やっぱりにしのみやこはにぎやかだ
私たちが大阪に来た理由。それは敦雅の血筋による物らしい。
大阪は西の鎮守とも言われている巨大な風水装置としての役割も与えられた都市だ。。
大阪環状線と、地下鉄御堂筋線で、近畿地方にある、京都や、熊野、四天王寺や奈良と言った強大な霊場から清らかな気を集め、濃縮している。
さらに帝都に次ぐ人口一千万人という莫大な都市人口の持つ陽の気も乗る。
そして、その気を東に送っている。東へ送られる気は大阪駅から東海道線を介して、米原で北陸本線を経由する系統が分かれ名古屋で東海道本線を運ばれる系統と中央本線を流れる系統が分かれる。
そのうち中央本線の系統は山岳地の清らかな静の気を取り込む。これに重要な役割を持つのが、諏訪湖。
瑞穂の持つ気の中で最も清らかな気の貯まっている地の一つであるこの諏訪湖で、大阪から来た気はいっそうその浄化の力を強める。
元々水は、陰も、陽もまとめて気を溶かし込む。この諏訪湖も多くの陰陽問わず様々な気が溶け込んでいるが、諏訪大社によって、陰の気は陽に書き換えられる。
そんな諏訪湖に入る少し手前の塩尻で、北から来る2つの鎮守の気と合流する。長野の善光寺と松本の松本城。
二つの霊場は、静動異なるものの清らかと言うことでは一致している。信州というこの辺り一帯の名前が通ずるものの名にふさわしい、瑞穂で最も清く穏やかで強い気を発している。これらは篠ノ井線で、塩尻へ運ばれる。さらに北陸本線を経由していた米原で分かれた系統も、合流している。
塩尻で出会った山海の気は諏訪湖で一つとなる。
その昔、長野の霊場善光寺の目の前、川中島で激闘を繰り広げたと言われ、今もなお若い男性のあこがれを集める武将の一人。
山梨に本拠を構えたと言われる、武田信玄のお膝元を通り、その猛々しく勇ましいながらも、穏やかに美しく優雅で、強く清らかな気はいよいよ帝都東京に入 る。
新宿を過ぎ、山手線の内側に入った気はそのまま丸の内へ。
陛下の名の下に帝都を清め、そこから関東、果ては瑞穂を清め高める気の流れが形成されているの。
敦雅の血筋は代々、この集められた気を東へ送り出す、ポンプである、大阪駅近辺の霊的な加護を行う、巫女の血筋。
敦雅は歴代の巫女を含め、一族の代々の女性の中で、最も力があるらしい。
敦雅はその血筋の本家跡取りの娘らしいの。つまり、跡取り問題の相談に乗って欲しいという事だろう。
「ちがうんや。分家に馬鹿がおってな、それの制裁に力を貸して欲しいんや。」
思ったよりも軽い内容だった。
「レーイー。MPDSの使用許可降りたよ―。」
そもそも対大型兵器用防衛兵器であるMPDSを、人間に対して使用するのはいささか抵抗があるが。まあ我慢しよう。
「ここや。」
敦雅が指した家。というよりもお屋敷だった。何十年か後、敦雅はこの家に住むことになるのだ。
まあそんな事おいておいて、とにかくでかい。門をくぐると、広がっていたのは自然を利用した鉄道模型のジオラマ。よく見ると奥の方には見覚えのあるものがある。
波形の大屋根。大阪駅だ。
そして敦雅はドヤ顔、姉はもうジオラマをじっくり見たくてうずうずしている。私は庭の池に興味津々で、ある地点で一行は停まってしまった。
「なんで外にあるんだ?」
「実際の気象状況で、動かすことで、実際に霊脈、地脈が、どのように交通機関に影響を及ぼすのかを見ているのだよ。さて、敦雅。よう来たな。」
「じっちゃん!いきなり哲雄が暴れてるじゃ焦るや無いか。」
敦雅の祖父の案内で広間に通された一行。
しかし、リートさんとリールさんは、縁側から空を見つめて動こうとしない。
[どうしたの?]
