第116話
話し合いは幕を閉じ、俺たちはアヴェーヌ公爵家の別邸で一晩を明かすことになる。
「君はすごいね。」
テラスで酒を酌み交わしていると、ユーグは感慨深げにそう言った。
「そうか?」
「ああ。国の事情で帝国に連れて行かれ、そこでもすぐに信頼を勝ち得た。」
「それは賢者の肩書きがあるからだと思うよ。」
「これまでに姿を確認されている賢者の叡智は、いずれもすごいものだと聞いている。でも、それはあくまで彼らの知的好奇心を満たすためのものだそうだ。新しい産業や品を開発することはあっても、国家レベルで平和をもたらすような話には加わってこない。なぜなら、それで自分たちの時間がかき消されるからだ。」
確かに、俺がやっているようなことをすれば、研究だとか検証には没頭できないだろう。
多くの人の声に耳を傾け、将来を見据えた策を練る。
やっていることが何年、何十年にも渡って取り組まなければならないことは火を見るより明らかだ。
「知識はそれだけじゃ何の意味も持たない。それをどう掛け合わせて、何に活用するかで意味を持たせることができるんだ。そこには常に人々の思いや生活が関わる。思いを兼ねる、それが叡智であり道理の深淵を見ることだと俺は思っている。」
俺が自身のブログに名づけた思兼とはそういったものだ。
「賢者というのは神の御使いだと記された書物があった。ソーを見ていると、初めてその記述を理解できたと思えるよ。」
それこそ思兼神の御業ということか。
「俺はそんな高尚なものではないよ。こちらに来てユーグに助けられ、その後も様々な出会いと手助けがあったから今日この場にいる。その感謝を少しでも返したいし、より多くの人に幸せになってもらいたい。ただ、そう思ってるだけだ。」
気持ちのゆとりというのだろうか。
こちらの世界に来ることになった理由は、かつて友人であった者の裏切りと凶行だった。
それを引きずり、この街で牢に入れられたときに別の運命に誘うものもあったはずだ。
しかし、目の前の彼がそこから救ってくれた。
「君とこの屋敷にいるすべての人に感謝を。」
俺はそう言ってグラスを掲げた。
「そんなキザなことも言えるのね。」
テラスにはユーグとふたりだけだったはずだが、知らないうちにティファとビジェが傍に来ていた。
「気配を消して近づくのはやめてくれないかな。心臓に悪い。」
「ふたりだけで飲んでいるのが見えたから、混ぜてもらおうと思って。」
ティファが悪戯っぽく笑った。
「ティファニー殿とお手合せをと思いましたが、御三方とお酒を酌み交わすのも良いですね。」
ビジェもそう言ってにっこりとした笑顔を見せる。
お手合せって、やはりこのふたりはある意味で気が合うようだ。ここにはいないが、エフィルロスも似たようなものだろう。
「では、あらためて。」
席に着いたティファとビジェにグラスが用意され、それぞれにグラスを掲げる。
「賢者ソーに乾杯。」
「···そこは王国と帝国に乾杯とかじゃないのか?」
「それで良いのよ。」
「同感です。」
その後、みんなが笑顔を見せて楽しいひと時を過ごしたのだった。
Fin
まだまだネタはありますが、キリがいいので一旦完結とさせていただきます。
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よろしくお願い致します。




