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#7




「君、後片付けを手伝って・・・ってもう寝てるの?」



足音が頭の上まで響いていた。でも目を開く事は無かった。


俺は既に睡魔に襲われていたのだ。こんなにも落ち着いて眠りについたのは、どれ位ぶりだろうか。その中、俺は優しい腕に抱かれている錯覚を感じた。


暖かく、柔らかい。まるでそう、兄様の腕の中のようだ。優しかった兄様。


今貴方は、貴方の居る故郷は、どうなってるのだろう。


心配すら俺にはする権利は皆無なのだろう。両親が亡くなり、忙しくなった最中、それを捨てて逃げてきてしまったのだから。


それでもこの腕はこんなにも暖かく懐かしい。空気も、歩調も、兄様その物だ。



「兄様・・・」



夢の中、俺は兄様を呼び止める。こちらを向いて、穏やかに笑う。


俺には制限なく愛情を与えてくれた兄様。手を伸ばしても届かない。空を切る。


俺は遠くなっていく兄様について行こうと必死で走った。そして、落ちた。ベッドから。



「・・はれ?何で?どこだここ」



見慣れない天井。ベッド。風に揺れているカーテンすら、考えてしまう。そしてやっと自分の置かれている状況を思い出した。



「ああ、村だ」



ゆっくりと身を起こし、ベッドによじ登る。


半分壊れているようなスプリングが何ともいえない。


例えボロくても、穴が開いてようと、敷いてあるのがせんべい布団だろうと、こうして柔らかい布、綿の上で眠れる事が幸せとも思えた。


暫く、転がり、その柔らかさに身を委ねていた。そしてごろりとまた天井を見た。ふと、手を伸ばすと違和感を感じた。


袖がない。はっとして起き上がる。全身を見ると着ていた衣類が全く違う。


というか着ていたものを着ていない。と言うべきだろう。寝ている間に身包み剥がれたのだ。あれは俺の一張羅だ。


あれしかない。盗まれたのだとしたら、たまったものではない。あれには他にも大切な物が隠されているのだ。


どこにいる。あの男は一体どこにいるんだろう。慌ててその部屋を飛び出した。そこには廊下と階段がある。


どうやらここは二階らしい。他には二扉が二つ。開くと、一つは天井が無く、崩れているところを見ると使っていない。


また直す時間や余裕がないのか、そのままだ。


もう一つの部屋は、ベッドがある。そして小さい棚。それくらいで、窓辺にカーテンがある。寂しい部屋。


どうやらここがあの男の過ごしている部屋らしい。これといって怪しいものはない。


だが身元が分かるようなものもない。その部屋を後にすると、突き当たり左にある階段を降りる。


確実に、且つ急ぎ足で。そこは薄汚れているが、最後で右へと曲がっていた。そこは、俺が壊した玄関の手前だった。


昨晩は暗かった所為か、他に気持ちが行っていた所為か、全く気がつかなかった。


玄関の崩れ方を見て、少し胸が痛んだ。ふと、外から風が入る。


それと同時に、鼻歌が聞こえてくる。広くなった玄関から外を見る。


そこには洗濯物を干している男の姿があった。しかも干しているのは俺の着ていた物だ。



「やあ、起きたね、おはよう」



俺の存在に気が付いた男は、そう言って笑うと、残っている分を干し始めた。外は見事なまでの快晴で風もある。


洗濯日和、という物だろうか。まるで異世界にでも来たかのようだった。



「それ、俺の」



「うん、そうだよ、失礼かと思ったんだけど、なんていうのかね」



洗濯籠を持って家の中へと入ってきた男は、言いにくそうに俺の頭からつま先までを一瞥した。そして鼻の頭を掻いている。



「何だ、言いたい事があるなら言ったら良いだろう」



「それじゃあ言うけど、お世辞にも君は綺麗な格好をしていなかったし、頭から体から砂埃が凄くて、服もマント、かな?これも凄くてさ、元は黒だったんだね、半分白になってたから分からなかったけど、僕、そのままベッドに入れるのは嫌だったからさ、起きてる内に脱いでもらおうとしたらもう寝てたし、どうかと思ったけど、勝手に脱がせたよ」



それだけの台詞をかむ事も無く、ほぼ一息で凄い勢いで言い切った。


あまりの早口に、俺は唖然とした。つまりはあれか?俺があまりにも汚いから、ひん剥いた、と?我慢の限界だったから洗濯したぞ、と、そういう事か?



「君自身も汚れているね、流しで頭洗うかい?それとも・・」



「失礼な奴だ!だったら起こせばよかっただろうが!人をばい菌みたいに!」



「でも、本当の事でしょ?その服は僕のなんだ、少し大きいけど、小さいよりましだよね」



男はけろりとそう言い返して笑った。どうせ俺は小さい。栄養不足なんだから仕方ないだろうが!と言ってやりたかった。


パンツすら俺のものではない。同じ男だから遠慮なしか?


上はランニングだろうか、恐らくヘソが隠れるくらいまでの丈なのだろうが、俺が着ると太ももが半分は隠れる。


男として、プライドを著しく傷付けられた。そんな気がした。



「まあそう怒るな、これからが成長期なんだし、個人差はあるし、とりあえず昼飯に近い朝ごはんでも作って食べるかね、ああ、今日はちゃんと手伝う事、僕の家に居る限りは、それだけは守ってもらうよ」



膨れている俺の頭を軽く叩くと台所へ向かいつつ言った。


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