第96話
アフリカに限らず、前世のように科学が発展した世界でも、まだ世界人口の半数はまともな水を使えていないのだ。
日本で暮らしていると当たり前のように使えている水も、国によっては大変貴重なものになる。
水以外でも海外に渡航するとカルチャーショックを受けることが多い。日本での常識が世界基準などと考えていると、異世界などでは絶対に生きていけないだろう。
奥へと進んだ。
扉のない先には倉庫か保管庫といった空間が広がっていた。
想像以上に広い。
段差のあるフロアには雑然と様々な物が置かれており、壁際には大きな書棚が配置されている。
なるほど。
回収すべきものを選別して欲しいと言われた理由を理解した。
何かの設備となる部品もバラバラに解体されて所狭しと置かれているのだ。
知識のない者が見ても、何に使うかわからないものが並んでいる。
「このような状態であることは探索前からわかっていたのですか?」
マイグリンがここに行って欲しいと言ったのは、探索が完了する前であったはすだ。
「まあな。ここには倉庫しかなさそうだし、大きな設備は運び込むことすら難しいだろう?」
確かにその通りだった。
ダンジョンの間口や通路の広さを考えると当然のことかもしれない。
ここに何があるかではなく、このような場所だという情報から遺物を選定できる者が不可欠と判断したのだろう。
しかし、ざっと見る限りすべての物に目を通して振り分けるだけでも相当な時間が必要だと感じた。
これは一日で終わりそうにないぞと思いながらも、一点一点に目を通し振り分けをスタートさせる。
書物に関しては他の者に目を通してもらい、有用もしくは内容が不明なものを優先的に持ち帰る候補として確保してもらう。
それ以外の遺物に関しては俺とブローナンヴィルで使用用途や目的別に振り分けていった。
「やっと終わった···」
外の風景は見れないが、感覚的に夜明け前だと判断した。
魔道具の類は少なく、俺が理解しやすい物が多かったため途中からはそれほど時間がかからなかった。
「それでも結構な量だな。」
「何回かに分けて運ぶ必要がありますね。」
人力で運ぶのは外までだ。
ダンジョンの外には馬車がある。
「ところで、バサノス・イナを作るための設備ってのはあったのか?」
「ええ、これですよ。」
「これだと?嘘だろ、小さすぎないか?」
小さいとは言ってもそれなりの大きさだ。
溶解炉は別に用意しないといけないが、バサノスを溶解させたあとに押し出して紡糸化するための溶解押し出し機と口金が数種類あった。
口金には様々な形状の孔が数多く開いている。用途に応じて孔を変えることで適切な断面形状となり、それぞれに特徴や機能性をもたせることができるのだ。
因みに、紡糸は溶解炉から押し出し機で口金を通じて押し出し、空気中で冷却させて繊維化させた後に巻き取るのが一連の流れだ。
叡智の土牢ではすべてが揃わなかったが、あとは長さ方向に引き伸ばすための巻き取られ延伸と溶解紡糸巻取器があれば生産できるだろう。
ただ、動力が人力となるため、熱さなどを考えるとなかなか厳しい面がある。この辺りは戻ってからブローナンヴィルと要相談だろう。
「全体像でいえばこんな感じになります。足りない分は別途作る必要がありますが、重要な部分は揃いました。後はあなたなら何とかしてくれるでしょう。」
俺はラフスケッチで溶解紡糸装置の模式図を書いた。
「···この部分がこれか?」
「ええ、そうです。」
「ああ、なるほどな。溶解炉からの次工程部分は揃っているわけか。」
「はい。口金も何種類かありますので、用途に応じたものが作れますよ。」
気色満面のブローナンヴィルを見て、あとは丸投げしようと思った。そもそも俺は技術者ではないのだ。
「この口金の形で作り出した繊維の断面形状が変わります。例えば、バサノス・イナと呼ばれていたものは建築用資材として使うので、この辺りの口金を使うのではないかと思います。防刃服なら短繊維の綿状のものを出すのでこちらではないかと。綿状のままでも使えますが、木綿や羊毛などの糸と混紡させることで布地を作りやすくします。」
ブローナンヴィルに簡単な説明をしておいた。
これで彼の製作魂に火がついたようなので、あとは求められたら助言するくらいでいいだろう。
この後は拠点に戻って回収品の整理と検証がある。
今日運び出せないものについては、後日に別部隊が実行する予定だ。
数日後には新たな都市の予定地へと旅立ち、そこで本格的な建設計画に向けての動きに帯同する予定である。
多少の疲れはあるが、精神的には充実していた。




