10 ついに、来た!
お待たせしました!
ついにしーちゃんが学園に行きます!
ゴールデンウィーク初日、父さんは朝早くに出かけ、母さんも心配そうにしながらパートに行った。
「本当にお弁当作らなくてもいいの?」
「ちゃんとコンビニとかで買うから心配しないで。夕方には帰ってくるんでしょ? 大丈夫だって」
『それが一番あてにならない』と、とっても失礼なことを言いながら母さんは出かけていった。
「さて、と」
あたしは自分の部屋で待機中だ。荷物は一切持たない。スマホも置いて来てほしいと言われたから、準備することは何もない。スマホが鳴るのを待って、部屋のドアを開けるだけだ。試しにさっき開けてみたけれど、いつも通り廊下に出るだけで何の変化もない。
── ほんとに別の世界なんてあるのかな? でも画面の向こう本物っぽかったし。だけど今のCG技術ってすごいしなー。
うだうだ考えている間にスマホが振動し、通知音が鳴った。
「もしもし」
「しーちゃん? 準備出来たって」
「わかった。待っててね」
── さあ、それでは行きますか。
ドアをしっかり握って、がちゃりと開けた。
「何、これ?」
目の前にはででーんと大きな鏡。大人でも簡単に通り抜けられそうなくらい大きい。試しにそーっと手を伸ばしてみると……。
すかっ。
何もないみたいに鏡の中に腕から先が吸い込まれている。動かしてみたけれど、ぶつかるものは何もない。
── 面白いじゃない!
「ふ、女は度胸だよねっ。……よーし、行っくよー!」
思い切って一歩踏み込んだ。中はトンネルになっていて、ずーっと奥まで続いてるみたいだ。あたしは準備しておいたスニーカーをはくと、勢いよく駆け出した。
しばらく走ると向こう側が明るくなってきた。その光の中に思い切って飛び込む!
ぱふっ。
柔らかいものにぶつかったと思ったら、ぎゅうっと抱きしめられる。あったかくてフワフワしたこれは、
── ひょっとして……?
そうっと顔を上げると、
「しーちゃん?」
スマホで見たのと同じ真っ白な顔が心配そうに見ている。頭の上で長い耳がピクッと動くのが見えた。
「うわあ、本当にソフィーちゃんだ! 信じられないよ! はじめまして。あたし、小鳥遊 詩雛。しーちゃんです!」
── 嘘みたい! あたし、本当に転移しちゃったよー!?
「本当にしーちゃんだ。はじめまして、ソフィーです」
「うわあ、ソフィーちゃん、ふわふわしててあったかーい」
思わずすりすりしていると、横から声がした。
「ようこそ学園へ。詩雛くんで、合ってるかな?」
そこにはビデオに映っていたのと同じ背の高い男の人が立っていた。優しそうな目でにこにこ笑っている。あたしはそうっとソフィーちゃんから体を離し、手を繋ぐと学園長の方を向いた。
「はじめまして学園長さん。今日はお招きありがとうございます! もうびっくりだったよ、部屋のドアを開けたら目の前に大きな鏡があってそのまま中に吸い込まれちゃうんだもの。靴を持ってたあたし、グッジョブだよ」
「しーちゃん、大丈夫だったの?」
ソフィーちゃんが心配そうに聞くからにっこり笑って答えた。
「全っ然。びっくりはしたけど、中は不思議なトンネルになっててね、通り抜けたらここに出たよ。そしたら目の前にソフィーちゃんがいるんだもん。嬉しかったよっ!」
「うふふ」
ソフィーちゃんが嬉しそうに笑ってくれた。その時学園長が、
「どこも異常はなさそうだね。無事初転移おめでとう。さて、詩雛くん、ここがワールドエンドミスティアカデミーだ。詳しい話は中に入ってからにしよう。外は君が思っているよりも物騒だからね」
そう言うと学園長はあたしが通ってきた鏡に向かって、
「閉じろ」
って唱えた。すると、鏡が跡形もなく消えちゃった。
「すごい、魔法だー!」
── やったー! ついに魔法の世界に来たんだ!
✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳−✳
しーちゃんが学園に来る日、ソフィーは朝早くからパタパタと忙しそうに動き回っていました。
毎朝朝食の前に日課にしているお気に入りの花壇への水やりをいつもよりも入念にしました。綺麗に咲いた花ににっこりしていると、リーゼが顔を出します。リーゼはいつもソフィーが水やりをしていると声をかけてくれるのです。
けれども今日は挨拶もそこそこに、急いで寮の食堂に戻りました。昨日多めに焼き上げたお菓子を確認して、お茶の用意もきちんとすると、ホコリがかからないようにそっとナプキンをかけておきました。
それから一度部屋に戻り、メイを起こして皆と朝食を取っていましたが、どうしてもソワソワしてしまいます。そんな落ち着きのない様子にメイが不思議そうに聞きました。
「ソフィー。今日はどうしたの?」
そう言われて嬉しそうに口を開きかけましたが、慌てて止めました。
── 学園長は内緒にして、て言ってたもの。どうしよう。みんなに嘘はつきたくないし……。
口に手を当てて止まっていたソフィーは、ゆっくりと言いました。
「あのね、今日はお友達に会うの」
「お友達? 一般寮の子に会いにいくのかな。いつの間にかソフィーにたくさんのお友達が出来ていてうれしいな。気をつけて行ってきてね」
その時、リーゼがブツブツと何か呟いている声が聞こえましたが、いつものことなので誰も気にしませんでした。
朝食を食べ終えるとソフィーは一人で中庭へと向かいました。リーゼが付いて行きたそうにしていましたが、言乃花に釘を刺されてションボリと見送りました。
皆の姿が見えなくなるのを確認すると、ソフィーは急いで学園の入口へと向かいました。門の前には既に学園長が立っていました。
「おはよう、ソフィー。ちゃんと一人で来れたね。皆に内緒にしてくれてありがとう。それじゃあ行こうか」
学園長が門を開けてくれて、外に出ました。学園の前には真っ直ぐに続く広い道路があり、その先は霧に隠れてしまっています。門から少し離れた道路脇に立つと、
「では、繋げるとしようか。開け異次元回廊」
すると学園長の目の前に、学園長の背丈と同じくらいの大きさの鏡が現れました。
「ソフィー、しーちゃんに連絡してくれるかな」
「はい」
しーちゃんへの通話を切ってすぐに、鏡の表面が揺れ始めました。その中から一人の女の子が飛び出してきました。その勢いのまま、パフッとソフィーのところに飛び込んできます。思わずぎゅうっと抱きしめると、女の子のポニーテールがふわふわと揺れました。嬉しそうに頬ずりしてくるのがくすぐったいです。
そうっと呼びかけてみました。
「しーちゃん?」
すると、パッと女の子が顔を上げました。タブレット越しに見ていたのと同じ笑顔がそこにあります。
「うわあ、本当にソフィーちゃんだ! 信じられないよ! はじめまして。あたし、小鳥遊詩雛。しーちゃんです!」
元気な声を聞いて、ソフィーの胸が喜びでいっぱいになりました。
コラボも10話目となりました。少しずつですが、ブクマと評価もいたたいています。ゆっくり更新としては、まずまずではないかと思っています。もうすぐで100pt。
次回いよいよしーちゃんが嵐を巻き起こします。お楽しみに。お気づきの方も多いでしょうが、現在このコラボは箱庭の最新話とリンクしたり連動したりしながら進んでいます。本編で幻想世界へ行く前に、しーちゃんが学園に飛び込みます。
本編ともども読んでいただけると嬉しいです。まだ先にはなりますが、れーちゃんや他のメンバーも登場してきます。コラボですから!
それではまた2週間後の10時にお会いいたしましょう。