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第89話

「もしかして、食べ物でしょうか?」


「うん。たぶん発酵乳の効果が高いのだと思う。」


昨夜ビジェから聞いた話では、生まれ育った地方に生育しているスミレ草や苔の葉を使った発酵乳が日常的に作られ口にしていたそうだ。


その製法については前世でも聞いたことがある。ムシトリスミレやモウセンゴケの葉を容器の底に敷き、乳を入れておくと発酵乳ができたという、かつてのスカンジナビア地方の独特の製法だ。


クレモリス菌と呼ばれる乳酸菌により、粘性の高いテッテメルク、ラングフィル、ピトカピーマなどの発酵乳ができたと伝えられている。


スカンジナビア地方は、ビジェが生まれ育った地域と環境もよく似ているようだ。おそらく、アイスエルフも同じような発酵乳を日常的に摂取していたのだと思う。


発酵乳とはヨーグルトのことだが、地方や製法によって風味や見た目は変わる。他のエルフ種もそれぞれに独自の製法で発酵乳を作っていたようだ。


因みに、熱帯地域出身のダークエルフに関しては、発酵乳ではなく唐辛子を使った発酵食品を食しているとのことである。


エルフの美貌は野菜や発酵食品、カプサイシンが含まれているものを常食としていることがひとつの要因ではないかと考えられた。


「やはりエルフの食生活は医食同源に通じるね。長命なのも頷けるよ。」


「戦争に駆り出されてからの食生活に馴染めないのはその辺りにあります。我々エルフの食べる物は独特だと言われますが、私たちにすれば自然と調和した暮らしの中で培った知恵なのですよ。」


美容と健康に効果のある『魅惑のエルフ食堂』を開業すれば、一定の需要がありそうだなと思った。


「そういえば干しタラはあまり好きじゃないみたいだったけど、どんな魚や肉料理を食べていたの?」


「魚はサーモンやマス、肉はクマや鹿とそれにエルクや馬ですね。」


北欧でよく食べられているものと同じようだ。


「獣肉はどんな風に下処理していたのかな?」


「血抜きをしっかりと行ってから、調理する前に塩水につけて何度も臭み取りをします。クマは臭みが強いので先にボイルしてから調理ですね。あとは香草などで風味付けします。」


「ジビエ料理の基本的な下処理というわけだ。」


「こちらでは血抜きが不完全だったり、調理前の下処理をしないことも多いので獣肉の悪いところが出てしまうのだと思います。」


「ビジェも料理はよくするのかな?」


「いえ、ほとんどしません。刃物は別のものに向けるよう教わりました。料理の下処理に関しては狩りの延長としてよく手伝いましたが。」


ああ···別のものを刻むのは得意だったな。


ひとつの分野で異名を持つほどに努力したのだから、それはそれでありだろう。


「なるほど。確かに獣肉の取り扱いは詳しそうだ。あと、エルフは甘味もよく食べるの?」


チコリコーヒーにシロップを入れたのがお気に入りのようだった。


単純な興味からだが、ビジェが生まれ育った寒い地域では、メープルシロップのような樹液などを活用していたのではないかと思ったのだ。


ただ、メープルシロップが採れるサトウカエデは、前世では北アメリカが原産だった。ビジェの出身地とは地域性が異なるため、別のものになるだろう。


「ビルベリーが夏場に採れるのでそれくらいでしょうか。酸味が強くて甘味とはいえませんが、鍛錬で疲れたときによく食べました。」


やはり砂糖などは流通量が少なく高価なため、スイーツというものは果物が大半なのである。それは街中でも変わらず、貴族ですら何かのイベントでもない限り砂糖は口にはできないようだ。


アヴェーヌ家にいた頃に見聞きしたお菓子も、前世でいう二ウールやクルートくらいのものだった。しかも、いずれも小麦粉を使用するため一般庶民ではなかなか食べれないようだ。


二ウールはゴーフルのようなお菓子で修道院でよく作られている。一方、クルートは小麦粉で作った生地にチーズを挟んで焼くタルトの元祖と呼ばれているお菓子だ。


甘みがほとんどないため前世のスイーツとはかなり違う。どちらかといえば小腹を満たすための軽食といった印象だ。


「なるほどね。やはりコーンシロップを大量に生産する方が良さそうだな。」


テンサイから作るという方法もあるが、遠心分離器などの設備開発が必要となる。かつ、テンサイ1キログラムから20%に満たない砂糖しか取れないことを考えると非効率的だろう。


健康を考えるとテンサイ糖の方が良いのだが、ここは効率重視でやはりコーンシロップである。


コーンシロップの原料となるコーンは飼料以外にも様々な使い勝手があり、栽培も比較的簡単というのが大きい。さらに砂糖よりも製造コストが安く、液状のため輸送や加工にも労力や費用がかかりにくいのだ。





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