三人の視察
「どうだ、あの三人」
「強いと思うけど?君は?ジルヴァント」
「・・・呼び方を戻せ、ガートで良い」
「本当に?僕の事を怒っていたでしょう?だって僕は幾度か君を呼んだ、でも君は来なかった」
「そりゃ、そうだろ、もっと早くにお前が俺を呼ぶと思っていたから、だがお前は俺を呼ばなかった、それなのに、生きている連中が居ると分かって、必死で俺を呼んだ、それは虫が良すぎるだろう?」
自分の為でも、俺の為でもなく、全く関係ないもの達を護る為に、膳は俺を呼んだ。それが許せなかった。幼い感情だ。
「だけど、君だって思っただろう?それに君は、僕に嫌な事したしね」
「何の事だ」
「とぼけたね、僕の心眼を開いたままにしたくせに、あんな物開かれたら否が応でも外の世界が見えてしまうじゃないか」
「そんな、半径十数キロもないだろ、大した事ない」
「それに悪夢も沢山見たよ、彼らの事も、忘れずに見ることが出来た、でも何回も見ている内に彼らの本当の声が聞こえてきて救われたから、それは良しとするよ」
「そうかよ」
何の苦しみにもなってねえじゃねえか。それじゃあ。大体、あの三人は元より膳を恨んでは居なかった。
最期まで膳を、俺を想って死んで行ったんだ。
疑心暗鬼になって悪夢に魘されてしまう膳の気持ちを分からなくも無かったが、でもこんなに年月を経て、やっと分かってもらえる時が来たんだなと、思うと、彼らこそ救われているのではないだろうか。
「それより、幼っていったけ、あの子どうなったかな」
「さあな」
「見てきてよ、一っ飛びでしょう?君なら」
「忍者扱いかよ」
「勝てると思うけど?気配を消す事も、その身のこなしもね」
「分かったよ、ちょっと見てくる、っても、二十キロくらいあるんだけど」
等と呟き外に出る。膳には勝てない。それはやはり出会った頃を忘れていないからだろうか。
どうしても膳には弱いのだ。仕方なく、三人の住んでいる村へと飛ぶ。物の数分。
そこは以前俺達の住んでいた村。懐かしさが蘇る。
「成、幼は?」
「さあな、帰っていないところを見ると、また泉に行ったんだろう」
「そう、大丈夫かしら、幼」
椅子に腰を掛けて砂希羅が問う。成は渋い顔をしているだろう。
口調でそれが分かった。どうやら三人は共に暮らしているわけでは無い様だ。
俺達が住んでいた頃と少し変わっていた。この辺は、来ると思い出すからあまり寄らなかった。
その所為だろう。家が何軒か動いていた。俺と膳の家や、あの三人の家。
解体されて新しい家になった、と考えるべきか。
「成、帰って来てもあまりきつく当たっては駄目よ、幼は、優しすぎるわ、シグマの血を引いているとは思えない程」
「今のこのご時世で、優しさがなんの役に立つ?強さが一番だ、力も心も、優しさなんぞいらん」
「そうだけど、でもあの子はまだ覚醒もしていないんだし、これから変わるわ」
「遅すぎる、あいつはもう十を過ぎている、それなのにまだ兆しすらない、おかしい話だ」
だろうな、あれで覚醒しているとは思えない。ところが潜在能力の強さは成以上だ。
それだけは俺にも分かる。何処まで育つのか、それを楽しみにしたい。
それくらい、面白い存在なんだ。だが、泉とは、何処にあるんだろう。
神経だけを飛ばして、幼の様子も見ておかないと膳に怒られる。家から暫く進むと、光が見える。
水の光だ。ここは、俺達の頃にはなかった。移り住んでいた連中が少しずつ作り上げたのだろう。
雨もあまり降らない。地下水を噴出させたのかも知れない。綺麗な水だ。確かにそこに幼はいた。
手が、仄かに光っている。その手を泉に入れる。少しずつ水温が上がっていく。大気に揺らぐ熱が見える。
「凄いな、あの能力は」
「幼は、この世界をこれ以上壊したくないのよ、あれだけの能力を持ち合わせているのに、勿体無いんだけど、でも・・・」
「幅広いな、俺の持っている能力より、よっぽどあいつの持っている能力の方が広く、凄い物なんだ」
「優しいから、使えないのね、必要以上には使っているところを見たことが無いわ、そうなった時、きっと覚醒するのよ」
「いつになる・・それは」
「分からないけど、でもきっと直ぐに起こるわ、だからもう少し長い目で見てあげて、ただでさえあの時から貴方が急に厳しくなって、幼は混乱しているのだから」
どうやら、傍から見ても相当仲の良い兄弟だったのだろう。あの時、は『都市』に襲われた時から、といった感じか。
「俺達シグマの民には役割がある、それを護らずして何を言える?お前だってたった一人の生き残りなんだ、もしお前に何かあったら俺達はお前の両親や死した俺達の両親に顔向けが出来ない」
「全く、お堅い考え方ね、私はあなた達より年上なのよ?私が貴方達を護るのが当たり前なのに、貴方はずっと、昔から語り継がれて居る事ばかりを気にしている、それが良いところでもあるけれど、そんなにも重荷を背負わなくても良いのよ?」
優しい笑みで言う砂希羅。最年長、か。しっかりした女だと思う。
俺達の中に女は居なかったし、これと言って考えた事も無かった。
が、人間は確かに男と女とあったんだ、と再確認をした。まあ実際、砂希羅もそんなに女、という風ではない。
こんな世の中だから女とて女らしくなんてしていられないのだろう。それは、辛い事ではないのだろうか。