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闇深少女になったから曇らせたい  作者: 香月 燈火
第一章 魔法少女編

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12/12

12.心念の魔法少女と、研究所の目的

オマタセシマシタ、ハイ。

「はぁ……ようやく、肩の荷が降りそうだ」



 私……水瀬涼音はやっと落ち着き始めた対応に、若干の疲れを帯びた溜め息を吐く。

 世間に魔獣と魔法少女の存在が認知されて既に2週間。いきなり架空のものが現実になったとして世界全体が混乱していたものの、外国はともかく、日本では比較的落ち着き始めていた。

 最初の頃は、これらの存在を隠していた日本政府ないし私達魔法少女組合への強い批判が、それはもううんざりするほど届いたものだった。まあ、親の知らないところで娘が勝手に命がけで人々を護るための戦いに勤しんでいたというのだから、さもありなんといったところではあるが。

 日本の鎮火が思いのほか早く済んだのは、ひとえに魔法少女たちが自ら望んで戦いに臨んでいたからなのと、決して組合から強制して行っていたわけではなかったからだ。



「にしても……いよいよ困ったことになったな」



 睨みつけるように見るモニターにはざっくりとした日本地図が映されており、その各所にはさも重要であることを示すように赤い点が偏在している。



「ここ1ヶ月の間、【死神】……いや、スイと名乗る彼女が出現したポイント。範囲は主に中部から関東が多いが、ごく稀に中国地方から東北にまで現れる。確か、【影移動(シャドウワープ)】と言ったか。私の【念話(テレパシー)】とは違い、固有魔法(オリジン)ではなさそうだが、これだけ広範囲の移動を可能とする上に、少文字かつ一句のみの魔法か。正直、捕捉するのには苦労する。というよりも、もはや不可能に近い……が、不可能ではない。問題は、彼女の身体が、あとどれだけもつか、だろうか」



 恐らくスイは、あの子の身体は間違いなく、過去に受けた精霊との()()()()により、既に正気でいられない程に汚染が進んでいるはず。

 倫理的に考えると、人間と精霊の融合実験など、正気の沙汰ではない。なにしろ、全く別の、しかも住んでいる世界すらも異なる存在同士を掛け合わせるんだ。言ってしまえば、人体に全く別の動物の遺伝子を無理矢理融合させているようなものでしかない。

 本来合うはずのないものを強制的に融合させるなど、普通なら一瞬にして発狂死してもおかしくない。しかしどういうわけかスイはしっかりと生き残り、私達が想像しているよりも遥かに上手く精霊としての力を使いこなしていた。

 全身に常に激痛が走っていてもおかしくない状態なのに、笑顔を取り繕う余裕すらも見せていたくらいだ。



「確か、彼女は魔法少女のなり損ない、と言っていたな……」



 スイ自ら、自身のことをそう揶揄していたが、あれは魔法少女どころの騒ぎではないだろう。むしろ……



「精霊、か」



 実際、私達魔法少女に、精霊そのものの力を直接見たことがある人間は一人という例外を除いて存在しない。その一人も、現在は行方不明となっており、事実上、私達における精霊という存在とは、この世界では本来の力を扱えない代わりに能力を一切持たなかった少女へと魔力と知識、そして力を授け、良きパートナーとして支える隣人というイメージがある。

 魔法少女は確かに魔力を扱えるが、実際は魔法少女本人が()()()()()()()()()()()()()。魔法少女にはデバイスと呼ばれる、魔法を使うための外部のコアがそれぞれ1つ与えられており、変身用のトリガーを直接言葉にすることで魔法少女へと変身し、ようやくそれぞれの能力に応じた魔法を使うことが出来るようになる、らしい。ただ、慣れてくるとデバイスが待機状態のままでもある程度の魔法は使えるようになる。私も、普段は変身をせずに【念話(テレパシー)】の魔法を使うことがほとんどだし。