「この星では星間船は実用化されていますか?」
[まあ、月とか火星とかに行く分には。]
私の応えに少し険しさを増す2人の顔
「それで、この国からは出ていますか?」
[羽田発オリンポス行きとか、羽田発静の海宇宙港行きとかはあるよ。
でも、オリンポス行きはドイツのフランクフルト国際空港経由だし、静の海行きはヒースロー経由とシャルル・ド・ゴール経由がある。
瑞穂上空は、星間船航行制限領域になっていて、瑞穂の各空港から、直接宇宙に出ることは禁止されてるんだ。]
「なら良いのですが。」
リールさんが難しい顔をしている
「どうしたの?」
「…いえ。いずれお話しします。」
「今話した方がいいよ。」
話を濁そうとしたリールさんに対して、話すよう促すリートさん。
「解った。皆さんお聞き下さい。
現在、我々の世界の戦艦が瑞穂上空三万六千kmの静止軌道にいます。連絡を入れましたが何の応答もありません。
目視による計測ではおそらく、我々が所属する国家の旗艦専用級の戦艦である確率が高いです。」
[目的は?]
「不明です。通常、全ての世界には、特殊な情報処理システムが張り巡らされています。
我々の種族はそこからある程度自由に様々な情報を引き出せるのですが、この世界にはそれがないんです。」
「どうしてか知りたいかい。」
聞き覚えのある声。しかしいるはずのない声に全員が庭を見る。そこには斉藤さんがいた。
「この世界にはあのシステムはないよ。世界の中心となるこの星がシステムの受け入れを拒否したから。」
[前にも聞きましたが、斉藤さんは何者なんですか?]
「わたしゃ、君たちと同じ種族同じ組織のものさ。階級は違うけどね。」
「もしかして田中さんも?」
私の問に頷く斉藤さん。
「本当はもっと後に明かすつもりだったんだよ。でも、陛下に提出した報告書から陛下が何か胸騒ぎを覚えたみたいだねぇ。」
斉藤さんが言う陛下とはあのパーティで会ったとても綺麗な女性のことだろう。
よく見れば、斉藤さん、雰囲気だけじゃなくて実際に浮いている。
「陛下は、各世界の中心惑星が持つ、システム受け入れの是非を決める権限を抹消した。だからあれがいる。」
そう言って、さっきリートさんたちが見つめていたあたりの空を見上げる斉藤さん。
一体何があるんだろう。
斉藤さんも混じって、帝都から来た私たちをもてなしてくれる敦雅のおじいちゃん。
「本題に入ろう。哲雄が暴れているのはおまえにも話したが、それによって、庭の要石が砕けてしまった。それも十個全て。」
「なんやと?」
「このままでは三百年ほど前の大震災の再来となろう。」
三百年前の大震災。
それは、皇紀2655年1月に起きた、阪神地域をおそった大震災だった。
この震災は、瑞穂の耐震技術の高さと、結束の固さ、秩序や治安を優先する市民の意識を世界に広く知らしめた。
また、その16年後に東北をおそった、さらに大規模な地震では、その復興の早さから、極東の奇跡とまで言われ、
現在、太平洋沿岸部の東北、東海道、山陽、鹿児島本線沿線は、高層ビルが建ち並ぶ一大都市が築かれている。
「要石を直す方法はないんか。」
「無い。」
「とは言えないなあ。」
敦雅のおじいさんの言葉につなげるように言う斉藤さん。
「要石の一つはありますか?」
斉藤さんの問に怪しみながらもかけらを持ってくる敦雅のおじいさん。
「これを真ん中に置く。」
それは、丸い、SF映画に出てくるような機械だった。
「@^\'#%#&#&#%$$%#。」
いきなりなにを言い出したのかと思えば、リートさんたちの世界の言葉だ。
斉藤さんの言葉に驚きを示すリールさんとリートさんだったが、頷いた後、いつの間にかつなぎ目無く復元された、要石を持って、庭に出る。
「何をしようというのだ。」
「我々の世界には創造主伝説が存在し、実際に創造主が存在します。
そして、創造主は、全ての世界にある情報処理システムのネットワークを張り巡らし、全ての世界の情勢を常に把握監視しています。
あの機械はそのネットワークの世界ごとの基幹となる端末の卵です。」
