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第92話

合気道という武道は、理解が浸透していない場においてはチートだといえる。


しかし、殺戮ウサギ(ヴォーパルバニー)の実力はそれだけで一蹴できるものではないと感じていた。


だからこそ、試合稽古や模擬戦などよりも、彼女が魅力を感じるであろう技術の指導を申し出たのだ。


結果として、身の危険は回避された。


どうせ毎日鍛錬しているのだから、そのときに一緒にやればいいだけなのである。


そうして、ビジェを指導する日々が始まった。




「なるほど、非常に理にかなった技術ですね。」


結論から言おう。


あのとき、ビジェとの立合いを回避して正解だった。


彼女の戦闘センス、そして目の良さは驚愕に価した。


指導を受けるときの態度は申し分なく、みるみるうちに技を体得していったのである。


とりわけ、気を合わせることにおいては理解が早く、独自の着眼点で相手の力点や呼吸、筋肉の反応に至るまでを読み取るまでにそう時間はかからなかったのだ。


こちらにしてみても、互いを相手取っての掛かり稽古ができるのだから都合がよかった。


そして、常にニコニコと指導を受ける彼女のおかげで初心に帰ることができたともいえよう。


これほど楽しく稽古ができたのはいつ以来だろうと思いながら、ビジェに身体能力強化魔法を使ってもらい、そのスピードやパワーにも徐々に慣れていくことができた。


「よく合わせられますね。」


「そもそも合気道は、肉体的能力や体格で劣る者でも扱える武芸として考えられたものだからね。」


「それでも先ほどのスピードに対応できるのは、待ちの姿勢によるものでしょうか?」


「そうだね。こちらから攻めていくと、反応速度で逆に後手に回るだろうしね。」


そんな会話を交わしながら、いつしか自らの技量も高まっていることに気づき歓喜した。




「ソー、ダンジョンに行くぞ。」


ブローナンヴィルにそう言われ、ビジェと共にダンジョンに行くことになった。


忘れていたわけではないが、かつての賢者が残した遺品が見つかったとのことだ。


なぜ帝国に帰属していた賢者が、ダンジョンなどに遺品を置いていたかについては疑問があった。


しかし、それは別の賢者による行為だということを早くに聞かされていたため、深くは考えていなかったのだ。


以前に見せられたバサノス・イナは、かつて帝国を訪れた冒険者が賢者に解析を依頼した代物として残っていたものだという。


帝国ではバサノスの加工やその技術については知られていない。長きに渡り帝国で暮らしていた賢者いわく、専門外の知識であるとのことだったのだ。


ただ、バサノス・イナについての記述を読んだことがあるその賢者は、記憶を頼りに素材としての特徴を語っていたらしい。帝国はその情報をもとに、当時の冒険者ギルドを通じてそのルーツを探していたとのことだった。


長い年月をかけてバサノス・イナのルーツにたどり着いた帝国は、それを生産へと結びつけた賢者の軌跡を知る。


しかし、すでにその賢者は亡くなっており、他人の悪意に辟易してとある洞窟に潜ってそこでひとり余生を過ごしたそうだ。今ではダンジョンと呼ばれているが、叡智の土牢という名がついたのはそれに由来する。


因みに、叡智の土牢の場所が明確になってから久しいが、これまで探索されなかったのには理由があった。やはり長きに渡った戦争と、それ以前は他国の領土であったことにより手をつけることができなかったそうだ。


「ダンジョンに行くための準備って、何をすればいいのだろうか。」


「食料や野営の準備は任せておけばいいそうです。ソー殿は心構えと十分な休息をとっておけばよいのではないかと。」


「心構え?」


「今回のダンジョンは土中ですから、異形の魔物を見ることになるかもしれません。」


ああ、もしかしてグロテスクなのが出るかもということか。正直、あまり行きたくはないな。


「どんな魔物が出るのかはわからないの?」


「そうですね···魔物といっても元は獣などの突然変異ですから、洞窟などで見られる生物の派生だと思います。」


ふむ、コウモリとか爬虫類系と考えればよいのかもしれないな。


俺は詳しい話を聞き、自分なりに準備を進めることにした。


そして二日後に都市を立ち、少し離れた地にあるダンジョンを目指す。


同行者は俺とビジェ以外にブローナンヴィルやクルゴン、そして遺物回収チームとその護衛につく軍所属の一小隊と、大世帯である。


総勢で50名強となるのだが、その半分を軍の人間が占めるのだからその危険性を物語っているといえるだろう。


「現地には保全のための人員と、その警護のために分隊が留まっていますにゃ。先んじて受け入れ体制を準備していますので、到着後のことは心配ありませんにゃ。」


にゃにゃとかわいらしく語尾につけているのは警護役の小隊長である。猫獣人だそうだが、獰猛なトラを思わせる容姿の男性のため反応に困ったのはいうまでもない。




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