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第14話

「どうだった?」


書斎で執務をしていたユーグの所に戻ってきた執事はありのままを説明した。


「大変聡明な方のようです。二時間ほどで発音をマスターし、その後に本を音読されたときも多少指摘は致しましたがほとんどネイティブと同じように発せられていました。」


「やはり高い教養があるようだな。」


「それに所作も心得があるようです。食事の際のマナーも勝手が違うところはありますが、まったく問題のないレベルです。」


「どう思う?」


「回復魔法が効きませんでした。それに魔力が計測できません。」


「やはりそうか。黒髪黒目で魔力がない。それと、門兵に事情聴取した結果、見たことのない体術を使ったそうだ。」


「やはり、予想通りの御仁でしょうか?」


「可能性は高いな。」


「明日の言語学習の時間にそれとなく探りを入れてみます。」


「そうだな。」


執事が退室した後に、ユーグは大きく息を吐いた。


「これは神の思し召しと考えるべきか。彼がこちらの思う存在なら、これからのことに大きな影響を及ぼすかもしれない。」


彼には今後やらなくてはならない大きな課題について、一筋の光明が降り注いだように思えた。




早朝に目が覚めた。


部屋に時計はない。


窓の外が薄暗かったので、何となく今の時間は5〜6時くらいではないかと推測する。


中世ヨーロッパでは既に王冠歯車やゼンマイ式の機械式時計が登場しているが、こちらでは存在するかはわからない。


ユーグや執事が懐中時計を使用している姿は見かけなかった。


中世ヨーロッパ初の時計職人は、キリスト教の修道僧だったと聞いている。宗教にまつわる作法が厳格で、祈祷の時間も正確なものでなければならないとして時計の開発が不可欠だったそうだ。


もしかすると、一般的には出回っていなくとも教会には存在するのかもしれない。


ベッドから起き上がり、ストレッチを行う。


天蓋付きのベッドが部屋の中央に置かれている。羽毛か羊毛を使っているらしく、寝心地はふわふわだった。普段はタタミを使用した固めのベッドで寝ているので少し腰が痛い。


似たような時代から考察すると、庶民は藁のベッドで寝ているのかもしれない。そして天蓋付きのベッドは見た目が豪勢だが、これも寝室という概念がなく居間などに設置していた名残だと思われた。中世ヨーロッパでは当初寝室という区分けした部屋はなく、居間や広間にベッドを置いていたそうだ。そのため、埃をかぶらないように天蓋をつけたのが始まりと聞く。


ここが地球とは違う場所だとすると、そういった比較や時代考証は興味深いものである。


いつまでここにいるかはわからないが、余裕があれば一度調査したいものだ。


ストレッチをじっくりと行い、立ち上がったタイミングでドアがノックされた。


返事をすると、メイドがふたりで入って来て「失礼します」と言いながら俺の服を脱がそうとしてきた。


来賓への振る舞いなのだろうが、さすがに断ることにする。


本来、貴族の着替えをメイドが手伝うのは相手が女性や子どもだけのはずだ。体にフィットさせるために紐などが多用されているドレスや、寄宿舎に通う前の未就学児のみだったと記憶している。もちろん、大人になっても着替えをさせてもらわなければ自分で何もできない者もいたようだが、俺はそうではない。


それとも、この辺りでは違うのだろうか。


あまり考えても仕方がないと思い、メイドが退室してから寝間着を脱いだ。その直後にまたノックが響き、返事をする間もなくドアが開いた。


入って来たのは昨日の馬車で一緒だった女性だ。


目が合うと、彼女は一瞬下の方に視線を動かして微かに笑みをもらしたかに見えた。


今の俺は寝間着を脱いで下着一枚の姿だ。


ああ、これはあれか?


白人男性に比べて小さいと思われたのだろうか。


布越しとはいえ、そうなら少し悲しくも思う。


だが、君たちは知らないだろう。


サイズでは負けているかもしれないが、日本人は硬さでは負けないのだよ。だから君たちの周囲にいる白人男性はその時に前戯の方を重視するんだぜ。


そんな負け惜しみを頭の中でしながら、すぐにメイドが置いていった服を着用した。今の思考を日本人女性が聞いたら白い目で見られそうだなと思いながらも、硬さでは負けないからと最後まで脳内処理を行う。


貴族っぽい服と平服があったので派手ではない平服を選んだが、平服とはカジュアルな服装ではない。フォーマルよりも自由がきくスーツという意味だ。


上衣に袖を通そうかと思ったが、入室した女性は直立不動で立っているだけだった。


たぶん、護衛に見せかけた監視なのだろうと思う。


昨夜も部屋の外ではあったが、廊下に昨日の騎士らしき男がずっと寝ずの番をしていた。


おそらく、不審な動きを俺がしないか見張っていたのではないかと思っている。


目の前にいる彼女はその騎士との交代なのだろう。






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