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報告

「って感じだった」


「そう、お疲れ様」


小屋に戻り、ぜんに全てを報告する。膳は棚に腰を掛けて「難しいね」と呟いた。


確かに非常に難しい事態だと思う。なりの言う事とおさなの思う所と、分からなくは無いのだ。


「取りあえず、明日また三人に会ってみよう、落ち着いた状態で話をしてみない事にはなんとも言えないしね」


「そうだな『都市とし』もいつまで大人しくしているか分からねえから、急ぎたい所だがな」


知っている限りの『都市』を思い出せば、そんなにのんびりは出来ない。だがしかし、捕らえた者が逃げ出し、それをまた捕らえに来ないとは限らない。


いや、きっとまた来る。その場合狙われるのは、娘・砂希羅さきらだろう。


癒しの能力がなくなれば、シグマの一族は生きていけない。


砂希羅だけでも非難させたいところだが、それすらも恐らく言う事は聞くまい。


ずっと一緒にいた訳だし、護るのがシグマの役割。きっと折れないだろう。


「で、僕らは今日ここで寝るのかな?」


「昔膳の居た家は解体されて、あの三人の家の一部になってる、つまり帰る家は無い、膳はずっと此処に居た訳だから此処が言わばお前の家だな」


「こんな狭くて汚いところが?」


「仕方ないだろう、迂闊に余所者が入り込んで来て、お前を壊される訳にはいかなかったから、俺だって頭を使ったんだ、廃材しか無ければ、こんな所に入ってくる奴は早々居ないからな」


「結界も張ってあったしね、まあ一晩で済むだろうからここでいいか、そんなに寒い時期でなくて良かった」


「なんだ、人に戻ったら寒さも暑さも感じ取ってるか?」


「嫌味だねえ、肉体が戻ったんだから当然だろう?」


「いや、そうじゃなくて、ちゃんと体が活動している様で安心した」


何しろ五百年も眠っていた身体だ。下手したら何一つ感じ取れない、人形のようになってしまっていてもおかしくないのだ。


それがちゃんと分かるって事は、人として生きている訳だから、それだけは安心できた。


「確かに汚いし狭いが、以前住んでいたところに比べたら損傷は少ないだろう?」


「そりゃあそうだろうね、あれは戦すらも乗り越えた家だったんだ、その後に作られたこの小屋の方が綺麗だろう」


「お前の居場所だからな、必死で作ったんだ」


「へ?ガートが?」


「そうだ、とはいえ、枠組みと屋根だけだがな」


しかも一部は崩れている。一緒に住んでいた様な家を作る事は出来なかった。


これが精一杯だった。単純に見えてもやはり難しい物だと思い知った。


長く生きてきて、やった事が無い事は自分の思っている以上に多かった。


「それじゃあ仕方が無いね、贅沢言わずに此処で寝ますかね」


そう言うと膳は床の廃材やガラクタを脇に寄せ、寝床の確保を始めた。


下は板が継ぎ接ぎであるだけで、何も敷いていない。そこまでの頭は無かったし、膳が戻る確率もとても少なかったから、諦めもあった為手抜きだ。


だが、今は少しでもそういった布切れでも用意して置くべきだったと後悔している。


「これを下に敷け、少しは違う」


マントを取り、膳に差し出す。それくらいしかないのだ。膳は少し驚いた顔をしている。


床は寝転がれるだけのスペースが確保され、そこに横になろうとしていたようだ。


「有難うガート、使わせてもらうよ」


館を出る時に羽織ってきたマントは最初大きかった。だから出る前に裾を括り、サイズを調節していた。


それを成長するにつれて、少しずつ解し、長くして今では丁度良いサイズになっていた。


だから膳が寝転がるには大きいくらいで丁度良いだろう。


「じゃ寝ますかね、ガートもほら、隣に寝れば?」


「俺は良い、外の様子を見ておく」


「心配性だね、二人でこうして共に過ごすのも久しぶりだと言うのに」


そういいながら膳は欠伸をする。そして暫くすると寝息を立てている。


こういう所を見ると、やっぱり生きているんだなと実感する。


変な言い方だが、また明日になったら、膳は石で、今日のこの空間が夢だったなんて事になるのではないかと、不安だった。

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