そう言って、要石から手を放す。落ちると思い駆け出す、敦雅のおじいさん。
でも、石はいっこうに落ちない。ふわふわと、リートさんとリールさんの胸の高さで浮いている。
2人はまたあの言語をしゃべっている。途中北欧神話に登場するものが、聞こえたが、何なんだろう。
「端末を展開してもいなくならないなんて。」
「……レイ君。一つ聞かせてくれないか?」
いつになく深刻な顔をした斉藤さんが私に声をかける。
「君は、確か、この国の軍隊とともにこの国の情報インフラを整備したんだよね。」
[はい。]
「そのときに管理システムとソフトを組んだのは君だね?」
私が頷くと、
「そのソフトを渡してくれたまえ。彼女たちに。」
突然の発言に首をかしげていると、
「早くしたまえ。早くしないと、この世界が消滅する。」
「どうしてですか?」
「本来、彼女たちが要石に埋め込み展開したシステムは、その世界の状態を安定させ、
創造主の持つ、膨大な+のエネルギーを各世界に送り込むために地脈と天脈に介入し回路を形成することを目的に開発されたものさ。
今まで我が国は、各世界の状態を見るため、各世界に猶予を与えていた。
でも先のパーティーで、君たちに会った我が国王陛下は、この世界の中枢となるこの惑星の中でも非常に重要であり、中心となるこの国の元首と出会い、彼から情報を得た。
この世界が、非常に不安定であり、早急に手を打たねばならないと。
だからあのシステムに関する猶予を撤回し、強制的にシステムの中にこの世界を組み込むことにした。」
[解りました。]
[ねえ敦雅。テツオさんてどんな人?]
「一言で言うと久留里線や。」
[「え。」]
首をかしげる私たち。
「ネットスラングで言う池沼という奴の一人だろう。」
「どうして久留里線がその池沼というのになるんですか?」
「久留里線はファンの間ではぱー線とよばれている。くるりからくるくるパーになって、パー線だ。
くるくるパーは馬鹿を指す言葉だったりもする。」
[某巨大掲示板群では、普通の、周りが節度ある対応をしてきたおかげで、社会に適応した障害者とは別に、障害者と言うだけで何でも許されると思ってる増長した者を嫌うの。
そのうち知的障害者でそう言う増長した人たちのことをチショウと略して呼んで、さらにそこに当て字をし訓読みをして蔑称であると解らなくしているの。
それが池沼。]
一生懸命社会になじもうとがんばっている障害者の方達をさげすんだりする気持ちは毛頭無い。でも、障害者だから、何をしても許されると考えているあほどもは大嫌いだ。
「テツオが、来たという事はあのあほどもが来てるんやな?」
敦雅が苦々しげにつぶやいた。
「ああ。安心せい。おまえに継がせるものは既に確保されている。増えはすれど、減りはせん。」
「あんな、自己中に鐚一文たりともやったらあかんでおじい。」
そんな会話を楽しんでいたら、いきなり、リートさんとリールさんの表情がかなり険しくなった。
「きた。」
リートさんの言葉に合わせて空気の流れが一瞬にして変わる。まるで、この屋敷の塀に沿って外の大気と切り離すかのような結界が張られたかのように。
「やあ。さっきは何も言わずに消えてしまって申し訳ないね。田中に頼んで、この国の天皇陛下を迎えに行って貰ってたんだ。それよりも、凄い物をつけた奴が この屋敷の前をうろうろしてたよ。」
「しばらくは、大阪にとどまることになると思うよ。鈴ヶ森学園の大阪校に協力を依頼したけど、君たちのことだ。高校レベルの教育はもう終えているんだったね。
それに、一応全ての科目で優秀な成績を修めている、先生もいるからね。なにも心配することはない。むしろ、僕と斉藤は2人の高級士官のことを心配してるんだ。」
田中さんの言葉で私は斉藤さんたちは、リートさんリールさんを良くも悪くも監視していると理解した。。
田中さん、何故か、今回は、東京府指定の大容量ゴミ袋40L版をかぶっている。
「こいつは、正装時は、必ず20L型の、黒いゴミ袋と、有る芸人のゴムマスクをかぶるんだが…今日はどうした?」
