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『都市』について

「お待ちしておりました、あれ、どうかしましたか?顔色が優れませんが」


玄関を開けて出迎えてくれたおさなが、不思議そうに首を傾げて問いかけて来た。


その対象は、俺とぜん両方だ。膳は乗り物酔い、とでも言うべきだろうか。


やはり急降下は効いたか?胃が持ち上がる感じがして、気持ち悪くなるんだよな。


やってる当人の立場だとそんなに感じないんだが、受ける立場だときついんだよ。


「いや、気にしないで」


「取りあえず座ってもらったら?」


「あれ、砂希羅さきら、もう来てるんだね・・」


家の奥からヒョイと顔を出して来た砂希羅に、膳が不思議そうに問い掛ける。


と言っても息も絶え絶えに、と言った感じだ。


「ええ、今朝ガートさんに送ってもらってから、そのまま居るわ」


「え?ガートに?」


「朝っぱらから騒動があったからな」


足元覚束無い膳の背を支えながら家の中へと入る。部屋の中心にあるテーブルと、その周りにある椅子。そこに取りあえず膳を座らせる。


「僕は何も知らなかったよ」


「俺が疲れたから、説明をしていなかっただけだ、無事だったしな」


「そうだけど、大変だったね」


「貴方もね」と笑顔で返してくる砂希羅に、膳は苦笑いをしていた。確かに今大変なのは膳の方だ。


「僕等がそわそわしている間に、ガートさんが助けてくださったんです」


「俺達が行っても良かったんだ」


ベッドに腰をかけてなりが偉そうに言う。まるで邪魔をされたとでも言う感じの言葉だ。


「何を強がってる、お前等が行った所で中に入る事も出来ないぞ?本当に窓の一つもねえ、殺風景な嫌な所だった」


「そうね、本当にあれは昔の私達の知っている『都市』ではないわ、本当に牢獄その物よ」


膳の正面に腰掛け、遠くを見る様な目で語る砂希羅。その脳裏にはどんな平和な過去が浮かんでいるんだろう。俺も立ち寄らなかった頃の


この村。そして『都市とし』に居た連中の性格が、想像できない。少なくとも、今のあの建物からは。


「何を言ってるんだ、『都市』は『都市』、今も昔もない」


「本当にそう思ってるの?私達に親切にしてくれた、とても優しい人達だったわ」


「だが村は襲われた、何処が優しいんだ、俺達を手懐け、侵入をし易くし、滅ぼしたんだ!」


凄まじい剣幕で成は叫ぶ。それを聞いていた幼も砂希羅も、その時の事を思い出しているのか、口を紡ぐ。目が泳ぐ。


「それでも」と砂希羅が重々しく口を開いた。


「違うのよ、成」


「何が?」


「・・・あの人達、全く知らない人達だったわ」


テーブルの上で手を合わせ、祈る様に落とす様に言葉が出る。


怒髪天になり、そっぽを向いていた成と、あの時の事を思い出して沈んでいた幼は、同時に顔を上げ、砂希羅を見る。


その動きは何となく面白く、そして砂希羅の言っている事が本当だと、俺は悟った。


二人は『信じられない』といった顔をしている。だが、心なしか幼のその目には嬉しそうな光も見えた。


恐らく、良い人達だったと思っていた人達とは違う連中が自分達を狙い、滅ぼそうとしたのだと。


自分達に良くしてくれた人達は、やっぱり優しい人達なんだと思ったのだろう。だが、喜ぶのは明らかに早い。


「どういう事だ?じゃあ当時の『都市』の連中はどこに行った?」


動揺しながら成は砂希羅に問い掛ける。当然出る疑問だ。『違う』ならば、そいつ等は一体どうなった?まあ、聞くまでもないだろう。


連中がどれだけ冷酷かを知っている。ならば、それは愚問と言う物だ。


「誰一人、居なかったのか?」


「多分・・・稜威りんい様って呼ばれてる奴が居た、あれがきっとおさなのよ、とても嫌な目をしていたわ」


稜威。つい先程まで正面に居た。歪みを挟んで、それでも強く感じた能力。


村に居た連中を仕留める事など朝飯前だろう。そしてあの兵隊。最初に殺した奴もそうだったが、人間ではない。


いや、元は人だったのだろうが、それは見てくれだけだ。良く見れば、元とは言え人扱いはしたくない。


身体は何処もかしこも隠れていて、指先すら出ていなかった。マスクにより声すらまともに聞けない。


何とも不気味な空気を持ち、気配を感じ取れない程の奴だった。だが、今なら間違いないと言い切る事が出来る。マリオネットだったと。


『『都市』はとある村の中心核の中へと入り込み、そこに居た連中全てを洗脳し、村全てを乗っ取ったんだ』


ふと、昔焔ほのうに言われた言葉が頭を過ぎる。本当の事だったのだ。


とはいえ、その当時の村と、今現在居るシグマの一族とはまた別物。


繰り返し繰り返しで同じ事をしているんだ。なんて低脳で、最悪な行為なのだろうか。


「探せば、居るかもしれないが、もし万が一居たとしても、中身は全く別人になってる、ならば会わない方がいい、死んだと思って居た方が救いになる」


「そんな」


「正直、あんな奴が敵かと思うと俺だって引きたくなるくらいだ、それだけ強い、間違いなく強い、そして今のお前等では、あいつの足元にも及ばず、触れる事も出来ずに殺される」


俺の言葉に唖然とした表情をする幼。祈るような姿勢で俯く砂希羅。


目を見開き、顔を強張らせる成。膳は、やはり絶望的な目で俺を見ていた。


その意味するのは、『何故そんな事を言うのか?』というのと『やっぱり駄目なのか?』だろうな。


確かに、酷な話だ。伝えるのももう少し言葉を選ぶべきだと言うのは分かる。


だが、稜威と出会い、痛感した。たった一年で、この三人をあれに対抗出来る程までに鍛え上げなければならないのだと。


もしかしたら、や、シグマの戦闘力を持ってすれば太刀打ちできる。


なんていう甘い考えはこの際根っこから引っこ抜いて無かった事にしなければならない。


心を鬼にして、鍛えなければならない。この際、膳に恨まれても、この三人に嫌われても、俺が鬼として接しなければならない。苦渋の選択だが仕方ない。



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