人工才害
「…蓮人。凡人と天才の違いは何だと思う?」
「…分かりません。」
「僕は、努力の有無だと思っている」
「天才にも努力が必要だと思いますが」
「…僕は努力をしているように見えるか」
「…いいえ」
「そうだろうな。しているつもりもないからな。僕が思うに、天才は努力しない。周りにはしているように見えたとしてもな」
「周りから努力しているように見えたのなら、それは努力しているということなのでは?」
「そうかもしれない。でも…努力というのは目標のために『苦労』すること、だと思うんだ」
『彼』はさらに続ける。
「つまりね、苦労していなければ努力ではないし、逆に苦労さえしていればそれは努力と呼ぶのだろう」
「だから、天才は努力しないと?」
「そうだ。適当にやっても出来てしまうからな」
「失礼ながら、天才にも様々なタイプがいると思われますが」
「ああ、そうだな。確かに、何でもできる天才というのは極まれだ」
「ならば…。」
「だが、得意な分野で『苦労』はしていない。お前は精神を崩壊させながら研究を完成させた奴を天才だと思うか?」
「思いません。執念深いとは思いますが」
「もし、天才が苦労するとするなら…作ったものを守る時だろうな」
「守る…どういうことですか」
「作ったものはいつか壊れる。それを引き延ばすのにほとんどの天才は苦しんでいるんだ」
そして、彼は独り言のようにこう言った。
「努力する凡人より厄介なものはないのかもしれないな」
『彼』のその言葉によって、俺は後に『人工才害』とも呼ばれる事件を引き起こすことを決意した。
「さぁ、始めるぞお前たち。開戦ののろしを上げろ!」
「ハッ!!」
目に見える限りの建物に火が灯される。町の住民たちは悲鳴を上げ、逃げ惑う。同志たちは逃げ惑う人間を気分のままに殺しまくる。警察は犯人を捕まえる暇すら許されない。
「ハハハッ、ここはまさに地獄だな。いい…、とてもいいぞ!」
さぁ、俺も参加するか。持っている爆弾を適当に投げる。
「おー、絶景だな。今夜の満月によく合う光景だ」
「…来ていらっしゃったのですか。『ヒル』様」
「ははは、僕がこんな面白そうなことを見逃すはずないじゃないか。…蓮人、ここまでに努力はしたか」
「いきなりですね。…していないと言ったらうそになるでしょう」
「そうか…ならば、今だけは関わらないでやろう」
そう言い残して、彼は見えなくなった。…あの方が何もせず帰るわけがない。だが、今は気にしても仕方がない。彼は、彼らは、天災なのだから。
彼のことはいったん忘れて、下に見える男を持っている銃で打つ。
「…さようなら、凡人ども」
満月が落ち始めたころ。銃を持った警察が屋上に押し入ってきた。
「武器を置いて、手を上げろ」
「予想よりも遅かったな、警察の諸君」
「…武器を置いて、手を上げろ」
「はいはい。全くつれないなぁ。少しくらい話し相手になってくれてもいいじゃないか」
そう言って、持っている銃を警察の前に滑らして、手を上げる。そして、柵に向かって後ずさりする。
「そのまま動くな」
「…馬鹿か、お前らは。なんで無抵抗で捕まらなければならないんだ」
屋上から背中から落ちる。胸ポケットに入ってる爆弾のスイッチを取り出して押す。次の瞬間、屋上が火の海に沈んだ。
「なっ!?退避しろー」
「ハハハッ、逃がすわけないだろ」
二つ目のスイッチを押す。建物内で爆発が繰り返さる。悲鳴は…聞こえない。仕方がないか。持っているパラシュートを広げる。
「リーダー。この辺りはほとんど殲滅しました」
「そうか。なら、当初の予定通り、被害を拡大していけ」
「はっ!」
そして、このテロ行為は15日間続いた。
「そこまでだ。テロリストども!」
根城にしている家に警察と自衛隊が突入してきた。今回は突撃態勢みたいだ。声を上げた奴も防弾チョッキと拳銃を持っている。
「やはり遅いな。15日間もかけてアジトを見つけただけだとは」
「武器を置いて、手を上げろ」
「お前ら、それしか言えないのか」
「すでに、包囲されている。諦めて、投こ…」
これだから、凡人は。
「おとなしく投降するとでも思っているのか、お前らは?」
「最後の勧告だ。投降しろ」
「お前らに限らず、皆同じことを言う。なら、せめて俺たちが心変わりするような、行動をしてくれよ」
「…お前ら、テロリストの望みはいったいなんだ?なぜ、罪のない人々を襲う?」