「こっちには売ってなかった。で、これを買ったんだ。」
そう言って、田中さんが取り出したのは、大仏のゴムマスクシルバー。
これには、緊迫した空気が一瞬にして緩む。特にリートさんは緊張の糸がほぐれたのか腰を抜かしたようにへたり込む。
のはいいの。そのまま、リートさん、池に落っこちちゃった。
気がつけば大阪3日目だ。お姉ちゃんは近畿圏の鉄道に乗りまくるし、リートさんは、おっこったときに仲良くなったか知らないけど、池の魚といつまでも見つめ合ってるしで。
私もどこか行きたいと行ったら、成人してる4人に、ダメだと言われ渋々待機。
[せっかく大阪に来たんだよ。私だって、憧れの日本橋とか行きたいよー。]
「レイの気持ちもわかるが。」
そう言って、羽魅先生が話し出したのは、私の未来に関わる話。
羽魅先生は先の天皇陛下の御視察において皇室氏神でもある天照大神より星の守護巫女なる存在が現れたこと。そしてその星の守護巫女に私が選ばれたことを告げられたと教えられたそうだ。守護巫女は西暦で1000年ごとに現れる。でも、前の守護巫女の登場から500年ほど、守護巫女が出なかった。
前の守護巫女の死後1600年の月日が経って、私が生まれた。私は歴代の守護巫女の中で最も強い力を宿していた。
馬魅達の家系はかつて守護巫女を守る軍巫女の家系で有り、馬魅もまた歴代の軍巫女の中で最強だった。
惑星の守護巫女とこの国の守護巫女の波動により、今大阪の気が乱れてしまっている。
そのため、異界から派遣された、守りの巫女と攻めの巫女の2人の気で沈めている。
という話をされた。護りの巫女がリールさん。攻めの巫女がリートさん。リートさんが常に私の側に居るのは、攻めの気で護りの気を中和するためらしい。
「リトエルスの言葉ではあと2時間もすれば、この街の気になじむからそしたらお詫びもかねて日本橋でおまえの欲しい物を好きなだけ買ってやると言っていたぞ。」
もちろんそんな事で機嫌が悪いわけじゃない。さっき慌てて敦雅が戻ってきたの。下着が見えるほど服ぼろぼろにして。
「哲夫が生産者と一緒に居った。会長に戻ってこないよう伝えてんか。」
どうやら、哲夫なる男とその親に襲われたらしい。
『緊急通達が出た。MPDSをアップデートしたという事だ。君とリーフェルト嬢のバージョンではP.G.Wベースの比率が高くなっている。故に思う存分戦うといい。』
王族の方々から、一言だけの伝言だが、皆内容は異口同音で同じような物だからまとめて言う。
『そんな卑怯者は、遠慮せずにやってしまえ。』
それと、レイ君好きの殿下から伝言だ。『思いっきりやった後は一族郎党まとめて転送しれ。こっちでも思いっきりいてこましたる。』
がんばれ。』
いきなり聞こえてきた斉藤さんの声に私たちはびくっとしたがそれ以上に目が笑っていない満面の笑みを浮かべたリートさんの整った顔ははっきり言って、恐怖でしかなかった。
そのときに聞こえてきた声で、リールさんの顔がこの笑顔のまま凍り付く。
『あなたを見守る者から報告を受けてあなたへの回線を開いています。
今、あなたたちの上空にいます。』
聞き覚えのある優しくもりりしい女性の声。
誰に言われること無くリートさんが敦雅が襲われたこと、大阪に来た経緯などを小声で報告する。
『…そうですか。そちらにそんな馬鹿がいましたか。たーいへんでぇすねぇパーティー会場で国守の巫女と星守の巫女を守るというあなた方にしたお願いを果たせますね。
…解りました。じゃああらたにめいれいをします。しっかりと覚えて、一言一句違わずリールフェルトにも伝えてください。
セーランガイル・ササガシマテツオ・エル・バイサイル。ヴェイルP.G.Wセンディオール。
あなたがリールフェルトに伝えるまでは回線は開いておきます。』
「リール。キーケイライア・バリオロイス。『セーランガイル・ササガシマテツオ・エル・バイサイル。ヴェイルP.G.Wセンディオール。』 A.Iアプリポート。レイさんもMPDSを準備して下さい。3人で、敦雅さんを襲った愚か者を懲らしめましょう」
[それはいいけどなんて言ったの?]
