第114話
そして忘れてならない税徴収である。
国家予算の原資は税収入だ。交易都市に課すことにより、各方面の予算を潤沢にすることができるだろう。
この交易都市について国が捻出する費用はたかが知れている。最も予算が必要となる設備投資は、すべて各ギルドや商人に賄ってもらうのだ。交易による利益を考えれば、初期コストなどすぐに回収できるはずである。
それだけこちらが提供する交易品は利を生む。
国側が配慮しなければならないのは、都市の治安や近隣に出没する魔物や盗賊の類だろう。その対応のため都市に常駐する衛兵が必要となるが、都市内の治安維持は国家所属の騎士が行い、外部の危険については冒険者に依頼するというのが効率的である。
そのため、交易都市における飲食店や宿泊施設は戦闘職にも利用され、そこそこ繁盛すると計算していた。
もちろん、そこにも策はある。
こちら側の敷地でしか提供しないサービスがそれだ。その利益は相当な額を目標としている。
王国には存在しない料理やレシピ集、蒸し器を始めとした調理器具や食器などを実演販売する。それ以外にも色々とあるのだが、王国側の商人なら目の色を変える珍しい物を取り揃える予定だ。
そして、それらの代価にはこちらが用意した貨幣を用いることを基本とする。
生分解性プラスチックで作成したカードと、王国の金貨や銀貨などを引き換える外貨稼ぎと考えればいいだろう。生分解性プラスチックの原料費などたかが知れている。それと引き換える金貨や銀貨は貴金属そのものなのだ。原価計算すれば為替レートとしては詐欺に近いものだろう。
仮に金貨一枚の価値が一万円と仮定すれば、それが百分の一以下の費用で作製される生分解性プラスチックの貨幣、厳密にいえば貨幣カードと交換されるのだ。
仕入れたい商品を購入するためには、そこでしか使えない貨幣カードを先に購入しなければならない。もちろん商品には適正な販売価格を設定するため、難色を示す者はほとんどいないだろう。
例えば原価率50%の品物を購入するために、金貨と同等価値の貨幣カードを使うとする。商品の利益は売価10000円に対して5000円。そこに貨幣カードで出た利益を上乗せすれば、14000円以上の利益になるというからくりである。
為替レートとは、異なる国でそれぞれ独自に使われている通貨を交換するときの比率である。
簡単にいえば、通貨を売買するときの相場だ。
日本円を米ドルに交換しようとすると、そのときの為替レートが適用される。報道番組やニュースで「本日の為替相場の終値は1ドル135円です」などと言っているアレだ。
実際の取引には手数料が必要となるが、円高のときにドルを購入して円安時に販売すると利ザヤと呼ばれる差引利益が発生する。
実際の為替取引で個人が購入する場合は対顧客取引の相場が用いられる。それが小売価格だと思えばいい。
報道やニュースで伝えられるのは、あくまでインターバンク取引と呼ばれる銀行間取引市場の相場である。これが卸値なのだ。
今回はこういった複雑なものは用いないが、生分解性プラスチック製の貨幣カードには別の目的もあった。
それは変動相場制を導入することである。
変動相場制は市場での需要と供給のバランスによって決まる。本来は恣意的に誰かが動かすものではないのだが、こちらが提供する商品の需要と供給のバランスなど、早い段階で崩れてしまうことが想定できた。
品薄で商品ごとに値を変えたり、供給を増やすために生産や原料の調達ラインを見直すには人手が足りないのだ。もっと言えば、それをできる者がいない。
しかし、為替レートで操作するのであればそれほど難しいことではないだろう。
商品の価格は基本的にそれぞれワンコインを基準とする。厳密には金貨、銀貨、銅貨に見合う貨幣カードを作り、それの枚数を販売価格として提示するのだ。
そして、需要増による市場のバランスが崩れたときに、銅貨よりも下の貨幣カードを設定すればいい。
これによって、飲食などについては新たな貨幣カードで超インフレとならないよう調整ができる。
生分解性プラスチックの生産コストはそれほど高いものではない。種類を増やすといっても、染料を変えるくらいで済む話なのだ。
染料については、エルフの知恵を借りて数種類の植物を使うことでほぼ確定している。
また、今後考えられる偽造貨幣カード対策についてだが、こちらは先々でバサノス繊維を用いた新貨幣カードの導入も考えていた。
そう、生分解性プラスチックにバサノス繊維を掛け合わせることで、繊維強化プラスチックを作るのである。