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第101話

アヴェーヌ公領へと入った。


ユーグが治める都市が今回の会談場所として選ばれたのは、少ないながらも土地勘のある俺がいるからだろう。


そして、マイグリンからは告げられていないが、知己であるユーグやティファとの再会を画策されたのかもしれない。


これには俺への気づかいが少なからず入っている可能性があった。マイグリンたち亜人種は総体的に情が深いのである。


特に友人として認めた相手には、さり気ない優しさを提供する傾向にあった。人族の情が薄いというわけではなく、国や地域性も影響しているのか驚くほど人情味があるのだ。


帝国は長年の戦争により疲弊しているが、自らの力で前に押し進もうとする個々の力や自由な気風が強い。


対して、人族国家は規律ではなく支配者側に問題があった。


万人に対して公平な法はなく、領主レベルで個人の意思が大きく介在している悪い側面を持っているといえよう。


貴族社会の負の面ともいえるが、支配者層に都合のいい環境が当然のごとく根を下ろしている。同じ貴族でもやはりユーグは特別なのだという思いは、亡国の貴族の言動を何度か目の当たりにして感じたことである。


また、アヴェーヌ公爵からもそういった負の側面を感じることはなかった。それは予想していた通り、単に俺が幸運な出会いに恵まれただけだったのだ。


人族社会における普通は、封建社会制度の悪しき面ばかりが際立っている。支配者層は富と権力に、民は抑圧と搾取に追われ、国家は権謀術数を当然の事としていた。


権謀術数とは、国家の繁栄のためにはどのような手段や非道も許されるという思想である。


王制の国家では少なからずその思想が強い。


それはある意味で正当性を持つのだろうが、それを曲解して目的のために手段を選ばなくなる領主が増える傾向にある。


今のところ直接的な被害はこちらにないが、王国の辺境伯などが今後何かをしてくる可能性は大いにあった。


その点についても、チャンスがあれば王国の重鎮を巻き込んで牽制しておきたいところだ。


俺はいくつかのパターンを想定し、これからの会談相手のキーパーソンの攻略について考える。


彼には生半可な交渉は逆効果になりかねない。


アヴェーヌ公爵、そして国王陛下につなげて不穏分子を排除するためには、大義名分と甘い蜜が必要だろう。




「ソー、元気そうで良かったわ。」


国境を越えた付近で出迎えてくれたのは、ティファやアヴェーヌ公爵家のお抱え騎士たちだった。


「ティファも元気そうだね。」


満面の笑みを見てうれしくなった。


騎士たちは「おお、先生だ!」などと言ってるが、そんな風に呼ばれる覚えはない。おそらく、体術を教えたからこのような言葉が出てくるのだろう。しかし、こちらに滞在していたときは「ソー殿」と呼ばれていたのになぜだろうか。


因みに、マイグリンとティファは最初に挨拶をかわしている。礼儀に関して失することがないのは当然だが、互いに友好的な雰囲気で良かったと思う。


いろいろと話したいことはあったが、さすがに状況が許さない。


俺たちはティファたちに先導されて、馬車を進めるのだった。




「すまなかった。」


アヴェーヌ公爵の別邸に到着すると、マイグリンたちは歓待を受けて客間に通される。俺はというと、すでに到着していたアヴェーヌ公爵に呼ばれてユーグの執務室を訪れることとなった。


到着時の儀礼的な挨拶の後、公爵は俺を連れ出すことに関してマイグリンに許可を得ようとしたが、彼は「積もる話もあるだろう」とすぐに快諾したのだ。


実はこういった状況になることについては予想していた。


下手をすると俺の命が奪われ、帝国との戦争になる可能性すらあったのである。


王国の出身でもない俺が人身御供として帝国に出され、さらに命を狙われるというのはこの屋敷にいる者は誰も予期していなかったはずだ。


「結果的に無事でしたから問題ありませんよ。」


なるようにしてなっただけである。


確かに、俺の意思に関係なく身柄を好きにされたことについては思う所がないわけではない。


しかしそれは、この世界の状況を考えると致し方ないことなのである。


「君の命を狙うよう指示した者の身元は判明している。すでにそちらも動いているだろうが、ヴァースという武器商人の男で現在の消息は不明だ。」


この展開になるかどうかは五分五分だと思っていた。


アヴェーヌ公爵にとって、ヴァースの件は「王国として関与していない」の一点張りでも良かったはずだ。


本来、王国に俺を抹殺するメリットなどない。


しかし、黙殺するわけにはいかない事情があるのだろう。


「武器商人ヴァースの消息についてですが、不明というよりも王国として明らかにできないという意味でよろしかったでしょうか?」


「···やはり知っているのだな。」


「マイグリン殿下や帝国にとっても、ひとつ間違えば再び戦火に見舞われる可能性があったわけですから調査はおざなりにしないでしょう。」




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