料理の材料は?
「正解」
「・・・っ!!」
凄い形相で席を立ち、流しに向かう膳を寸前で止める。
「おいおい、どこに行くんだよ」
「離せ!気持ち悪い」
「ちゃんと食ったろう?今更何を言う、美味かっただろう?」
「お前、嫌がらせにも程があるだろう?!」
そう言う膳の目は涙が滲んでいる。ちょっと遊びが過ぎたようだ。成以外は、膳の様子を見て動揺している。成は、まだ皿を見ている。
「生き物・・・芋虫?」
問い掛ける様に呟く成。ずっと考えていた様だ。そしてそれは…正解。
「良く分かったな、大正解だ」
「芋虫?それって、あの畑に居る、野菜を食べてしまう虫の事?」
「それを、食べたのですか?僕等は」
成と俺の言葉に、二人はマジマジと皿を眺める。相当驚いた様だ。そして膳は、本気で気分が悪くなった様だ。暴れる事も無くなり、ぐったりとしている。あれ、やりすぎたか。と、少し反省。
「ガート、お前ねえ」
成の座っていたベッドに膳を寝かす。膳は唸る様に声を出し、俺を睨む。そしてため息を吐く。成を外し二人は、心配そうに見ている。
「脅かすにしても、やり方があるだろう?よりにもよって、芋虫って…」
元気が無いが、その割には良く喋る。相当ショックだったんだろう。口元を押さえる。しかめっ面をする。きっと、元の姿を想像して更に気分が悪くなったんだろう。
でも、元のあれも、中々美味そうな姿をしていると俺は思う。コロコロ太らせて、そのままでもいけるし、火を通しても美味いし。いう事ない食材だと思う。
「あれだって貴重な栄養素だろう?たんぱく質っていうのか?一応肉じゃねえか」
「肉?あれを肉だって言うの?無茶言うなよ」
怖ろしく驚いた顔をして膳が叫ぶ。そして布団を被る。だが、今の世の中で、こんな虫だって食える。それを俺は知ったし、知って欲しかった。それに膳に食わせたかったのには、別に理由があった。
「膳、お前、唯単に芋虫嫌いだろ」
ぴくり。と布団の中で膳が動揺しているのが分かった。図星だ。
「おかしいと思ったんだよ、芋虫に関してはお前必要以上に敏感だったし、野菜を採りに行くのはいつも俺だったし」
「どうなんだよ?」と布団を突く。膳は、微動だにしないが、ゆっくりと布団から顔を出す。
「だってさ、怖いだろ?」
「は?」
「気味悪いだろう?あの模様とか、動きとか、関節も骨も無くて、あり得ない動き方じゃないか!触った時の感触も、もう耐えられない位気持ち悪い!」
凄い勢いで言う。これには流石に成も驚いたようだ。幼も砂希羅も、目を丸くして、瞬きをやたらとしていた。
元に戻ってから、膳がこんなに喋るのは初めてで、大きな声を出すのも初めてだ。元々おっとりした性格だから余計に驚いたらしい。かく言う俺も驚いている。
「だから殺したんだ」
「そりゃ殺すでしょ?あんなに変な生き物」
「だが、俺達の野菜を食べて育ったんだ、変な物を食べてる訳ではないだろ?」
「まさか…試しに食べたのか?」
「お前が、石になってからな、暫く畑を放っておいたら芋虫がすげえ育ってて、美味そうに見えたから」
「何だよそれ」
がっくりと肩を落とす。確かに、きっかけなんて他愛も無い事だ。だが、色んな意味で勉強になったのではないかと思う。俺にとっても膳にとっても、今此処で育っている三人にとっても。
「何事も挑戦だろ?試してみなければ分からないだろう」
「そうだけどね、本当にガートには驚かされるよ、昔から」
苦笑いして言う膳。それを見て三人も安心したようだ。