やっぱりこすぷれはまだはずかしい
藍蒼パステルヒルズ
この世界最大の総合展示場で、ここを7日間全フロア貸し切りで行われる同人即売会の初日に遥夢達は参加していた。
[すごーい。東京國彩展示場何個分だろう。]
「さーねー。」
ゆっくり言っても大丈夫という神子さんの言葉は、とある一角には当てはまらなかった。
既にコスプレが解禁され遥夢さん達も思い思いのキャラクターにコスプレしている。お気に入りのキャラクターにコスプレする神子さんと涼子さん。自分の外見に合わせたコスプレをするリンさん。自分のと同じ職業であるキャラになりきる摂津姉妹。そして遥夢さんは金髪に紫色の上着をまとっていた。正規さんはいつの間にか女性になり遥夢さんが分するキャラクターの従者であるキャラクターのコスプレをしている。
私たちは、神子さんから、外見や立ち位置なんかで適当にコスプレ衣装を渡されて、軽い台本なんかも渡されていた。
ここまで書くと、多分このイベントが何のイベントなのかは一部の人にはもうぴんと来てしまうと思うが、あえてここは想定している正式名を略して合同祭と便宜上呼称する。
「何度見ても可愛いなあ。」
『お写真良いですかー?』
『ポーズお願いしまーす。』
いろんなコスプレが集まり至るところでシャッターが光る。すぐに遥夢さん達の周りにもカメラマンが集まってくる。
「全く。よくもまあ飽きもせずにゴロゴロと集まれるわね。」
口調まで変化して自分が分したキャラになりきる遥夢さん達。
涼子さんは自分が人妻であることを巧く利用している。
リンさんは自分の髪の色と髪型を利用し、真朱彌さんは自分の職業を利用している。
自分が男性であることを逆手にとってアレンジしたコスプレをする人物も居り珍しさも有り人気だ。
遥夢さんたちは大体の変換時間が3秒から5秒ぐらいであることがわかり、こまめにイベントのカタログを見ては、着替えている。
「あれ、馬魅ちゃんと羽魅ちゃん。こんなところで何してるの。」
「レイの修行のお供だよぅ。」
現れたのは馬魅と羽魅先生の母親の、尾束雪子さん。15歳で羽魅先生をうんで、子育てしながら現役で大学に合格して医師免許まで現役で取った凄い人だ。
それで今はこの世界の医学技術を学ぶために留学をしている。
「お母さんは何してるの。」
「何かテレビのニュースでやってたから来てみたの。この世界って凄いのね。きちんと働いていたりきちんと授業を受けてさえ居れば欲しい物が買えるのね。」
私たちが遥夢さんの方を見るリートさんとリールさんは元々この世界の人だから馴れてるらしく気になった物や欲しい物はどんどん購入していく。
「ん?…就労証明のことですか?3元界のほぼ全ての地域では「働かざるも食うべからず」の原則に則り購買行為には政府から就学者、就労者にのみ発行される 就労証明が必要です。
基本的に就学者の購買行為は生活に必要な衣食住に関わる物品や、その学生が専攻する分野における必需品は無料で最高品質の物が提供されています。が、お菓子や、専攻外の物に関しては料金が発生します。
まあ、就労証明は発行日から1ヶ月間は、何でもかんでも買い放題ですから。
あ、でも就労証明にもランクがあって、買える商品の質が変わってきます。」
遥夢さんの説明に納得する私たち。
[あれ?涼子さんの持ってる刀がいつもと違う。何かすごいきれい。」
「わかる?これはねぇ、(このあと10分ぐらい語られたので中略)ってこと。ちなみに価格としては30億サフィル相当ってところかな。
サフィルはこの国の通貨単位だって。
[へーその30億サフィルって円に直すといくらなんですか?」
「「30億円円!」そのまま通常の為替レートを無理繰り適用すれば、4980兆円になって、瑞穂の国家予算の約50年分だね。」
「国家予算の50年分!?その剣が?」
