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#5



「なあ、お前を雇ってるっていうのは、一体どういった連中なんだ?」



息を呑んだ。まともに返してくれるか分からない。仮にも俺は敵なのだ。焔は腕を組んだまま、


少し考えるような表情をした。



『ま、いいか、オレあんまり関係ないし『都市』(とし)だよ』



「『都市』?それって大きい町の名称っていうか、それが組織の名前なのか?」



『違いねえ、確かにおかしい名前だがこれがぴったりなんだ『都市』はとある村の中心核の中へと入り込み、そこに居た連中全てを洗脳し、村全てを乗っ取ったんだ』



だから『都市』か。そのものずばりな名前な訳だ。気違いの集まり、って訳だ。



「という事は俺がさっき殺したあいつは」



『ああ、『都市』の者だったか村人だったか、ってことか?どっちでも変わらないさ、本人の意志なんて微塵も残っちゃ居ない、単なる操り人形だ』



でも、俺は人を殺したんだ。それだけは、変わらない。


もしかしたら苦しみぬいて、心の底では意志が残り、必死で打ち勝とうとしていた者かも知れないというのに。



『ガート、お前人の心配している場合じゃないぞ?』



考え込んでいた俺に焔が深刻そうな顔をして言った。



『オレがここに来たのは、確かに余所者が居て、仲間が殺されたからそいつの代わりに余所者の始末、それだったが、お前間違いなくもう『都市』の頂点、あるじに存在がバレてる』


その一言で、我に返った。主。懐かしい呼び名。『都市』の主。かなりな能力者だということ位しか分からない。



『お前能力ちからが強すぎる、存在感が大きいんだ、間違いなく主はもうお前の気を拾っている、とはいえオレ以上に能力が長けているものは主以外にはいない、それに主自ら動く事は殆ど無い、だから安心は出来る』



運がない。早く言ってしまえば、ただそれだけの事。


だが焔に会えたのは運がいいと言えよう。俺だけでは知ることが出来なかった情報が入ってきたし、気持ちを落ち着ける事も出来た。


問題はこの先どうするかだ。


無意識に腕組をして考え込む。それを見て焔は笑った。



『ガート、まあ落ち着け、いい事を教えてやる』



そういうと俺の肩を軽く二・三回叩くと、遥か彼方を指差す。見渡す限りのその砂漠を。



『この指の先、ずっと真っ直ぐ進むと村がある、やっと生きているような小さな村だ』



「村?人が居るのか?」



『襲われていなければな、っつっても片手に余る位かも知れないけどな』



その指は、焔が言うには南らしい。今まで進んできた道とは違う方角になる。だが無心で進め、と言われた。



『村はな、少し前に『都市』の被害を受けたところだ、だからあまり期待をしないほうがいい、だが小さく気配を感じ取る事は出来る、まぁ少なくても一人や二人は居る事だろう、そこで落ち着けばいい』



笑ってアドバイスをする殺し屋。本当に焔は人を殺した事があるのだろうか?無論身体から染み出てくる能力の強さを見れば、かなり強い。


異能力者は今の世では珍しくはないだろう。だが、それでもかなり上だ。


純粋に殺しが好きな者だったら、出会い頭で殺されていただろう。出会ったのが焔の様な性格で救われた。



『じゃあな、生きてたらまた会おう、ガート』



笑って俺の出発を見送る焔。その笑顔の裏には、計り知れない冷酷な顔を持ち合わせているとは、とても思えない。


そして、敵である俺を逃がす事で、焔が本当にお咎めがないのかどうかが心配だった。だが、そう問いかけたところで笑って流すに決まっている。


一度聞いた以上、二度も同じことは聞けない。今はただ焔に言われたとおり、南に進む、それだけを考えるしかない。



『それにしても、ガートは暑くないのかね?オレは自分の能力だし、慣れてるけどさ、こんなに暑い地はそうそうない、でもまあ、あれだけ強ければまた会える確率は高いな』


既に南を目指し歩を進めていた俺は、その後の焔の行動を見ていない。


見たところで、きっと何も変わらないだろうし、気持ちは南に向いていた。焼け付く砂漠を、また歩き始めた。


それでもずっと歩いていた頃よりは、幾分気持ちが楽だった。休んだからか、水分を摂ったからか。


また、焔という人間に会ったからか。全てがそこに結びつく事だろう。


村があり、そこにはもしかしたら生き残りが居るかもしれない。


そういった希望が、俺の中に沸き立ち、抑え切れない衝動になっていたのかも知れない。足取りは軽い。


この先には、光がある。ずっと独りだった。それでも構わない。


そういう思いから旅を続けていたのは確かだ。しかし、それは思った以上の孤独との戦いだった。


昼間の焼け死にそうな暑さ。夜の冷え込み。誰かが居れば、例え苦しみでも分かち合える誰かが居れば、苦しみだけではなかっただろうに。


お互いを支えにして、生きる事も、出来たのだろう。それでも、故郷を捨て、旅を選んだのは自分の意思なのだ。


今更引き返せない。焔は共に進むことは出来ない。だが、この先会うかも知れない人間は、共に過ごす事が出来るかも知れない。


この先の人生、共存できる相手かも知れない。


そう考えたら、足は勝手に早くなる。見えもしない村が、もうそこまで来ているような、そんな気がした。


焔に会ってどれだけが過ぎただろう。水はボトル一本の半分を切り、食料も後僅かだった。その間、崩れ落ちた村は幾度か見てきた。


建物の影が見えるたび、あれだろうか、ここだろうかと期待をしたり、嬉しくなったりした。だが全て、廃墟だった。


食料はおろか、建物すらまともに存在していない。希望も、消えかけた。それでも焔の言葉を捨てきれない自分があった。


甘え、弱さ、そういったものだろう。一度とはいえ人と接してしまった。その上でまた、他にも居る。


そう思ったら、諦めきれない。食料も水もある。


きっとまだ先なんだと自分に言い聞かせた。幸い、焔にちょっとしたアドバイスを貰い、今までよりは砂漠での旅が楽になった。とにかく暑い。


だから無駄に水を飲まないようにしたり、なるべく衣類で影を作り進む。


冷え込む夜は、ありったけの衣類を身にまとって、体温を温存した。


そうする事で次の日の日中は、幾分楽に動けた。そんな事を繰り返していた数日後、俺の目には不思議な物が見えた。枯れていたが、


それは木だった。砂漠に木は生えない。いや、全くないとは言えないのだろうが、俺は見たことが無かった。


そしてその元を見てみると、そこは砂ではない。土だった。そう、砂漠の終わりだった。


崩れるように足から落ちる砂。それとは全く違い、足を踏み込む事の出来る、土。地面。


どれだけぶりの感触だろうか、少し痛みも感じる程の硬さに、少し驚く。


木へと近付き、触ると、それは既に水分が欠片も残っていない。乾いた木だった。それから辺りを見渡した。


岩があったり、枯れ落ちた木々がある。それくらいで、建物の残骸は無かった。だが、それでも南を目指す。


違う地へと来れただけでも、進展をした、と言う事になるのだ。食料が尽きた。残るのは数センチ入っている水だけだ。


木が生きていれば、その根っこだって食べられないわけではない。


焔を信じる気持ちと、弱さで参ってきている気持ちとが複雑に絡まりあっていた。


不意に、風が吹いた。砂漠とは違う、涼しい風。


それに乗って何か懐かしいような、鼻を擽る様な匂いがしてきた。


これは、緑の匂いだ。田畑の匂い。それに釣られて、更に進む。


既に日が落ち、目は殆ど利かない。見えたところでそれが本当に植物なのか、それすら分からないような状態だ。




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