芋虫の飼育(案)
「でも、まさか芋虫とは思いませんでしたよ」
「ねえ、でも意外と食べられるわね、膳さんが言うように見てくれはあれだけど、こうしてしまえば気にならないかもね」
そういうと二人はまた芋虫を食べる。珍しい物に引かない。膳はその姿を見て強さも感じ取っただろうが、それ以上に気持ち悪い、という思いの方が勝っている様だ。まだ暫くは寝かせておこう。
「そのまま食べたって言ってたけど、丸ごとそのまま火を通さずに食べたの?」
「ああ、意外と口の中でプチッて弾けて、独特の甘みっつうのか、あるんだ」
「へえ」
「へえって・・・そこは突っ込むところだよ?」
膳が死に掛けた声で言う。だが、誰もそれに対して反応はしない。なるべく聞かないように心がけている様だが、気になっているのも確かのようで、怖い物見たさとでもいうのか。
ちらちらとこちらの反応を気にしている。それを見てしまうと、思わず余計にそういった話をしたくなるのも、人の性という物だろう。
「今度試してみると良い、ただ体液が服に付いたりすると落とすのは大変だぞ、なるべく一口でいける位の小さめの奴を捕らえて、食らった方がいいな」
「これみたいに炒めたりする時は、切った方が良いの?それともガートさんみたいに乾燥させてから切った方が良いの?」
「まあ、切らなくても炒めれば多少は縮むし、大丈夫だろう」
「切ったとしたら、その分旨味が逃げてしまいますよね」
「大丈夫だろ、一緒に野菜を炒めたり、穀物を炒めても良いし、旨味をそれが吸い込むからな」
最初は、膳を驚かすためだけに用意した芋虫だったが、意外にも幼と砂希羅は食いついて来た。流石、料理担当者だ。
成は何も言う事無く幾つか摘んでは食っていた。何とも無愛想な奴だ。それでも、何かを考えてはいるのだろうが、全く読めない。
「それにしても、芋虫が食べられるなんて、知りませんでした」
「お前等も殺してたのか?」
「殺しては居ないわ、気にしなかっただけよ、でも、放っておいた芋虫はどうなるのかしら」
「どうなる?」
「だって、死骸を見た訳ではないし、かと言って他の虫になったって所も見たこと無いし、どうなるのかしらって」
とても不思議そうに砂希羅は問い掛ける。確かに、俺もそんな事は気にしたことは無い。どうなるのだろうか。
「気になるなら、試してみれば良い」
後方から低い声が届く。久方ぶりに口を開いた成だ。ああ、喋る事が出来たんだったな、などと思ってしまう。
「要は放っておけば虫がどうなるか、分かるだろう、捕らえて箱にでも入れて見るのでもいいがな」
「飼育ですか?楽しそうですね」
ぱん、と手を合わせて嬉しそうに言う幼。だが、自分で提案をしておきながら成はムッとする。
「馬鹿を言え、そんな時間があると思っているのか?今日にでも修行が始まると言うのに、そんな余裕が何処にある!」
大声を出し、幼を罵倒する。その声に幼は怯み、俯いてしまう。それを見て砂希羅は「まあまあ」と二人の間に入る。
「そんな大きな声を出さないで、貴方が言ったんじゃない、だから幼だって喜んで、それをそんな風に返しては可愛そうよ」
「あり得ない話で喜ぶな、自分の立場を弁えていない証拠だ」
「成が珍しくそういう事を言うからでしょう、良いじゃないちょっと位」
「お前がそうやって甘やかすから、幼は十五にもなって覚醒もしないんだ!」
怖ろしい剣幕で今度は砂希羅にまで悪態を吐く。相当いらついて居る様だ。