「ちょっとした事情があって、玉蒼藍と紅赤華という二つの剣を蒼紫皇という一本の剣にたたき直したんだけどそれはいくらかかったっけ。」
神子さんさんが遥夢さんに問う。
「3兆5600億サフィルかかりました。どちらも超高純度の希少金属合金だったので、融解に必要なエネルギーと材料費を考えるとかなり破格の値段だと思います。」
「当時の相場だと本来はいくらかかったと思う?」
「2桁違うと思います。おそらく293兆サフィル相当。現相場で換算すると、2536京サフィル相当でしょうね。
円相場に直すと…4兆2097億6千万年分の瑞穂の国家予算に相当します。1=1変換なしだと1サフィル=166万円の変動無し永久固定レートですから。」
途方もない金額に私たちは腰を抜かした。
実際には詳細な金額も聞いたのだが完全に環境依存文字としか言いようが無い文字が存在するため省略する。実際の金額は 420穣976秭円相当らしい。
「ところで神子さんや、今回の戦利品はどれくらいになった?」
「平均的蜜柑箱400箱分。うち同人50箱。」
「「…重いだろそれ。」」
なんでミカン箱なんだろう。それとミカン箱でも、どのサイズなんだろう。(後で聞いたら2Lサイズだった。)
「姉御はどれくらいになりました?」
「俺の話を偶には聞け。」
そもそも正規さんは話を始めてすら居ない。
それに本人も気づいたのだろう。苦笑いをしている。
平均的蜜柑箱はよく年末にスーパーに行くと、蜜柑M玉やらL玉やらが何十個も入って1980円やら2980円やらで山積みになっている段ボール箱のこと。
引っ越しや仕送りの際に重宝されるこの箱だが、同人即売会でも重宝する。まして、これが、亜空間倉庫を自由に操る遥夢さんたちの種族なら、その中に蜜柑箱が何千、何万個も山積みになっていてもふしぎではない。
それにしても平積みか立て積みかは判らないが同人誌を目一杯に詰め込んだ蜜柑箱50箱とは一体この民族衣装を着た人はいくら同人誌を買い込んだのだろうか?
「200万サフィル?!同人誌だけでか?いや、新刊だけってのは判るけどよ。グッズは?」
「4800万。」
「合計五千万も使ったのかよ。」
「いやここではそんなんざらだぜ。現金で払う方が馬鹿ださ。」
確かに周りを見回してみても、所属を示す物。つまりは身分証を伏せた形でICカードリーダーにかざしている姿が至る所で見受けられる。
「就労証明の読み取り装置は後援のLSNからの無償貸与だからサークル側も楽になったよね。」
「金銭譲受に関するトラブルが減って、ほんと商売しやすくなったよ。」
「其処しみじみとお茶会しない。」
正規さんが突っ込む。
「そういや今日6時から居酒屋で打ち上げに参加するんだけどみんな来るよね。13人追加可能かって聞いたらOKきたからみんなの参加前提ですぞ。」
相変わらずこういうことに関して予定を強引にねじ込むのが巧い神子さんである。
「イベント終了の合図と共に手分けして今回の打ち上げに出るサークルさんの撤収を手伝います。」
「組み分けは既に済んでいますし、先方との話もつけてあります。一回事前説明もしましたよね。」
何と遥夢さんとリンさんも共犯だったようだ。
「「…言われてみれば。」」
どうやら私たちの世界に来る前直前の話らしい。私たちは片付け終わった道具類をサークルの人の車へ運ぶ作業を手伝うことになった。
まあ、みんな馬魅の怪力とバランス感覚には驚いていた。
片手で5つ積み上げた中身満載の段ボールをまるで発泡スチロールを持ち上げるかのようにひょいと持ち上げもう片方も同じようにして数十m離れた駐車場に足取り軽く危なげなく運ぶというのを何十往復もこなせば驚くか。。
それでも荷物が多い。というのも遥夢さんと神子さん、リンさん、涼子さんの4人は自分の会社の後片付けにかり出され、その荷物もあったためだ。
