最高の嫌がらせ(食べ物は大切に)
「あれ、何か良い匂いがしてきたね、ガートは火のつけ方を知ってたのかな?教えてあげたの?砂希羅」
「いいえ、私は何も」
「自分で点けたんじゃないのか?能力者だろう?」
「確かに能力者ではあるけれど、あいつの能力は半端じゃないよ?台所が吹っ飛んでなければ良いけど」
「爆発音はしてませんから、恐らく大丈夫かと」
テーブルを囲み、口々に失礼な事を言っている。だがそんな事は正直どうでも良い。今は目の前にある食材を如何に旨く料理として仕上げるか。それが問題だ。
これが何か知らず口にして、そしてこれが何だったのかを知った時のあの四人の顔を思い浮かべるだけで面白い。特に膳。あいつに誰より多く食わせたい。皿を探し、それを大雑把に盛る。鍋は流しに放り、適当に洗う。
「出来たぞ」
テーブルの上に皿を置く。成は相変わらずベッドに腰を掛けていた。ちらりとこちらを見るが、それ以外動きは無い。可愛げの無い奴だ。
幼と砂希羅は、不思議そうに皿を覗く。
「これは何ですか?」
「見た事ないわね、昔の食材?」
じっと見たり、匂いを嗅いだり、落ち着きがない。恐らく、料理の担当はこの二人なのだろう。まあ最も成が進んで料理をするようには見えない。思えない。
二人がそわそわしながら質問してくる中、膳も首を傾げていた。分からないんだ。そう思うと笑ってしまう。
「食べてみれば良い、美味いぞ」
そう言うと、砂希羅はヒョイと一つ摘み、口の中に。良く噛み砕き、味わっているところを見て、幼も続く。
「何だろう?何だと思う?幼」
「うーん、分からないです、食べた事無い食感です」
食べてもまだ分からない。首を二人して傾げる。成はそんな二人を見てやっと立ち上がり、皿の中のそれを見る。観察している。膳はそんな成を見つつ、手は出ない。
「膳さん、貴方なら分かるかも知れませんよ?昔食べた事があるかも」
口の中の物を嚥下し、膳に食べるよう進める。『良し、ナイスだ』等と心の中で思いつつ、平常心を保つ。迂闊に笑ったりしたら、恐らく膳は気がつく。
何を考えているか、そこまではばれない自信があるが、突っ込まれると困る。膳は一度俺を見て、そしてまた皿に目を落とす。そして恐る恐る手を伸ばし、一つ摘むと少し躊躇しつつ口へと運ぶ。この時俺は心の中でガッツポーズを取っている。
『やった!食った!』
「どうだ?」
「ん〜・・・分からないよ」
そう言いながら口が動く。顎が動いている。良く味わっている証拠だ。三人が食べ、「分からない」という。成は一番最後にそれに手出す。
砂希羅と同様、すっと掴むとポイっと口へと運ぶ。何とも面白い。警戒心という物がないのか。成の場合は全員が食べた後だから心配ないという点もある。が、砂希羅は一番手だ。
普通もう少し躊躇するのでは、と思いたいところだが、まあ毒ではないから、何も言わずとも良いだろう。全員が食べた所で俺も食べる。久しぶりの食感と味わい。
多少鮮度は落ちしてしまうし、味も落ちるが、まあこんなもんだろう。噛み応えもあるし、塩を振るう程度で十分な味わいになる。
「で?結局これはなんなの?ガート」
一人納得しながら指を舐めていると、膳が不思議そうな顔をして聞いてくる。
「僕は食べた事無かったんだけど、何時こんな食材を手にしたの?」
「何言ってるんだ、お前も知ってるぞ」
「え?知ってる?でも食べた事なんて無いよね?」
はて、とまた首を傾げる。三人も、さっぱり分からず、また料理を見て、そして考え込んでいる膳を見る。どれだけ見ても、三人は分からない。膳は、ふとまた皿を見て、俺を見る。そして、はっとしたかと思うと「まさか」と呟く。
「何だ?分かったのか?」
意地悪くそう問い掛けると、膳は言葉を濁す。
「ガート、お前まさか・・・あの生き物、か?」
顔面蒼白で、恐る恐る聞いてくる。それを聞いて三人は「あの生き物?」と顔を見合わせる。俺は何より膳のその顔と反応が楽しい。
ああ、これだよこれ。この顔が見たかったんだ。