「リールに行った言葉ですか?『陛下から直接の命令を賜った。『笹ヶ島哲夫を完膚無きまでにたたきのめし成敗せよ。必ずP.G.Wを使用すること』A.Iのアップデートもあるよ。』って言ったんです。」
後で聞いたら、かなり過激な内容だったから、言葉を濁したと言われた。
リートさんとリールさんのMPDSは数世代前のバージョンから瑞穂皇国軍兵器工廠開発班では無く、LWCTという一般企業が設計開発製造を行っているらし い。この会社は軍需産業なんだって。
私と、リートさん、リールさんが、MPDSをつけて、馬魅が生身で、敦雅の実家を飛び出すと数十m先の四つ角にいた。
[あれが笹ヶ島哲夫か。顔写真通りだ。]
「私の息子を呼び捨てにするなんて、あなた何者なの。」
[えっと。]
私が戸惑って停まるとリートさんたちが一歩前に出て停まる。そして、半透明のグラスウィンドウが展開する。
『リトエルス、リールフェルト…。』
グラスウィンドウに映し出された女性に見覚えがある。
女性が体の前に持ってきた白と黒で綺麗に塗り分けられた何かの標識。姉を除く全員が解らないでいた。
「2人とも制限解除命令が出てるぞ。」
後で姉に訊けば、この標識は鉄道において制限速度の制限が解除される地点にあるものらしい。
青と白で塗り分けられていた、2人のMPDSはそこに緑が混ざった。
『突然現れてごめんなさいね。レイさん。さてと。ツェイロス・キーケイライア・ヴェリオス。スィーア?』
「「ス。スィーア。」」
これは、2人曰く承諾を示す言葉らしい。
「敦雅、いやかも知れないけど、馬魅のそばまで来てもらえる?お姉ちゃん、敦雅をお願い。」
「わたしは餌か。」
敦雅の声が聞こえたのだろう。哲夫がこっちに向かって走ってくる。
ドガン。
としか聞こえない音があたりに響く。
[死んだの?]