まあ私たちも手伝ったら、それぞれの会社からは臨時のアルバイト代と、もみくちゃにされてかわいがられるというおまけがあった。
全ての荷物が片付け終わり私たちが関わったサークルさんの撤収が終わっても、まだまだ、開催時とそんなに様子は変わりなかった。
それほどまでにたくさんのサークルが居たのだ。
「このホールのこのフロアだけで5万サークル居るからなあ。」
「全体だとどれくらいですか?」
「多分京は超えんじゃねーかな。」
神子さんの回答に私たちは度肝を抜かれた。
「お疲れ。そろそろみんな移動するみたいだから君たちも移動しよう。」
神子さんさんがここに来て真っ先に向かったサークルの主催者の男性が声をかけてきた。それをきっかけに私たちは移動を始める。
藍蒼市内のとある居酒屋
「「お疲れ様でしたー。」」
サークル参加、一般参加、立場は違えど一つのイベントを共に楽しんだ上での打ち上げは格別である。
それぞれに頼んだ飲み物で乾杯。つまみもいろいろ。さらに、普段は男だけという集まりに突如飛び込んだ女性陣うち2人は人妻といえど全員が20代以下の外見である。話は自然と盛り上がる。
楽しい時間はあっとゆう間に過ぎお開きとなる。
「「またお会いしましょうね。」」
またいつか会えるといいな。でも世界が違うから。
「レイさんたちが就職する頃には、きっと自由に行き来できますよ。」
このあと、昨日入ったあの巨大風呂で呑み直しと、神子さんが言い出し、それに遥夢さんと真朱彌さんが乗っかり、二次会状態になった。
翌朝
「頭いたー!」
お酒を飲んだわけでもないのに頭ががんがんする。
「寝不足だな。」「ねぶそくやねー。」
正規さんのテナーボイス。お陰でちょっと落ち着いた。
私たちは朝風呂に入っていた。考えることは皆同じなようだ。
ボチャン!
何かがお湯の中に落ちる。
「うりゃ。」
「ひぁ。……な、なに?」
うなじに何かとっても冷たい物が当てられる。
「そこに見える大きな川の上流域に有るわき水をあの山の山頂近くにある氷室で浄化処理した後精霊界の雪山できんきんに冷やした水で作ったサイダーと原水。おいしいよ。」
[今日は行かないんですか?]
「今日以降は自由参加。」
そう言ってお湯に深々とつかる神子さん。
「せっかくだし玉京行ってみるかい?」
正規さんがこういうことを言うのは非常に珍しいらしい。
「ここよりも魔導界の方が、覚醒に必要な霊素なんかは濃いだろ。それに、解析技術も向こうの方が高いし、近くにブガルもある。今ならブガル皇室が来訪中らしいからおまえの一言で協力してもらえるはずだ。」
「…そう、ですね。せっかくですし、言ってみましょうか。」
どうやら遥夢さん、入浴時は厳守じゃない限りは、素っ裸ではいるようで、立ち上がりかけで、お湯にぷかぷか浮いていた神子さんさんに濡れたバスタオルを投げつけられていた。
「同性が多いとはいえ少なからず異性も居るんじゃ。
いくらきにせんちゅうても限度がある。せめてレイさんたちと一緒の時ぐらい水着着ろ。ただしビキニの方なその方が正規が喜ぶ。」
「おい、でたらめを…言う…な…。」
「「結局尻すぼみで喜ぶんじゃんか。」」
「ほんとに遥夢さんのことが好きなんやね。あーあ。私にもええ人みつからんかなあ。」
真朱彌さんがぼやく。
「姉御の場合必ず番犬が四六時中くっついてるから難しいかと。」
そう言って神子さんさんの視線が涼子さんに向かう。
「それに結婚の挨拶とかその他諸々の手続きするにしても摂津博士もそうですが、国王の重臣というだけで相手が怖じ気づいちゃうので残念ながら。」
「真顔で否定せんでもええやないか。それとも何や?私に彼氏作って欲しくないんか?」
列車の中で自分はどちらかというと同性好きと言っていたけど、冗談なのかな?
