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オモイカネ ~ハイスペッカーが奏でる権謀術数駁論~  作者: 琥珀 大和


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第83話

「どういうことだ?」


珍しくマイグリンが表情を曇らせている。


頭の回転が早く、普段から冷静な彼にしては珍しいと思った。つきあいが短いため、あくまでその印象が強いだけなのかもしれないが。


「例えば、あなたの知らないところで私が他国の宰相となっていたらどう思いますか?」


「···ふむ、そういうことか。理解した。」


さすがに理解が早い。


「どういう意味だ?」


ブローナンヴィルがそう聞いたが、俺の隣にいるヴェーハートも似たような顔をしている。


「賢者は公正な立場にいるからこそ賢者ということだ。」


マイグリンがそう言ったが、場内を見渡してもすぐに理解に至った者は少ないようだ。エフィルロスは気づいたのか、ハッとした顔をしている。


「そうです。特定の国の要職に就くということは、他国からすればその時点で賢者という私人ではなく、相手国の公人になるということです。仮に帝国の宰相ともなればアヴェーヌ公爵は私を警戒するでしょう。プライベートで知己があったとしても、公人というものは互いの立場を通しての対応が必要となります。同じ国に属しているのならばともかく、帝国と王国に別れている以上は距離を置かれるのが当然かと。」


公人とは公務員や議員などの公務を行う者を指し、私人はその対義語にあたる。


「言われてみればそうかもしれん。」


ブローナンヴィルや他の者たちも理解したようだ。


「おそらく、ヴェーハート様はそのことを危惧されていたのでしょう。違いますか?」


俺は隣にいるヴェーハートにそう言って笑顔を見せた。


「え、いや、ああ···そうだな。」


この男は絶対にそんなことを考えてはいなかったはずだ。


しかし、それを利用させてもらう。


「そうだな。ヴェーハート卿の深慮は見習わなければならないな。」


マイグリンもそれに乗っかってきた。


国主として任命されたのは、皇帝の血族という理由だけではやはりなさそうだ。


頭の回転が速く、場の空気を読むのがうまい。


「いっそのこと、ヴェーハート様を宰相にされるというのはいかかでしょうか?」


俺は真面目な顔でそう話した。


「い、いや、評価してくれるのはありがたいが、畑が違いすぎる。俺は軍を率いることこそ天職だと思っているからな。」


先ほどまでと比べて、ヴェーハートの表情は和やかなものに変わっていた。


実はそうなるようにある手法を用いたのだ。


あのままではヴェーハートはこちらを敵視していた可能性が高い。しかし、彼の意見に同調して俺を宰相に就任させようとするマイグリンたちの発想をかき消した。


この手法はUCLAの医学部教授が唱えた脳をだます技法(ニューロハックス)というものだ。


ニューロハックスとは心理トリックである。詳しい内容は控えるが、俺を敵対視するヴェーハートの感情をこちらの言葉や行動によってリセットさせたのだ。彼に同調して互いに思い描く共通の結末へと導くことで仲間意識を植え付けたのである。


実はテロリストグループもこのニューロハックスを使って仲間を集めているそうだ。要するに、共感を得る意識さえ持たせることができれば、新たなセルフ・アイデンティティを形成させて懐に入り込めるという危険な心理トリックなのである。


因みに、女性とまともに話ができない男性を、女性とふたりきりにさせて無理やりにでも会話させれば苦手意識が改善するというのもニューロハックスの効果だそうだ。俺が言語学習を「習うより慣れろ」といっているのも同様といえる。


「そうですか。もちろん、国の防衛のためにはヴェーハート様のお力が必須だと思います。」


「そうだろう。」


「ただ、不安なのはアヴェーヌ公爵ですね。」


「む、先ほど話に出た御仁か。何が不安なのだ?」


「アヴェーヌ公爵は皆様が話されたように鋭い嗅覚と明晰な頭脳、そして政略に長けた御仁です。既にこちら側の戦力の高さを分析され、敵に回した際の脅威は感じておられました。しかし、こちらがさらなる軍備補強をするとなると、どういった手段に訴えられるか···」


「こちらが今より軍事力を整えたとすると、王国への侵攻を勘ぐられるというのか?」


ヴェーハートの表情には怒りなどは浮かんでおらず、冷静に話を聞いているようだった。


「可能性はあります。その場合、どのような知略をもって対抗されるかわからないほどに計り知れない方です。ですが、違う形で圧倒的な戦力を見せることで、国の防衛と両国の平和を保つことが可能かもしれません。」


「ほう。その方法とはなんだ?」


「愚策といわれるかもしれませんが、闘技会の開催と武力の輸出をするというのはいかがかと。」


「具体的にはどういった内容なのだ?」


「まず、定期的に闘技会を開催して軍の方々にも参加してもらいます。他国からも参加者を募り、一定のルールの下に個人や団体戦などで競うのです。」


「そこで武芸を見せろということか?」


「ええ。戦争には戦略や戦術が必要でしょうが、それも個人やチームの高い技量があってこそでしょう。闘技会で圧倒的な武芸を披露することは、戦争に対する牽制にはなりませんか?」



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