母親が金切り声あげて叫んでる。そんなに心配なら解放すればいいのに。
「転送命令が来るまではいたぶります。今は、声も出せず自力で動けないほどの衝撃を受けただけです。」
リールさん、顔が笑ってない。
「もちろん、正気を保っていられるぎりぎりのレベルでいたぶります。その上で、外傷内傷合わせ細胞単位で損傷がないレベルまで回復させてから転送します。」
今度はリートさん。
二人とも笑顔でいたぶっている。怖い。
「さっきは一体なにが起きたんだ?」
「リールさんの掌底突きが見事にあれをのけぞらせてそこに正拳突きが入ってぶっ倒れたの。」
『♪~。』
なんだっけ?あの、名前忘れちゃったけど、夕焼け小焼けの赤とんぼで始まる歌が流れ出す。
歌が流れてから、5分ほどして、ふと2人が上を見上げて、顔をしかめる。
『リトエルス、リールフェルト17時10分に転送を命じる。転送先はコーウェリア!』
今度は男の人の声がする。って17時10分って今じゃない。
うずくまる哲夫とそれに駆け寄る生産者を取り囲むようにシャボン玉のような光の膜が形成され、それが消えたときには、もそこには塵一つ無かった。
夕食は敦雅の実家に住んでいる敦雅の従兄弟家族と一緒にお鍋だった。
[やー。良かった良かった。]
「ようやったなあ敦雅。」
敦雅のおばあちゃんは今の敦雅の一族の本家当主らしい。
だから、普段は家の奥の書斎で、所有する不動産の経理や、法規処理などを行っているためあまり出てこないらしい。
「あんたが星守の巫女さんか?」
[は、はい。]
敦雅のおばあさんはとっても綺麗で、とっても穏やかな人だった。
「遠いところからわざわざ来て貰ったのにうちにとじこめてもうて、すまんなあ。
あんたの実力は私もしっかり見せてもうたからなぁ。これは、わたしの気持ちや。」
そう言って、敦雅のおばあちゃんが私に渡してきた、封筒を受け取り、開けてみた。
[げ。こんなに?]
「ポン橋いくんやろ?あそこは何せよ金が要る。孫を助けてくれた礼や。足りなんだらまたゆうてな。」
封筒の中には20万円の現金と500万の小切手が二枚入っていた。
「そっちのぴしっとした子達もや。大阪は何かと誘惑が多い街やからな。有るにこしたことはない。」
そのぴしっとした子達ことリールさんたちはというと、
「この天ぷらおいしい!」
「こっちの和え物もおいしいよ。ねえ、リール、後で作り方訊こう。」
おおさわぎだ。
今思えば、2人とも、この後に起きることを感じていたんだろうな。だから、それに対する不安を落ち着かせるためにこんな大騒ぎをしてたんだろう。
「レーイー。こんな物見つけたんやけど、いっしょにやらへんか?」
見つけたと言ってもトランプ。
「ふむ。まだそんな物があったんやなぁ。」
「何なんですか?」
「350年以上前のトランプや。西暦で言うところの1946年から48年ものだったはずや。」
敦雅のおばあちゃん曰く、このトランプは大東亜大戦直後の物という事だ。
「ババ抜きでええな。」
年が近い9人のババ抜き。
一人あたり5枚程度だからすぐに誰が婆を持っているか解ってしまう…ということにはならなかった。リートさん、リールさんから札を引く順になっている人は そのゲームが終わると、2人に降参する。
というのも、2人ともババを持っていたとき、ババを引かせるのがとても上手く、ババを引いても、顔色一つ変えないため、大体ババがどこにあるか解らなくなってしまうの。
「そこの…名前を訊いてへんかったな。そこのぴしっとした子達や。名前教えてくれへんか?」
「リトエルス・ラングロフォルト・アグリフニオリアートです。リトエルスとお呼び下さい。相性はリート、もしくはリトです。」
「サルバリエヌール・リールフェルト・リヌフォルト・リールシェル・フェリアバルドノル・グロニモヌートと申します。リールフェルトもしくはリールとお呼び下さい。」
確か、リールシェル・フェリアバルドノルという称号を貰ったとき、リールさん涙目だったな。
「リートはんにリールはんか。2人にお客さんや。ぱりっとしたスーツを着た田中と書いたゴミ袋をかぶってる人やそうやけど知り合いか?」
「[田中さんだ。]」
何度見てもとっても大きなお風呂である。
「ほんとに、自信なくすなぁ。」
敦雅がリートさんとリールさんの体を見てつぶやく。
「ほんとに、高校生?」
「高校生かつ軍人が3人だね。」
ジョークなんだけどジョークに聞こえないジョーク。
受け流してくれたみんなに感謝。
お風呂から出ると、その後はまさに修学旅行の様相を呈した。枕投げ有り、トランプ有り、恋バナ有り。
修学旅行の宿でやることのテンプレを一通りやった。
まあ、疲れて寝ちゃうって落ちもまんまなんだよね。
だから、これで次のお話