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オモイカネ ~ハイスペッカーが奏でる権謀術数駁論~  作者: 琥珀 大和


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第75話

「ここ、かまわねぇか?」


ドワーフは目の前の空席にそう言いながら座った。


返答を待つことがなかったところを見るとマナー云々ではない。言葉をかけただけで十分だと思っているのだろう。


横にいるビジェが警戒の色を見せないことで、この男の要件はある程度把握できた。


「ブローナンヴィル様でしたね。あらためてよろしくお願いします。」


俺はドワーフに対してそう言葉を返した。


「なんだ、名前を覚えてくれてたのか。あんな適当な紹介でよく頭に入ったもんだな。」


マイグリンと最初に会ったときに、同席するメンバーについては軽く名前や担当を告られていた。


そこにいたメンバーも全員がこの場にいる。


ただ、ビジェが怖いのか、遠巻きにちらちらと見ているだけだったのだ。


俺とビジェがいる席は他にマイグリンとエフィルロスも同席している。そういった意味では近づきにくい雰囲気があるのだろう。それに加えて、よこしまな考えを持つ者は殺戮ウサギ(ヴォーパルバニー)に威嚇されるのだから仕方がない。


「不肖な身ながら、共に仕事をする方々のお名前と顔は可能な限り頭に刷り込んでいます。私に何ができるかはわかりませんが、精一杯尽力するつもりです。」


「堅苦しいあいさつはいい。まだあんたの知識がどこまでのものかわからんしな。この場で何ができるか判断させてもらおうと思っている。」


歯に衣をきせぬ物言いだ。


言葉にも訛りが強く、所作も荒々しい。連想するのは地方のヤカラや昔ながらの職人といった気質だ。


ただ、そのストレートな物腰に好感が持てた。


こういった気質の人間は、知らない相手をすぐに受け入れない。ただ、実力や人柄を認めた瞬間に、これ以上になく友好的となる特徴を持つ者が多いのだ。


「判断ですか?」


「そうだ。例えば、バサノスの使い方とかな。」


「バサノスは今は誰も作れないと聞きましたが?」


「ああ。だけどな、ダンジョンの探索が進んだら、製造に必要な遺物が出てくるかもしれないだろ?そうなったら国を潤す財源のひとつになると俺は思ってる。」


んん?


何か認識が違う気がするぞ。


「バサノスから何が作れると思われていますか?」


「バサノスは鉱石だ。鉄なんかと同じで武器や防具が作れるはずだ。これまでになかった特異なものになれば、世界中で引く手あまただろう。」


「バサノスはどちらかといえば建築資材や物質の強度を上げるための繊維ですよ?防刃の服や手袋は作れますが、武器は殴打用の棒とかくらいじゃないですかね。」


「は···剣は?」


「剣なら炭素鋼で作った鍛造の方が切れ味はよいと思いますが。」


「「·····················。」」


ブローナンヴィルと、ついでにマイグリンまでが唖然とした顔をしていた。


確かに鉄鉱石と同じようにイメージしていたなら、そう勘違いするのも無理はない。


「だから皮算用はよくないと言ったのだ。」


いつの間にか、近くで話を聞いていたフォレストエルフが腕を組みながらそう言った。


この人も顔を合わすのは二回目だ。


確か、クルゴンといったはずだ。薬師であり魔道の探求者。要するに専門的な研究をする人物で、長命なエルフでは多い部類だといえる。


「仕方がないだろうが。どこにでもあるような石が特殊な素材になると考えれば、資金調達に使えると考えるのが普通だ。」


ブローナンヴィルが苛立ったように返した。


資金調達か。


不穏なことに使わないのであれば、他にも手段はいくらでもありそうだが。


「それより、ソー殿に知恵を借りたい。」


クルゴンが俺の方に視線を向ける。


「何でしょうか?」


「私が精製したポーションだ。効能は通常のものより遥かに優れている。」


そう言いながらクルゴンが急須のようなものを机に置いた。


「それ···臭いです。」


ビジェが眉をしかめながらそう言った。


「言ってくれるな殺戮ウサギ(ヴォーパルバニー)。効能を突き詰めたらこのような匂いになったんだ。」


臭いというより、何となく嗅いだことのあるにおいだった。


「これは生薬ですか?」


「おお、さすがだな。」


いわゆる漢方薬だ。


エルフは野草などから薬を精製する術に長けていると聞いたことがある。


「すごくマズイですよ。」


ビジェが身も蓋もないことをいう。


俺は急須に鼻を近づけた。


「これ、芥子やコカの葉の成分は入っていませんよね?」


念の為に聞いておくことにした。


ポーションというだけに痛みを和らげる効果が入っている可能性がある。芥子はアヘンの原料となり、精製すればモルヒネやヘロインが作れるのだ。一方、コカの葉は南米など気温の高い所でしか栽培できないはずであり、高確率でここにはないと思えた。しかし、万一入っていたとすると非常にマズイのである。


「入っていない。ダークエルフが作るものには昔はコカの成分が入っていたそうだが、摂取し過ぎた者に異常が出てやめたと聞いている。君はエルフの薬学にも詳しいようだね。」


コカの葉から取れる成分にはコカインが含まれている。そう、前世では禁止薬物だ。


「気を悪くされたなら申し訳ありません。」


「いや、ポーションは広い範囲に出回るものだからね。そういった知識を持っているということは心強いよ。」



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