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オモイカネ ~ハイスペッカーが奏でる権謀術数駁論~  作者: 琥珀 大和


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第62話

「ええ、ソウスケ・イチジョウです。ソーと呼ばれています。」


そう答えた瞬間、いきなりみぞおちを狙って拳が突き出された。


咄嗟に一歩後退してその攻撃を避ける。


「言葉がわかるのね。それに武芸の心得もあるなんて驚きだわ。」


驚いたのはこちらだ。


あらかじめバンザに言われていた言葉がなければ、まともにくらっていたかもしれない。


因みに、言葉はこちらに来る前に可能な範囲でおぼえていた。


魔族特有の言語もあるそうだが、帝国で標準語として使われているものを商人たちからヒアリングして無理やり詰め込んだのだ。あまり情報はなかったのだが、ひとりの商人が流暢に喋れたのが幸いした。


「これがあなた方のあいさつですか?」


「いいえ、私が個人的にこうする必要があるのよ。」


彼女はそう言いながら蹴りを放ってきた。


鋭い攻撃をする。


攻撃箇所に視線を止めることなく、こちらに対して広い視野を持っているのがわかった。


何度か攻撃をかわしていると、つま先を使った蹴り技が主体であることに気づく。キックボクシングに近いスタイルだが、サイドキック主体で攻めてくるところやローキックでも軸足を返してくるため、予想よりも攻撃が伸びてくる。フランスの護身術の一種であるサバットやショソンに近い気がした。


何とかギリギリのところでかわしているが、相手の身体能力は相当なものだ。このまま防戦一方でいるとそのうちかわしきれなくなるだろう。


俺は距離をあけるために後退した。


彼女がそれに合わせて間合いを詰めてくる。


気を合わせ、逆に踏み込んだ。


相手の攻撃線から死角に入り込み、入り身で一気に詰め寄った。腕を相手の首に引っかけて、ひねりを加えて後ろに倒す。そのまま倒せば後頭部を強打するため、抱き寄せて片腕をとり首絞め落としで意識を奪う直前までもっていった。


因みに、腕を首に引っかけずにラリアットするという入身投げの変則技もあり、某ハリウッドスターの代名詞ともなっている。かなり危険な技となるので普段は使わないが、相手の命を奪うつもりならば有用なものといえた。




「初見殺しよね。」


同じ馬車に乗り、目の前に座った彼女はムスッとした表情をしている。合気道の技が初見だから見切れなかったと言っているのだ。


「それより、あれはあなた方の慣習ですか?」


おそらく、俺も彼女と似たような表情をしているだろう。いきなり襲われたのはこちらなのに、敗けたからといって逆ギレされるのはどうかと思う。


彼女の名前はエフィルロス・ディエネッタ。


魔族で皇帝の血族だそうだ。


こちらの地域を治めるマイグリン・ディエネッタの従兄弟にあたるらしい。


「慣習って、どういうこと?」


「初対面の相手と武力で競うのが挨拶がわりとか。」


「そんなわけないでしょう。」


エフィルロスは呆れた顔でそう答えるが、こちらにとっては意味がわからない。


「では、何の意味があったのでしょうか?」


「嫁ぐ相手が自分よりも弱かったら嫌だからよ。せっかく勝てばその話はなかったことになるはずだったのに···」


嫁ぐ?


ああ、そういうことか。


「···何となく意味は理解しました。それほど私は重要視されているということですか?」


彼女が言っているのは、俺と魔族で縁を結び取り込むという意味だ。簡単にいえば政略結婚の類いだろう。


「あなた···自分の価値がわかってないの?」


「あなた方にそう思われるほどの存在とは思えませんが。」


エフィルロスは盛大にため息を吐いた。


「砂糖の代わりとなるシロップを発明したでしょう?それにエタノールも。」


「ええ。」


発明というより模倣に過ぎないが、それを言っても理解されないだろう。


「あれでどれだけ国益に寄与するかわかっている?」


コーンシロップも砂糖も金に換算するとそれなりに価値が高いものだ。定量をコンスタントに出荷できれば相当な利益を生む。前世でいえば、レアメタルに例えるとわかりやすいかもしれない。


レアメタルとは、その名の通り希少な金属類である。例えば、金1グラムあたりが59ドルだとする。レアメタルで価値が高いイリジウムは200ドル超、ロジウムは500ドル超といった感じだ。供給量や需要によって変動するが、この辺りでの砂糖の価値はロジウムに近いものがある。


サトウキビが収穫できる地域はかなり南方の国となり、そこから輸入するにも輸送コストは莫大な金額となるのだ。砂糖よりも甘味に劣るコーンシロップや供給量の少ないエタノールは、イリジウムと似た相場で推移していると思えばいい。


日本でも19世紀の初期、江戸時代後期の砂糖は投機商品で価値は1グラムあたり500円ほどの小売商品だったが、一般庶民が口にできたのは明治時代以降なのである。


時代背景を考えると、それよりも300〜400年前の技術力や輸送手段しかないこの世界では、金よりも高い価値を持っているのだった。



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