#8
「手伝う?何を?」
「色々さ、料理、洗濯物を干すのでも畳むのでもいい、掃除、畑仕事、する事は沢山ある、生活していく上での仕事っていうのは案外多いし、大変なんだぞ」
「でもそれは、俺の仕事ではない、それは館の民の仕事だ」
「民?館って?」
俺の言葉に男は歩を止め、不思議そうな顔をして問い返してきた。
「館は俺の住んでいたところだ、民は俺たち以外の住民だ、お前が今言った事は、普通そういう奴らの役割だ」
「君、頭でも打ったの?」
そういうと俺の後頭部を擦った。俺はその手を払いのけ、睨み付けた。易々と触る物ではない。俺を誰だと思ってる。
「俺は南の館の第二王位継承権者だ、馴れ馴れしくするな!」
「それって、王子様ってこと?」
またしても男は俺の言葉に目を丸くした。そして、徐々に頭の角度が下がっていく。
何かあるのかと思うと、身体が小刻みに震えている。俺は少し後づさる。何かするのかも知れない。そう思った時だった。
「ひゃははっっ!!王子様?君が?そんな馬鹿な!?」
男は腹を抱えて笑い出した。どうやら、さっきの震えは我慢をしていたらしい。それを見て俺は頭に血が昇る。
「何がおかしい!俺は本当のことを言っただけだ!」
「はは、でもさ王子様、だったら一人でこんな所で何をしてるの?従者も従えないでさ、それに君が王子である証拠も、何も持ってないでしょう?」
目に涙を一杯ためてその男は問いかけてきた。俺は男に、右腕を突き出して見せた。
右手には指輪を嵌めている。それは特殊な石で、誰でも持っているわけではない。
石に認められない限り、その石の本当の力を引き出すことも出来ない。
「秘石だ、我が館に古くから存在している特殊な能力を秘めた物だ」
男はまじまじとそれを眺める。中央には真っ青な石。周りはシルバーかプラチナか分からないが、それは館の紋章を模っている。
勿論この世界の者は分からない、それすらも偽者だと言われてしまえばそれまでだが、そこまでの頭は俺には無かった。
「悪かったよ、そこまでむきになるとは思わなかったからさ、ごめん、独り暮らしが長いとこうして構いたくなるんだ」
申し訳なさそうに苦笑して俺の手を押し返す。喧嘩の腰を折られたようで、俺も何だかばつが悪い感じだ。
男はそれから何事も無かったかのように、また流しに向かった。
今日は米を炊いているらしい。いいにおいがしてきた。俺は腰を下ろし、料理をしているその背中を眺めていた。
これと言って何をしていいのか分からない。それが第一だった。
テーブルに並ぶ料理は昨日より沢山あった。それは勿論、俺の分、あと男の分も入っていたからだろう。見かけない料理も多々ある。
地上と館と、できる物が違うのだと、思い知った。
そういえば昨日食べた麺も、館のとは違った。
ただ漠然とそんな事を考えていると男がやっとそろえ終え、俺の正面に座った。
「はいでは手を合わせて、頂きます」
箸を持ち、そう言って一礼すると、食事を始めた。何かの儀式かと思った。
ボケッとしている俺に男は「食べれば?」と声を掛けてきた。
俺は見よう見まねでさっき男がやったとおり、手を合わせて食事を始めた。