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第104話

「なるほど、君が賢者ソーか。」


和平条約締結まで俺は別室で待機していた。


マイグリンの家臣ではなく、取引相手のコンサルティング商会(ファーム)という立場では、その場に席を連ねることは矛盾してしまうからだ。


「お初にお目にかかります、国王陛下。ソウスケ・イチジョウと申します。」


流れ的には条約締結のサインを互いにかわした後、マイグリンが俺とのコンサルティング契約書を明示して今後のために話し合いの時間が取れないかを確認した。


「よい機会でしょう。私も賢者ソーの企画には興味があります。それに今は我々だけですから、他の者からの横やりは入りませんぞ。」


国王は束の間迷ったようだったが、アヴェーヌ公爵のその言葉で了承したようだ。


「君の話は王太子や王女からも聞き及んでいる。それにコーヒーやシロップを使った菓子が、宮廷で絶賛されているようだ。」


「光栄です。両殿下は私のことを覚えてくださっていたのですね。」


「ともに衝撃的な出会いだったとはしゃいでおった。一度会ってみたいとは思っておったが、ここで話をできてうれしく思うぞ。」


「勿体ないお言葉でございます。」


恐縮する態度には慣れているが、このままプレゼンテーションに突入すれば言葉づかいが雑になりそうだった。


意識しないといけないのは、いかに魅惑的な提案をするかである。


最も決定権を有しているのは国王に違いない。しかし、理解力や王国議会での推進力が強いのはアヴェーヌ公爵だった。ともにおろそかにはできない相手であるが、籠絡できれば今後の大きな一歩となる。


せっかくこちらの土俵に乗せることができたのだ。あとはインパクトのあるプレゼンを行い、結果を出せればいい。


「早速ですが、見ていただきたい物があります。抜剣が必要となるため、そちらの護衛の方にお願いできればと思うのですが。」


「抜剣とな?」


「一体何をするつもりなのだ。」


国王とアヴェーヌ公爵が、ふたりそろっていぶかしげな顔をする。


「切れない布を開発しました。まずはそのデモンストレーションをさせていただければと思います。」


「切れない布だと···」


まだバサノス繊維の製法を確立したとまではいえなかった。


しかし、紡糸用の遺物を発見してから、ブローナンヴィルを中心としたドワーフたちが夜通しで試作づくりに励み、実用的な防刃布の製作にまでこぎつけたのだ。


「簡単な物しかご用意できず申し訳ありません。この二本の丸太を持参しました。真ん中に巻かれている布は片方が一般的なもの、もう一方が今回開発したものです。軽くでかまいませんので、剣で斬りつけていただければと思います。」


護衛の者たちは、アヴェーヌ公爵に目で合図されるとひとりの騎士を推薦した。


剣技に一番長けた者だそうだ。


「どの程度の力ですればよいのでしょうか?」


「丸太を断ち切る必要はありません。布を切り裂くつもりでお願いします。」


「わかりました。」


別邸とはいえ、ここは公爵家の屋敷である。


会場となった大広間は剣を振り回しても十分な広さがあった。


因みに、防刃布のことは伏せていたが、事前にこういったことをするというのはユーグや公爵に了承を得ていた。さすがにこちら側の人間が抜剣するわけにはいかないため、王国側の騎士にお願いしたのだ。


騎士はまず指示した方の丸太に剣を振りおろした。


さすが国王陛下の護衛である。丸太をかすめるように布だけを斬り両断してくれる。


「今のは一般的な布です。衣類に用いるのと同じ程度の厚さにしてありました。さすが護衛の騎士様ですね。きれいに切り裂かれています。」


俺は国王の従者にその布を手渡し、国王と公爵のところに持って行ってもらった。


「次はこちらをお願いします。」


「わかりました。」


同じように剣を振りおろしてもらうが、カツッという音が鳴るだけで布は切れなかった。


丸太から布を外して、先ほどと同じように従者に手渡しする。


「これは···すごいな。剣が当たったところに筋ができているが、まったく切れ目は入っていない。」


国王がじっくりと布を見て感嘆した。


「ふむ。手触りや硬さが違うが、これは何で織られているのだ?」


公爵も布の表面を触り、左右に引っ張るなどして状態を確かめている。


「種を明かすと、これまでになかった新しい繊維と一般的な糸で混紡して織った布です。筋が入っているのは普通の糸部分が傷ついたからでしょう。」


「その新しい繊維というのは一体···」


やはりバサノス繊維の試し斬りはかなりの興味を引いたようだ。


国王も公爵も目に強い光をたたえていた。


「素材に関しては機密です。残念ですが、さすがにその情報は共有できません。」


「それは···そうだろうな···」


再び布に視線を落とし、ふたりは小声で感想を言いあっていた。




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