第85話
その後は本格的な会議が続いた。
国政のために必要な組織、産業や経済の基盤を支えるための大枠の話へと進む。
本来、ここは帝国内に新たに誕生する国である。
法律や憲法にあたる基礎法については大筋でそれを踏襲する。しかし、マイグリンや他の参加者の希望もあり、より柔軟な発想からそれらについても変更するつもりのようだ。
彼らは俺にその草案を依頼してきた。
草案とは文章の下書きのことをいうが、さすがに憲法や法律については専門家というわけではない。そのことを告げると、返ってきたのはあまり歓迎したくない言葉だった。
「そうだな。ソーには他にもやってもらいたいことがある。必要な人員と予算を組んで組織化するから、それをうまく使ってくれ。」
期待を寄せてくれるのはいいが、それがどれだけ大変なことか理解しているはずだろう。
「マイグリン、少し待て。」
ブローナンヴィルがマイグリンの進行を止めた。
「なんだ?」
「ソーにはこちらにも時間を割いてもらいたい。」
助け舟を出してくれるのかと思ったが甘かったようだ。
「それはこちらも同様だ。」
「いや、こちらにも知恵を貸してもらわなければならない。」
さらにヴェーハートやクルゴンまで参戦してきた。
確かに新しいことに取り組むのは楽しいのだが、あまりにも多くのことを抱えこんでしまうのは遠慮したい。
ふと、ビジェと目が合った。
何やらそわそわしている様子だ。
彼女は唇をぎゅっと引き結んだ表情になり、胸の前で拳を握っていた。
何のポーズだと思ったが、そういえば昨夜の話の中で食事情の改善を会議で訴えて欲しいと言われていたのを思い出した。
必要なことではあるが、今それを言うとさらに仕事量が増えるのは誰でも予想できることだろう。
どうしようかと躊躇っていると、ビジェの胸の前には両拳が握られており軽く振られるようになっていた。
がんばれと言っているのか、殺戮ウサギの威嚇ポーズなのかはわからないが、どうせならまとめてやってしまおうという気持ちにさせられてしまったのである。
冷静に考えれば、各部門でプロジェクトチームを立ち上げて俺が助言するなり案を出す形にする方が労力は少ないと判断したのだ。
ビジェの仕草が普段のクールビューティーな彼女からは想像しにくいほどかわいかったからではない。さらに彼女の名誉のために、真剣な目線に徐々に殺気がこもっていく感じがしたからというわけでもないとも言っておこう。
すべてを抱えこんで作業に忙殺されるよりも、効率的な手法を用いることにしただけだ。
俺は食糧事案について言及し、その一環として食生活の改善や外食産業の重要性についても発案した。
食糧事案については畜産や農業の充実を計るためのあらたな食材に関しての提案を行い、そこに健康増進のために必要な栄養素を取れる食物や調理法についても触れていく。
さらに、戦争による食料自給率の低迷からの脱却と、今後の天災による食糧不足の対策まで盛り込むことで簡単に議案を通すことができた。
「しかし、食事情の改善や外食産業の充実とまでなると、かなり難しいことではないのかね?」
「それらは後付けではなく目標として定めることによって畜産や農業、漁業といった産業の生産高を設定することができます。食事情を改善することで健康だけでなく死亡や病気に至る率を下げ、頑健な体づくりも見込めますので生産性の向上にも結びつくでしょう。外食産業に関しては、先ほど話にあった観光や交易とも連動し相乗効果を生みます。どうせなら、この国を訪れる人たちの胃袋をがっつりと掴んで美食術の国という印象を持ってもらいましょう。」
クルゴンからのそういった意見に対しては説得力のある答えを告げておく。
話が壮大すぎてやや引き気味の者も出たが、どうせならとことんやってやる精神とアドレナリンが過剰分泌した俺を止めることはできなかったようだ。
「···ソーの熱意はわかった。ありがたくもなかなか大変な作業になりそうだが、具体的にはどうやって進めるのだ?」
マイグリンも顔を少しひきつらせてはいるが、今更後悔しても遅いのだよ。
「まずは土台となるフレームワークを構築して組織化させましょう。」
俺はプロジェクトチームを、必要な数だけ組織の骨組みとなるフレームワークにぶら下げることを提案した。この仕組みにすることで効率化や幅広い発想力、そして結論を迅速化できる効果が出る。
フレームワークにはOKRを活用することにした。OKRはObjectives and Key Resultsの略で、達成すべき目標を重要な成果に落とし込む手法である。アメリカの世界的なCPUメーカーが開発し、多くの巨大IT企業が取り入れている優れた目標設定管理方法といえた。




