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第76話

芥子はともかく、なぜコカの葉を連想したかというと、実は前世で馴染みの飲料と色やにおいが少し似通っていたからだ。


その飲料は世界的なベストセラーで様々なメーカーから商品化されているのだが、初期の頃にはコカインが入っていた。


当時はコカインよりも一緒に入っていたアルコールの方を問題視していたのは有名な話だったりする。


その時代はコカインが麻薬扱いされておらず、微量をワインと混ぜてうつ状態を改善する薬として販売されていた。しかし、その頃には禁酒法時代が幕開けており、アルコール類から炭酸水に移り代わって今の原型ができたのだ。


「もしかして、これの味やにおいを改善したいということでしょうか?」


「そうなのだ。効果は高くてもそのデメリットが大きくて不評でね。」


「なるほど。」


俺は給仕していた女性に依頼して炭酸水を持って来てもらうことにした。


炭酸水は製造されたものではなく、この近辺にある炭鉱から湧き出した鉱泉を飲用しているものらしい。


炭鉱では発掘の際に温泉が見つかることもあり、その鉱泉は低温の炭酸泉のようだ。


前世でも炭酸水は紀元前から見つかっており、トロイの木馬で有名なトロイア戦争の英雄や、古代ローマ時代のローマ人が炭酸泉療法や飲用薬として病人に施していたといわれている。また、クレオパトラが真珠をぶどう酒に入れてスパークリングワインのようにして飲んだという逸話もあった。


余談だが、真珠の成分は炭酸カルシウムで美容に良いとされている。しかし、真珠が溶けるとすると酸度は10%以上必要で、ワインやビネガーは6~7%程度しかない。酸度10%以上のワインなど飲めたものではないだろう。クレオパトラの逸話の真偽は、そのあたりでただの作り話ではないかと思える。


話を戻すが、炭酸水は天然のものであっても弱酸性のため微生物は生存できない。その殺菌効果は、飲むことにより風邪などの予防にもつながったりするのである。


さらに炭酸水は消臭効果が高い。消臭力の強い重曹とクエン酸を水に溶かせば炭酸水を作ることができることからもわかることだろう。


炭酸水でクルゴン特製のポーションを割ると臭みが消えるはずだ。さらに俺が持っているコーンシロップを適量入れると、あの飲み物に近いものができるのではないかと考えた。


「これを試飲してみてください。」


同じ席にいる人数分のポーション飲料を作ってそう言った。


中身は漢方薬のようなポーション、コーンシロップ、炭酸水だ。


もちろん、味の調整のために俺が試飲しながら作ったのでまずくはない。本物に比べると少しクセがあるが、それなりにおいしいと思える程度には仕上がっている。


互いに顔をうかがいながら躊躇っている面々の中で、ビジェが真っ先に手を出した。


「ソー殿の味覚を信じます。」


そう言って軽く口をつけたビジェを全員が注視した。


少々おおげさに思えたのだが、それだけ元のポーションがマズかったのかもしれない。


「···不思議な味ですが、飲めますね。」


その言葉を聞いた面々は同じように口をつけだした。


俺が作ったのは擬似コーラだ。


コーラももともとは薬なのである。


元祖であるメーカーは元より、それと同等に有名なメーカーも当初は消化不良の治癒薬としてコーラを販売していた。そちらは後に製品に含まれている消化酵素(ペプシン)から商品名を冠したのは有名な話だ。


「ほう、クセがあるが飲めるな。」


「おお、これは···うまい気がする。」


初めてなら個性的な味に感じるだろう。


絶賛ではないが、悪くはない反応のようだ。


「炭酸水には消臭効果と健康増進作用があります。ともに入れたコーンシロップは栄養価が高い。ポーションの効能に加えて疲労回復効果も増すのではないでしょうか。ただ、コーンシロップを摂りすぎると太りますのでほどほどの量が推奨です。」


炭酸水の健康増進作用は、疲労回復に加えて血行の促進や腸内環境の改善などがある。


「これはすごい。ポーションが薄まるのは濃度を調整すれば問題ないし、炭酸水やコーンシロップで味も好みのものにできるということだな。」


「ただ、残念ながら炭酸水は気が抜けやすいので、調合してから間を置くと維持できません。可能な限り空気に触れさせずに冷やすくらいしか対策はなさそうです。」


この世界にもビールが存在するのだが、基本的には常温で炭酸も抜けた状態で飲まれている。ビールならではの風味や味がよりわかりやすくはなるが、密封した容器がなく冷蔵技術も発達していないので仕方のないことだといえた。


まあ、気が抜けても消臭効果はあるはずなので、栓を抜いて放置したコーラのようはものと考えればそれはそれでありだろう。


「すごいな賢者。」


「ああ、即興で問題を解決するとは。」


そんなお褒めの言葉が聞こえてくる。


貰い物の知識でしかないので、やはりこういった賞賛は良心が疼くのだった。



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