武器について
「鍛え上げていく中で完璧に覚醒をするかも知れない、あくまでそれは可能性であり、というだけで絶対ではない、賭けの様なものだ、それでも、このまま時間をかけて覚醒を待つだけでなく、身体だけでも鍛えあげ、覚醒を終えた時、それに似合うだけの体力をつけておくんだ、少なくとも武器は成長をする、そういった仕組みになってるからな」
「武器の成長?」
不思議そうな声で幼が問い掛けてくる。そう、武器は二人の武器。成だけのことではないのだ。
「そうだ、元々は膳の兄的存在が造った物だ、それに俺が手を加えた、最初に結界を強めに張っておいたのはその武器自体がとても強い力を持ってしまっていたからだ、秘石という、秘めたる能力を持った石を加工したのだ、それ故に、持つ者に合わせて武器も成長を遂げていくのだ」
「要は、新しい武器は一生要らない、という事か?」
「そうなるな」
秘石は、誰でも持てるものではない。その上、とても珍しく、俺は館以外でそれを見た事はない。実際、膳の兄弟分は怖ろしい勢いで食いついて来た事もあった程だ。まあ誰が見ても綺麗な石だとは思うが、それだけではないのが何よりの特徴だろう。
「武器よりも持ち主であるお前等が弱くなれば、武器に食われる、侵食される、そうなったら最後だ、武器に身体を乗っ取られ、自分の意志では動く事も出来なくなる、そうなりたくなければ常に強くある事だ」
「食われる・・・」
武器を眺め、呟くように言う幼。勿論、嘘だ。そんな物ではない。だがその位脅かしておかないと成長できない。それに、そんなあり得ない事を信じてしまうあたり、やばい証拠だ。
「形も変わっていくのか?綺麗な形をしてはいるが、形で言い現すならば、鉄板の様だ」
「根本的に形はそんなに大きく変化は無い筈だ、だがお前達が俺の想像を越える様な成長をすれば、武器もまたそれに見合った成長をするだろう、そんな事が起これば、俺も面白い」
まだ見ぬ武器を思い描き、笑みが零れてしまいそうになる。何よりこいつ等の成長が楽しみなんだ。時間に限りが無ければ、それこそ根本から仕込みたい。そういう思いで鍛えて行く。複雑だ。何回考えてもこれだけは残念でならない。
「ガートさんも膳さんも、ゲーム感覚で考えてます?」
不審そうな目をして幼が問い掛けてくる。中を読まれているのか?心眼を持ち合わせるものなんて早々居ない。実際、そうではないとは言えないが、遊びではない。膳に関しては命を懸けているのだ。
「俺に関してはどう思ってもらっても結構だ、膳の事は俺に言うな、俺には分からない、だが…」
「はい?」
「悪く言うならば手加減無しでお前等を潰すからな」
「…はい」
先程の膳の時同様、固まる。膳は俺の命と同等。それの命を捨ててまで庇う命。想いが通じなければそれは報われない。
それではあんまり酷すぎる。命の重さは、こいつ等も分かってる。だから、最後には理解するだろう。俺の思いも、膳の願いも。ふと、ベッドに横たわる膳に目を移す。寝ている。
朝から強烈なショックを受けて精神的に参ったのだろう。最も、それを与えたのは、俺だが。今度は唸る事もなく、静かに呼吸を繰り返す。
後僅かしか生きられないなんて、誰も思わないだろうその寝顔が、胸を切り裂かれるような思いだ。
『お前の思い通りになんてならないだろう、でもお前はきっと貫くのだろう、今度こそ後悔をしないように』
叶えてやりたい。俺が手を貸すことで、力を貸すことでそれが可能ならば、あの惨劇を二度と繰り返さないために。じ、と眺めて居ると少し寝返りを打つかのように身体を動かす。小さく声もする。「うう」位の、何の意識が無くても出るような、そんな感じの声だ。
「ああ、ガート」
ふ、と目を開くと、俺と目を合わせ笑う。寝起きの笑顔は、何時もの笑顔と違い、ほっとする。目覚めてくれた喜びと、何と言ったら良いのだろう。
子どもの様な、幼さが見える感じだ。膳は目を擦り、ゆっくりと上体を起こす。そして暫くじっとして、それから辺りを見回し、「あ、そうだった」と呟いた。
「ガートの料理で落ちたんだね、僕」
都合の悪い事を思い出したようだ。勿論、俺にとっての、だ。成は、膳が目覚めた事で先程の事を思い出したのか、空気が固まるのが分かる。顔を見なくても、今成の表情も硬くなっているのが分かる。素直な反応だ。
「お前だけだよ、気を失うほどショックを受けたのは、ガキ共は食ったぞ」
「嫌だなあ、凄い勇気だよね、あれを食べるなんて、幾らそれすら大切な食料だって分かっていても、躊躇っちゃうなあ」
ため息交じりで頭を掻きながら言う。こういう所を見ると、本当に変わっていない。それに心が和む。そう感じ取るのは俺だけじゃないだろう。
先程の鬼気迫った膳とは違い、ほんわかとした膳を見て、三人も安心している。特に、成が。見るからに安心はしていないが張り詰めた空気が解けた。
膳は決して怖ろしいくらい能力が強い訳ではないが、こうしてそこに居る者達を安堵させる力がある。そういう暖かい空気を作り出せるんだ。それも、また特殊な能力だと俺には思える。何しろ、俺にはないからな。
「どれ位寝てた?僕」
「さて、十分か、二十分か、そんなモンだろう」
目を擦り、瞬きを繰り返す。そして俺に摑まり、ベッドから降りる。気を失う前に座っていた椅子に向かいまた腰を下ろす。
俺の役割は手すりだった様だ。膳は、まだテーブルの上にある皿を見る。元からそんなに沢山作ってあった訳ではないが、もう無い。
俺は一つも食ってないから、三人がそれだけ食べた事になる。膳は、一つ息を吐く。それが安心なのか、残念なのか分からない。
身を乗り出してまで見ていた所を見ると、まだ興味があったのかも知れない。まあ、人とはそういうものだ。怖いもの見たさがあるんだろうな。