「俺たちの目的は凡人どもの間引き」
「なっ!?」
「天才が作ってきた時代を終わらしてきたのはいつの時代も増えすぎた凡人どもだ。だから、凡人どもを間引く」
「そんなことで…」
「俺にとっては大事なことなんだがな」
彼らの邪魔をさせないために。俺が何もしなくてもあの方々の邪魔はできないだろうが。
「くっ!突撃ー!!あいつらをとらえろ」
「ははは、凡人ごときにやられるわけがないだろう」
銃を取り出して、適当に連発する。
「おいおい、いたずらに被害を増やしていいのかー?」
「仕方がない…皆伏せろ!」
「…グレネード!?正気か?」
来ている上着を脱いで身を守る。
「ゴホッ、ゴホッ。馬鹿か、お前」
「私としても望むところではないが、お前らを確実につぶすためだ。仕方がなかろう。それに、こいつらは全員無事だ。重傷は負っていない。こいつらも、知ってついてきたのだ。何も問題ない」
「俺もたいがいだが、お前も狂っているな」
ちっ、骨が折れたな。足は焼けただけか。だが、動きにくくなったことには変わりはない。空を見ると雲に影が通るのが見えた。
「これがお前の言う凡人の本気だ」
「…ああ、俺も見誤っていた。俺と同じ凡人の本気を」
目の前に人がすさまじい勢いで落ちてきた。
「そして、絶望するがいい。どんなに努力しても凡人には到達できぬ次元にいる天才に」
「ぁぁ…すまんな、蓮人。お前の作戦に参加してしまって」
「全くです」
「だが、時間切れだ。お前のやりたいことは大体わかった。そして、もう飽きた」
ヒル様は落ちている銃を拾う。何かを銃に取り付けると、警察も俺たちも関係なく無差別に撃ちまくる。その銃は先ほどまでの威力とは違い、防弾チョッキも関係なく貫かれる。明らかに銃に入りきらない弾数が発射された。
「…そう言えば、蓮人、面白いことを言っていたな。凡人は天才の邪魔をすると」
「は…い」
「どうやって、凡人と天才を分けていたんだ?」
「努力をしていたかで…」
「なるほど。だから、一人ずつ調べていたのか。ものすごい執念だな」
しかし、続く言葉は俺が思っていたものではなかった。
「だけど、残念。確かに、誤解させるような言い方はしたが…」
そして、ヒル様が俺の背中に銃口を向けて、ためらいなく撃った。
「ぐはっ!?」
「悪いな、蓮人。僕はそういうつもりで言ったわけではないんだ」
更に3発撃たれる。
「がはっ。ぐふっ。…っ」
「僕が伝えたかったことは努力…つまり苦労をするなということだ。努力をしてしまったら、限界が決まってしまう気がしてね」
「…ぇ?」
更に何発か撃たれた。しかし、今はどうでもいい。あの方に、ヒル様に、俺のやってきたことを否定されたくない。
「つまりね、君のやってきたことは特に意味はなかったんだよ」
やめてください、やめてくれ、やめろ、やめろ!
「君が僕の予想を超えてくれるならそれでもよかったんだけどね。残念ながら予想は超えなかった」
混乱しているはずなのに、視界はもう曇っているのに、彼の言葉だけは妙にはっきりと聞こえる。
「さすがに収拾は付けておいてあげるから」
その言葉を最後に俺の意識は途切れた。
「さぁ、警察の諸君。次は君たちの番だ。僕は嘘はつかないからね。蓮人に収拾するって言ったからね。約束通り収めておかないと」
「お前は…あいつの仲間ではなかったのか」
「仲間だったとして、いらなくなったから切り捨てる。君たちだってよくしているじゃないか。手段は少し過激なのかもしれないけどね」
男はポケットから爆弾を取り出して転がす。
「『過激派テロ組織は警察、自衛隊に追い詰められた末、最期には自爆で大打撃を与えた』こういう筋書きでいいだろう」
「…ぁ」
男が踵を返した瞬間、この15日間のうち、どの爆発よりも大きな爆発が起きた。
そして、これを以て15日間に及ぶ、『無差別殺人テロ』は死者3万人、負傷者3000人で幕を閉じた。
「そろそろ始めるのか」
「ああ、お前も計画を移すんだろ」
「そうだな」
男は仮面を外して言った。
「人工才害は終わった。さぁ、絶望を始めよう」
下記の注意の通り、この物語は全てフィクションであり、実在する人物・団体とは一切関係ありません。
また、実在する事件とは全くの無関係であり、参考等にもしておりません。
誤字脱字・適切でない表現などがありましたら、教えていただけると幸いです。
また、感想もお待ちしております。