第84話
「もしかして、ソーはその闘技会で外貨稼ぎをしようというつもりなのか?」
ここでマイグリンが質問を入れてくる。
「ええ、定期的に開催することで観光収入を得ることもできます。それに他国の賓客を招けば、友好を深めながら円滑な外交も可能になるかと。」
「なるほどな。軍事力の誇示と外貨稼ぎ、それに友好国との折衝を同時に行えるわけか。」
「それだけではありません。こちらで開発した新技術や新商品の展覧会についても、その前後に開催すれば輸出高の向上も見込めます。」
「いい案だ。都市を訪れる者の中から優れた人材のスカウトも出来そうだな。ただ、外貨と商品をそのまま交換させるのか?価値基準が異なる場合など、少しややこしいことになりそうだが。」
「一般的な為替相場は金や銀などの重さにより決定しています。あらかじめ基準を設けておけば問題はないでしょう。ただ、同価値の交換では旨みがないので、そこには少し秘策があります。」
「秘策?」
「詳細は後ほどお話致します。」
マイグリンとの話が盛り上がっているときに、ヴェーハートから横槍が入った。
「軍人を見世物にしようというのか?」
表情を見る限り、怒っているようではなさそうだ。
「確かにそう思えるかもしれません。しかし、闘技会への出場は強制ではなく任意で問題ないかと。希望者だけが出場すべきですし、それが鍛錬への励みにもなるのではないでしょうか。それに場の警護も必要です。統制や連携の高さを見せる絶好の機会でもあるかと思いますよ。」
「ふむ···」
ヴェーハートが考え込む表情を見せた。
「何かご懸念がおありでしょうか?」
「いや、我らの力を示すにはそれがよいかもしれんな。個人的にも戦争を求めているわけではないのだ。むしろ、聴衆にアピールすることで平時の不満をぶつけられることもないかもしれん。」
軍というものは維持管理にも多額の費用がかかる。
もちろん、徴収した税から賄われるのだが、予算編成のときに問題視されることも多い。
前世でも抑止力として国の平和を支える重要なものといえたが、争いがない状況が長年続くとその存在意義を軽視されることが多いのだ。
直近の戦争ではその恩恵を重々に理解されていただろう。しかし、その記憶が薄れたときに予算を削られたり、組織を縮小されることが起こりかねないとヴェーハートは考えているのかもしれない。
こと軍事に関しては、長年の経験により問題点にすぐ思い至るようだ。
「それでもうひとつの案だが、戦力の輸出というのはどういったことだろうか?」
マイグリンが次の案について話を進めた。
「まず、国家間の争いや他国の内乱への武力投入という意味ではないことをご理解ください。例えば、冒険者では討伐が難しい魔物が出た場合や広域に被害をもたらす盗賊団の討伐、災害などに対する救援を担うのであればどうかと考えています。」
「ふむ。国や領地内ではそのつもりだが、それを周辺諸国に対しても行うということか?いろいろと問題が多そうだが。」
「国交の有無やその地との関係次第でしょうね。自国や自領に他国の兵が入ることに難色を示す者も多いでしょう。しかし実際問題として、対処できない脅威にさらされたときに支配者や管理者のプライドや意固地な考えで命を落とすのは一般民です。その辺りの話を通して条約を国単位、必要であれば領地単位で締結しておけば領土侵犯といわれることもないでしょう。相手国には友好を示すことができますし、その地の民の人心を解す効果もあります。」
「遠征費用などはどうするのだ?」
「相手国によって条件を変えればよいのではないでしょうか。良好な関係や今後懇意にしたい国であれば無償で請け負うのも悪くはないと思います。」
「質問だが、それを逆手にとって侵攻を企てる国が出た場合はどうするのだ?」
ヴェーハートからの質問だ。
当然考えられるリスクである。
「友好関係を築く国同士で、相手国に常駐する大使を置くというのはいかがでしょう?国家間で些事···というと語弊があるかもしれませんが、国を行き来して取り決めするまでもない内容を国主に代わってやり取りする立場の者を置くのです。それによって大使館を設置し、その警護のために小規模な軍隊を駐留させることで有事にも備えやすいと思います。もちろん、相手方も同様の体制を取るでしょうが。」
前世のように大使に全権を持たせるには世情が安定していない。場合によっては癒着や反乱の恐れもあるため、一定レベルの権限に留めておく必要はあるだろう。
「ふむ···軍としては国防と闘技会への参加や警備、友好国への災害支援や大使館の警護、それに物見といった内容が主要な役回りとなるか。」
物見とは相手国の動きを見ることである。諜報のように非合法な活動ではない。
「それ以外にも犯罪の取り締まりなどもありますね。国外からの人の流入は治安の悪化を招きますから、逆にいえばヴェーハート様の腕の見せ所ですよ。」
「そこは任せるがいい。」
適度にヴェーハートの自尊心を刺激することと、やるべき指標を示すことで彼のモチベーションが向上する。ビジネスで培ったマネージメント能力はこういったことにも有用なのだ。
「よろしくお願いします。軍事力は民の不幸を減らす効果、経済力は民の幸せを増やす効果をもたらします。相反しているようですが、両立させることで国は豊かになります。」
「なるほど。青臭い気もするが、言われてみればその通りかもしれんな。」
念の為に軍事以外への理解も促しておくことを忘れてはいけない。