 これら全部精霊からの受け売りだから、私はその仕組みがよく分かっているわけではないけども。



「だけど、あの子は違う」



 もう長い付き合いとなった私の相棒とも言える精霊……リネンシーから聞いた話によると、スイの身体は既に半精霊としてほぼほぼ完成に近い状態にまでなっているらしい。

恐らく、魔法を使いすぎたせいだからというのもあるらしいが……既にスイの身体の中には、精霊の核と呼ぶべきものが出来上がっているらしく、精霊の声が聴こえていたのはスイがとうに精霊と呼んでも遜色ないレベルにまでなってしまっているからだそうだ。

ただ、にしてはひとつ妙な点がある。



「何故……何故、スイがここまで派手に動いていて、研究所の奴らは動かない?」



スイという存在が明らかになってから、既に1ヶ月以上もの時間が経っている。気付いていてもおかしくない、というか、まず間違いなく奴らは気がついているはず。

一度放逐したとはいえ、わざわざ、大陸を隔ててまで実験体として日本人であるスイを確保しにきたほどの奴らが、成功体とも言ってもいいスイをこのまま野放しにするとは思えない。むしろ、スイの行方を知った直後には必死になって確保に動くと思っていたのだが……いや、待て。



「まさか、スイは不要だと判断されて研究所から放逐された訳ではない?」



前提から、間違っていたのでは、ないか?

スイは決して、失敗作だからと、棄てられたわけではない。逆に、成功作だからわざと野に放った?

その理由は? 恐らく、研究所ではスイは魔法を使うことはなかった、あるいは魔法を教えてもらうことがなかったからではないだろうか。

だからこそ、1度外に出して魔法を使わせるためにわざと失敗作だと誤認させて、外へと仕向けた。精霊による侵蝕を、早めるために。

が、それならやはり1か月前には確保に動いていたはず。奴らの狙いは、人種が精霊化するための計画では……まさか!



 とあることに気付くと、私は急いで人類最初の半精霊化に成功した人間……()()()()()()()()の経歴について調べた。そしてやはり、私の考えは間違っていなかったようだ。

始まりの魔法少女は、彼女は……中東へと厄災級魔獣の討伐に向かい、そこで行方不明になっている。

そしてそこは、以前から目されていた、()()()()()()()()()()()()()()()でもあった。



「やはり、そうか! 研究所の目的は、人の精霊化のための成功例ではない。本当の目的は、半精霊となった魔法少女そのものか!」



わざわざ精霊ではなく、半精霊となった魔法少女を狙う理由は、恐らくそちらの方が精霊よりも洗脳が容易であり、なおかつ管理が簡単だからだろう。つまり、単純に奴らが欲しているものは人間の精霊化などではなく、純粋な戦力の可能性が出てきたというわけだ。そして、中東は今なお戦争が行われている地域でもある。つまり、戦力を欲する目的は……!



「戦争か!」



しかも、魔法少女は基本的に日本由来の存在だ。もしそんな魔法少女が、中東の戦争に加担したとなれば、国際的に日本の孤立は免れない。



「となれば……不味い」



そうなると、スイは今まで研究所から狙われていなかったわけではない。むしろ、これから狙われるということだ。

もし、奴らが次にスイの前に現れるとするのなら……。



「スイが、本当の限界を迎え、一時的に動けなくなった時」



だとすると、恐らくそれほど猶予はない。かつて始まりの魔法少女と呼ばれていた彼女は、完全に半精霊と化した際に、数日ほどまるで熱を出したかのように全く動けず寝込んだという。スイも、きっと同様だろう。



「ちっ……そろそろ、なりふり構ってられないか」



スイの融合ペースは、私が想像しているよりも早い。固有魔法(オリジン)を除けば人間には使えないと言われている一句魔法を既に使えているというのが、その証拠。

スイには国籍もないし、腰を落ち着けられる家もない。

とはいえ、私達も馬鹿ではない。スイの普段の行動範囲、そして【影移動(シャドウワープ)】を使わず現れた際の動きから、ある程度どの辺りに住んでいるかは把握出来ている。

あとは、六花達に彼女を見つけてもらい、説得するだけ。

最悪の場合なんてものは、考えない。出来る限りの術を以て、私は今度こそスイを、あの子を助ける。



例え、この身を捧げることになったとしても。

次も出来るだけ早く更新出来るよう、頑張ります。

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