「姉御もミラの姉御も一人の女性ですから、恋人を作って子供を産むって言うごくごく一般的な幸せを望まれるでしょう。
でも絶対そこの番犬のせいでかなり後 になります。まあ、番犬が許す相手なら、人格も、能力も、知識も、容姿も、本当に申し分ない素晴らしい人物になると思いますよ。」
「姉御の趣味と研究内容を理解してくれるないし理解できる男って今のところ、敏明とか墨さんとか10人くらいしか見たことない。」
つまりすごい女性なんだ。
「よし墨さんの話題も出たこと出し行きますか。」
大体物事の提案は遥夢さんか神子さん。計画を詰めるのは正規さんが仕切り実際の行動は神子さんが仕切っているようだ。
藍蒼から列車で別の世界へ移動する。
[何かすごいのどかですね。]
何かの作物が育つ畑の中を走る列車に乗って私たちはこの別世界にある遥夢さんたちの国である蒼藍王国の同君連合となっている宗国と呼ばれる国の首都玉京経向かっている。目的はその玉京の中央駅が目的地への経由地だから。
玉京の中央駅を経由し精霊界と言う世界に入る。世界一つが一つの国となっているこの精霊界に到着すると、そのまま、欧州的な町並みを抜け、この世界の外交を司る他界外交省へ向かう。
精霊界他界外交省の建物に入り神子さんを先頭にどこかへ向かう私たち。。
『だーかーらー。後でするって言ってるだろ。』
『後でするなら今やれ。』
なにやら口論が近づいてくる。
「ことわる。」
「こ・と・わ・る。じゃねー。」
ゴッ!
いやーなおとがする。
「お、おお、おおお。こ、腰が。」「う゛、う゛う゛う゛う゛、う゛う゛、」
一組の男女が廊下で頭と腰を押さえてもだえていた。
遥夢さんたちの大学の同期で有人だという。頭を押さえている女性が秋子さん。腰を押さえてもだえていた男性が辰也さんと言うそうだ。
神子さんが聞いたところでは、急ぎではないが飛び入りの仕事を後回しにして食事に行こうとした秋子さんに仕事を終えてから行けという辰也さん。
その言葉を無視していこうとした彼女に辰也さんが豪快なジャーマンスープレックスを仕掛けた。
のは良いのだが、馴れないことをする物ではなく、彼は腰を痛めたようだ。
「「相変わらず仲むつまじく馬鹿やってるなあ。」」
「「夫婦漫才やってる奴らに言われたくないわ。」」
「飯まだなら一緒にいかねえか?」
正規さんがお誘いをかける。
「姉御も一緒かい?」
「ああ。」
辰也も真朱彌や、彌蘭陀のことを姉御と呼ぶ。感染源は神子さんであるが。
[大丈夫ですか?]
私は、2人に声をかける。秋子さんの方はどことなくボーイッシュな印象を受けるが、間違いなく胸の盛り上がりなど女性だ。
「あ、ああ。ありがとう。腰いてえ。」
「ほい。」
神子さんが、涼子さんに170cmくらいのマネキンを投げる。
「な、何?」
「おまえ、よくうちにかけるやん。お手本見せたり。」
「後悔しても知らないよ。マネキン相手だから最大出力でやるし。」
何故マネキン相手だと手加減無しなのかはおいておいて、涼子が、マネキンを使い見事なジャーマンスープレックスをみせる。
相変わらずこういった一連の流れを作り出すのが巧い夫婦である
食堂で昼食を終えた一行は、2人を同行させることにした。同行を言い出したのは御山夫妻。
まあ決まった者はしょうが無いという事で玉京に向かうことを承諾した秋子さんと辰也さんを加えた一行は2つの世界を繋ぐ浮き船に乗り込んだ。




