関係のこと?」

「ん、ん、ああ、まあ……」


「いや、そんな心配しなくてもさあ、俺もやることやってるから……」


たかしが曖昧に答えると、あたけは焦ったように後頭部を掻いて言葉を濁す。


「そうか、悪かった」

「いやいいよ、俺だっていざとなったらお前に相談したいし……」

「ああ、俺たちは……」


「「友達だからな」」


二人の声がハモる。

たかしとあたけは軽く拳を合わせると、お互いににやりと微笑んだ。


ありちゃんは黙ったままだ。

お酒も飲まずにぴっぴっするヤツを真剣な表情でいじりまわしている。


やがてありちゃんがふぅとため息をつきながらタブレットをテーブルに戻すとすぐにそれはやって来た。


気がついたあたけが口を開く。


「なんだ?サプライズイベントかなんかか?」

「え……」


たかしが視線を移すと、厨房の奥から15人くらいの従業員たちががらがらとワゴンを引いてやって来るのがわかった。


ワゴンには切り揃えられた肉の塊がいくつも載っており、山盛り肉のどんぶり飯や骨付きステーキはもうもうと煙を上げている。


もちろん肉だけではない、酒類やデザートまで山積みだ。


ビール、ワイン、芋焼酎、純米酒、ウィスキーなどなどが並々と注がれたガラスの容器が乗せられており、チーズケーキやバニラアイス、ティラミスといった定番の デザートから、つぶつぶシャキシャキとした食感が嬉しいみかんと和梨のパフェ、濃厚で刺激的なゴルゴンゾーラがクセになる贅沢レアチーズケーキなどの『焼肉屋びばぐりる』ならでのメニューがたくさん皿に盛られていた。


「うっす!来たっすよ先輩!」

「……」


キラキラと目を輝かせるありちゃんとは対照的にあたけは渋い顔でちらりとたかしを見る。


「来ちゃったよたかし」

「……来たか」

「たかし……これ……俺も払おうか?」


「いや、いい……ありがとう」


(ありちゃんに勝手に注文していいと言ったのは俺だしな……)


あたけの厚意は有難いが、ここはリーダーとしての意地がある。


(……俺たちはチームなんだ)


先ほどありちゃんを少し邪険に扱ってしまったことを反省しながら、たかしはジョッキを傾けるのであった。

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